S&P500月例レポート(2019年8月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET: 2019年7月
●米中貿易摩擦の小休止、FRBの利下げ、企業の好決算が追い風に
「もっと高く。もっと遠くへ。私の美しい風船よ。」6月(6.89%上昇)に続いて7月も株式市場は上昇し(1.31%上昇、年初来では18.89%上昇。ただし7月終値は26日の高値から1.50%下落)、22営業日のうち8日間で最高値を更新しました。
ちなみに、ダウ・ジョーンズ工業株価平均も同様に最高値を4回更新しました。6月の相場上昇が5月の6.58%の下落からの反発であったのに対して、7月の相場を押し上げた要因として、次の3つのイベントが指摘できます。
第1に挙げられるのが貿易戦争の小休止です。追加関税の発動を一時棚上げし、中国との貿易協議が再開されました。
第2の要因は、米連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げに舵を切るとの見方が広まったことで、実際に31日の声明で政策金利の引き下げが発表されました。さらに、年内にもう1回利下げが行われるとの期待感も高まりましたが、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が近い将来の追加利下げ期待を牽制した発言をしたことから、市場は1日で1%下落しました(1%以上の下落は今年5月31日以来のことです)。
そして3番目の要因が、2019年第2四半期の業績見通しが既に7.1%引き下げられていた結果、決算発表を終えた326社のうち73.9%の企業で業績が予想を上回ったことです。
既視感を覚えるこうした展開は、既に3回目を数え、そしてウォール街は勝利宣言をしました。現に、市場を下支えしたのは決算における下半期の業績見通しで、貿易面の懸念が解消され、家計部門の消費活動が今後も続くようであれば、下半期の業績は過去最高に達すると見込まれています。当然のことながら、大いなる疑問は残されたままです。現在の相場はどんどん膨らんでいく危うい風船のようなものなのでしょうか?
こうした問いかけに対して、ファンダメンタルズは引き続き堅調だとの回答がなされてきました―といっても、これは弱気相場において「当局」が株価下支えのために用いる常套句ですが。景気に停滞感が生じている欧州や多くの新興国と比べれば、米国経済は依然として拡大基調を維持しているものの、そのペースは予想を若干下回っています。S&Pグローバル総合指数は7月に0.10%上昇しましたが、米国を除くと1.35%下落しました。年初来でも、前者の14.77%上昇に対して、後者の上昇率は9.95%にとどまりました。しかしながら、株価収益率(PER)は20倍近くまで戻しており、設備投資は過去最高水準に迫っているとはいえ、企業は依然として投資を手控えています。2020年の大統領選挙に向けたキャンペーンや討論会が本格化し、経済や政策に対する懸念が強まっているからです。
要するに、株式市場は昨年12月の取引時間中の水準に基づく弱気相場入りを乗り切り(弊社は終値ベースで弱気相場を分類)、あわや調整局面入りかという5月の下落も乗り越え、7月に入ると最高値更新を達成しました。現時点では、下半期の業績予想は堅調を維持しており(まもなく、小売企業の決算がスタート)、議会の休会入りも迫っていますが、振れ幅の大きい相場展開は今後も続く見通しです。それでも、乱高下しながら株価の上昇基調は続く可能性が高いと思われます。
過去の実績を見ると、7月は58.2%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は5.00%、下落した月の平均下落率は3.24%、全体の平均騰落率は1.56%の上昇となっています。来る8月は59.3%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.85%、下落した月の平均下落率は4.01%、全体の平均騰落率は0.66%の上昇となっています。今後のFOMCのスケジュールは、9月17日-18日、10月29日-30日、12月10日-11日、2020年の1月28日-29日、3月17日-18日、4月28日-29日、6月9日-10日、7月28日-29日、9月15日-16日、11月4日-5日、12月15日-16日となっています。
●主なポイント
○7月も6月の流れ(6.89%上昇と、6月としては1955年の8.67%以来の上昇率)を引き継ぎ、決算とFOMCに後押しされて、1.31%の上昇を記録しました。また、年初来では18.89%と、1997年の28.83%に次ぐ上昇率(1997年通年は31.01%上昇)を付けました。
・7月のS&P 500指数は1.31%の上昇(配当込みのトータルリターンはプラス1.44%)となり、年初来7カ月間の騰落率は18.89%(同プラス20.24%)となりました。
・2009年3月9日に始まった強気相場の上昇率は341%(年率換算で15.34%)、配当込みのトータルリターンはプラス447%(同プラス17.77%)となりました。
○米国10年国債利回りは、6月末から横ばいの2.01%で月を終えました(2017年末は2.41%)。FOMCで0.25%の利下げが決定されました。
