新しい国勢調査の結果によると、ミャンマーの人口は5142万人である。従来の推計人口より約1000万人も少ない。31年ぶりの国勢調査であり(前回調査は1983年)、この間の条件変化のため、人口推計で大きな誤差が生じていたのである。
新しい人口データは、政府の経済政策の策定や貧困脱出のための開発計画に利用されるだけではなく、企業の立地や市場調査等にも大いに活用されるであろう。企業のマーケティング戦略も従来とは違った結論が出てくるのではないだろうか。
1、どっちが正しいか(UN、IMF、ADB、国勢調査の比較)
従来、ミャンマーの推計人口については疑義が生じていた。2013年の人口は、
IMF 6,493万人(IMF, WEO, April 2014)
ADB 6,165万人(ADB, Key Indicator 2014)
国連 5,326万人(WPP, 2012 Rev.;medium fertilityケース)
今回の調査結果(暫定)5,142万人(2014年8月30日、移民・人口省発表)
ミャンマー政府やIMF等の推計より1,000万人少ない。国連推計より少ない。キン・イー移民・人口問題相によると、「出生率の低下」がその原因ではないかという。
確かに、ミャンマーの出生率は低い。表1は、国連人口部資料を基に筆者が整理した各国の合計特殊出生率データである。2010~15年の出生率は、米国1.97、フランス1.98である。これに対し、ミャンマーは1.95である。低所得の発展途上国は概して出生率が高いのであるが、ミャンマーはASEAN最貧国であるにもかかわらず、先進国・米仏並みに低い。(注、東南アジア諸国は近年、急速に出生率が低下している)。
表1 各国の人口と合計特殊出生率
この出生率の低下については、筆者は当WEBで前々から指摘してきた。その理由も推論した。拙稿「ミャンマー 人口ボーナス再論(その2)」Webみんかぶ2012年12月21日参照https://money.minkabu.jp/37026。また、拙稿「ミャンマーの人的資源の展望」日本経済大学大学院紀要Vol.2 ,No.2(2014年3月)pp59~73参照。
2、ミャンマー国勢調査の結果(暫定)
31年ぶりに行われた国勢調査は、2014年3月30日から4月10日まで実施された。調査は中学校教員を中心に10万人動員して全土で家庭訪問して行った。その結果(暫定)が8月30日発表された。
以下はDepartment of Population, Ministry of Immigration and population, August2014発表による、2014年ミャンマー国勢調査の結果(暫定)の要約「The Population and Housing Census of Myanmar 2014, Summary of the Provisional results」を基にしている。
(1)センサス調査による人口
総人口‐51,419千人
男‐24,821千人(48.2%)
女‐26,598千人(51.8%)
世帯数‐10,889千世帯
この総人口5142万人は、センサス調査で得られた5021万人に、ラカイン州、カチン州、カレン州の一部の未調査地帯の人口121万人(推計)を加えたものである。また、センサス期間中、海外に居住していた者は含まれない(一説によると約400万人)。
カチン州およびカレン州では、少数民族武装勢力が一部地域で調査を認めなかった。ラカイン州のロヒンギャ族(イスラム系)は国勢調査をボイコットしたため調査不能であった。これらの一部の未調査地域については中央国勢調査委員会による推計人口で補足されている。
(2)地域別の人口
地域別に見ると(表2参照)、人口の最も多いのはヤンゴンである(736万人)。次いでエーヤワディ(618万人)、マンダレー(615万人)である。人口の少ない地域はチン州(48万人)、カヤー州(29万人)である。
ラカイン州の人口319万人には未調査地帯の人口109万人(推計)が含まれている。カチン州の人口も47万人、カレン州も70万人の未調査地帯の推計人口が含まれている。
表2 ミャンマーの地域別人口
人口の一極集中は、日本ほどではない。最大都市ヤンゴンの人口割合は14.3%、エーヤワディ12.0%、マンダレー12.0%である。上位3地域の累積集中度で38%である。このほか、シャン州582万人、ザガイン管区532万人、パゴー管区486万人と続く。
(3)地域別の面積と人口密度
一番広大な地域はシャン州である。次いで、北西部のザガイン管区、北部のカチン州が大きい。しかし、これらの地域は人口密度は低い。1平方km当たり人口はカチン州19人、シャン州38人である(表2参照)。
ちなみに、日本の人口密度は全国平均343人である。ミャンマーの76人に匹敵するのは北海道70人、岩手県87人、秋田県93人である(2010年国勢調査)。
(4)都市化率と人口密度
図1に示すように、都市化率の一番高いのはヤンゴンである(70.1%)。ヤンゴンは人口も736万人と多くので、世界の大都市のイメージそのものである。人口が集中しており、企業の市場戦略がしやすい地域であろう。マンダレーは人口はヤンゴンに次ぎ615万人と多いが、面積がヤンゴンの3倍もあり、都市化率は34.8%である。
図1 地域別の都市化率
カチン州の都市化率が高い(35.9%)。一方、カチン州は人口密度が低い(19人)。カチン州は中国と国境を接するミャンマー最北の地で、高い山岳地帯が後背地である。まだ訪問したことはないが、州都に一極集中した地域構造をなしているのではないか。米国の中西部の都市と農村を想起させられる。マーケティングがしやすいかもしれない。
(注)東京は山手線の内側も中層ビルが多く、郊外にもそれが広がっている。これに対し、米国の中西部は広大な面積がありながら、中心部に超高層ビルが建ち、裾野は人口がまだらに広がっている。インフラ整備の効率化が行われているからであろう。国土の7割が山岳地帯である「森の国」ラオスも、人口の多くは山間地に分散居住し、首都ビエンチャンへの一極集中はない。カチン州の都市化率の高さは興味深い。
カチン州の対極にあるのが南部デルタ地帯にあるエーヤワディ管区である。人口密度は高いが(176人)、都市化率が低い(14.1%)。これは平地の村々に分散居住している姿だ。
この都市化率と人口密度指標を組み合わせると、地域の特徴が分かり、政府政策の策定や企業のマーケティングに有益な情報が引き出せそうだ。
表3 都市化率と人口密度(地域別)
(5)世帯当たり人員
1世帯当たり人員は、全国平均4.4人である。日本は2.4人(2010年、一般世帯)である。1960年の日本の1世帯当たり人員は4.54であり(普通世帯)、ミャンマーは50年前の日本の状況である。
地域別に見ると、世帯人員の多いのはカチン州(5.1人)、チン州(5.1人)、シャン州(4.7人)である。これに対し、バゴー、マグウェ、マンダレー、ヤンゴンは4.1~4.4と低い。
※ Summary of the Provisional Resultsで明らかにされている内容は上記の
程度である。今回の国勢調査は、民族間の人口構成比が明らかになれば、民族間の対立をあおるのではないかとの懸念も出されてきたが、今回の(暫定)概要版にはこうした問題を判断できる材料はない。また、「出生率の低下」の原因を分析し今後の人口対策に資するための情報もない。2015年5月の最終報告を待ちたい。
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