2014年4月1日より消費税率が5%から8%に引上げられました。増税以降、暫くの間の新聞報道は「消費税増税による消費への影響は軽微である」との論調が多かった一方で、「増税後の景気回復は想定よりも鈍い」という論調も多くあり、個人消費は実際には強いのか弱いのか判りにくい状況が続きました。今回の「まいこばなし」では、なぜ新聞報道が大きく分かれたのか、そして今後の個人消費動向をどう考えるべきかについて述べてみたいと思います。
まずは個人消費に関する統計を見てみます。初めのグラフは家計の支出に関する動向です。以下は、総務省が発表している「家計調査」における対前年同月実質増減率(2人以上の世帯)の動きです。(図1)
(図1)「家計調査」における対前年同月実質増減率(2人以上の世帯)
出所:総務省
消費税増税の直前である3月、そして増税直後の4月の変化は、駆け込み消費とその反動減によるものであり、ある意味で想定通りの動きであったと言えます。しかし、5月の落ち込みは非常に大きなものとなりました。この前年同月比-8%という減少率は、過去33年間で2番目に悪い数字です。ちなみに最も悪かったのは、東日本大震災後の2011年5月です。震災後、日本全国で物流網が切断されてしまったため、消費が弱くなったのは当然と言えます。更に、この5月の弱さは、1997年の前回の消費税増税時との比較でも際立ちます。前回の駆け込み消費の反動減は、4月に同-1.0%、5月に同-2.1%でした。そして、今回は4月に同-4.6%、5月に同-8.0%となっていますので、落ち込み方が前回に比べてより厳しいのです。では、一部の新聞を中心に反動減が軽微であるとの報道が出た背景は、なぜなのでしょうか?
次にもう一つの消費に関する統計を見てみます。2つ目のグラフは、経済産業省が発表している「商業動態統計調査」における小売業の前年同月比増減率の動きです。この統計は家計調査と違い、小売事業者の販売動向を元に作られています。この経済産業省の統計を見ると、増税直後の小売業の売上は大きく減少していますが、5月以降、急速に減少幅が縮小しています。一部の新聞は、この統計を理由に、消費税増税の影響は想定より少なく、個人消費は堅調であるという論調となったと推測されます。(図2)
(図2)「商業動態統計調査」における小売業の前年同月比増減率
出所:経済産業省
6月になると、家計調査でも商業動態統計調査でも、共に反動減からの回復を示しているのですが、7月になると、2つのグラフは乖離を起こします。家計調査はマイナス幅が再び拡大を示し、一方で商業動態統計調査はプラスに転換しています。
上記2つのグラフを元に説明させて頂きましたが、大切なのは統計の調査内容、そして特徴を考慮する必要があると言えます。勿論、国勢調査などを除き、ほぼ全ての統計は調査対象の一部を抽出して作成されている以上、ある程度の誤差やブレが出ることは防ぎようがありません。私は、今回は、商業動態統計調査を消費動向の把握に使うのは少しだけ無理があると考えています。商業動態統計調査は名目値を基準としていますので、消費税増税による値上がりや、円安などの影響によって上昇したガソリン価格など、売上数量が伸びなくても、価格上昇だけでプラスに寄与してしまう点に注意する必要があります。日本の消費者物価(CPI)は4月以降、年率3%以上の上昇が続いています。この影響を商業動態統計調査では考慮する必要があります。
個人消費が強いのか弱いのかという議論は、2014年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値の発表によって、「景気(消費)は想定よりも弱い」という論調に一本化されました。GDP統計における個人消費は、8月の速報値で-5.0%、9月に発表された確報値では-5.1%に下方修正されています。加えて7月、8月は西日本を中心に天候悪化に見舞われており、現時点では足元の消費動向を楽観視することは控えたほうがよさそうです。
では、今後も個人消費に対しては悲観的になるべきでしょうか?私はそうは思いません。消費税増税に伴う反動減は緩やかながらも収まっていきます。また、天候不順の要因も一時的なものです。最大のポイントは、雇用環境が好調であると言う事です。最後のグラフは有効求人倍率と賃金上昇を比較したグラフです。過去も現在も雇用環境の改善と共に賃金が上昇していることが判ります。
短期的には様々な統計が個人消費のプラス、マイナスを示すと思われますが、景気の根底にある動きをしっかりと捉えて、投資をして行きたいと思っています。アベノミクスをきっかけに動き始めた日本経済は、雇用改善と賃金上昇の兆しが既に出始めているのです。
(図2)有効求人倍率と賃金上昇(現金給与総額前年同期比)
出所:厚生労働省
※当コラムは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。
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