○英ポンドは6月末の1ポンド=1.2695ドルから1.2154ドルに下落し(2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル、2016年末は1.2345ドル)、ユーロは6月末の1ユーロ=1.1372ドルから1.1072ドルに下落しました(同1.1461ドル、同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は6月末の1ドル=107.89円から108.78円に下落し(同109.58円、同112.68円、同117.00円)、人民元は6月末の1ドル=6.8668元から6.8843元に下落しました(同6.8785元、同6.5030元、同6.9448元)。
○原油価格は6月末の1バレル=58.20ドルから58.01ドルに下落して月を終えました(同45.81ドル、同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は6月末の1ガロン=2.741ドルから2.798ドルに上昇して月末を迎えました(同2.358ドル、同2.589ドル、同2.364ドル)。
○金価格は6月末の1トロイオンス=1,412.50ドルから1,426.30ドルに上昇して月を終えました(同1,284.70ドル、同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。
○VIX恐怖指数は6月末の15.08から16.12に上昇して月を終えました。月中の最高は16.55、最低は11.69でした(同25.42、同11.05、同14.04)。
○現在までに326銘柄が2019年第2四半期の決算発表を終え、そのうち241銘柄(73.9%)で利益が予想を上回り、324銘柄中192銘柄(59.3%)で売上高が予想を上回りました。第2四半期の予想は2018年末から7.1%引き下げられていましたが、先週引き上げられました。現在、前期比で3.9%の増益、前年同期比で2.1%の増益、過去最高だった2018年第4四半期からは4.6%の減益が予想されています。下半期については、2019年第3四半期は過去最高を更新し(前期比5.6%の増益)、第4四半期はそれを上回る前期比3.3%の増益になると予想されています(常に将来の期待は大きくなります)。2019年通年では前年比7.0%の増益、2020年は同12.3%の増益と予想されています。これらの予想は、今後発表される2019年下半期のガイダンス次第でさらに変更(または確認)されるでしょう。
○ビットコインは6月末の1万1,678ドル(5月末は8,534ドル)から下落して1万0,057ドルで月を終えました。月中の最高は1万3,183ドル、最低は9,087ドルでした(2018年末は3,747ドル、2017年末は1万3,850ドル、2016年末は968ドル)。
○1年後の目標値は、S&P 500指数が3,233(現在値から8.5%上昇、6月末時点の目標値は3,189)、ダウ平均は29,094ドルとなっています(同8.3%上昇、同28,685ドル)。
●トランプ大統領と政府高官、そして米議会
○トランプ大統領と習近平国家主席はG20大阪サミットで首脳会談を行い、米中は休戦することになりました。報道によると(文書は公表されていませんが、トランプ大統領がツイートを投稿)、米国は3,000億ドル相当の中国製品に対する関税発動を先送りし、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)に対する禁輸措置を緩和し、中国は米国からの輸入を増やします。狙いは休戦による交渉継続であり、米市場関係者は米国側の勝利と受け止めました(そしてほぼ予想通りの結果でした)。
○実体経済と金融市場以外では(関心がある人がいるなら)、トランプ大統領のツイッターでの呼びかけに応じた北朝鮮の金正恩委員長とトランプ大統領は6月30日、朝鮮半島の非武装地帯で対面しました。二人は互いに軍事境界線を越え、その後1時間にわたり会談を行い、両国はまもなく二国間協議を再開することで合意しました。
○トランプ大統領は(ツイッターで)、FRBの理事(定員7名)にクリストファー・ウォラー氏(セントルイス連銀)とジュディ・シェルトン氏(FRBは利下げを主張)を指名する意向を示しました。
○ホワイトハウスと米議会は債務上限問題で合意し、2021年7月まで債務上限の適用を停止し、向こう2年間で2.7兆ドルの歳出を決定しました。アナリストによると、これにより来年の年間財政赤字は1兆ドル超に膨れ上がります。具体的な歳出配分については別途歳出予算案を作成することになります。
○2016年大統領選へのロシア介入疑惑の調査を指揮したモラー前特別検察官が議会証言を行いました。モラー氏の証言は、証言よりも自身の政治信念と関連付けて解釈されているようであったため、同氏は自ら作成した報告書以外の内容に触れないよう慎重な答弁に終始しました。
○米中貿易協議の進捗の遅れが予想されたため(実際に遅れが生じていました)、ムニューシン米財務長官と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は上海を訪問し、中国側と対面協議を行いました。
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