「労働力と生産性の観点から見たアベノミクスの成長戦略」

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最新投稿日時:2014/08/04 11:42 - 「「労働力と生産性の観点から見たアベノミクスの成長戦略」」(みんかぶ株式コラム)

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「労働力と生産性の観点から見たアベノミクスの成長戦略」

著者:舞妓さん
投稿:2014/08/04 11:42

2012年秋の安倍政権誕生後、アベノミクスにより日本経済がデフレからインフレへ構造転換する期待が高まり日本株は大きく上昇しました。しかし、昨年6月の経済成長戦略の発表以降は日本株も踊り場を迎えています。この点を捉えて市場参加者からは、アベノミクスの成長戦略は人口が減少し潜在成長率が低下する日本経済の成長戦略としてはやや物足りなかったのではという指摘もあります。長期的な経済成長の可能性を決定する三要素は生産活動に必要な設備等の〔資本〕、労働力人口と労働時間から求められる〔労働力〕、技術進歩によって伸びる〔生産性〕です。わが国が、高齢化による人口減少社会に突入していくこともあり、今回は労働力と生産性の観点からアベノミクスの成長戦略について考察してみましょう。

2014年3月の内閣府資料「労働力人口と今後の経済成長について」(図1、2)では、わが国の労働力人口は現在のトレンドが続けば2013年の6,577万人から2030年には5,683万人、2060年3,795万人まで減少すると推計しています。しかし政策効果等により出生率が回復して2030年に合計特殊出生率が2.07まで上昇し、30~49歳の女性の労働力率がスウェーデン並みに上昇(2012年71%→2060年90%)、また高齢者が現在より5年長く働いた場合に、2060年労働力人口は5,400万人程度確保できると試算しています。ただしこの場合でも労働力人口は減少し潜在成長率を押し下げるため、生産性の向上による成長力の強化が必要になります。

(図1)
maiko98-zu1

(備考)総務省「労働力調査」、厚生労働省雇用政策研究会「労働力需給推計」(2014)、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」、
スウェーデン統計局「労働調査」をもとに作成。
(注)1.労働力人口は、15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者を合わせたもの。
2.現状継続ケースは、2012年の性・年齢階級別の労働力率を固定して推計したもの(厚生労働省雇用政策研究会推計)。
経済成長・労働参加ケースは、女性、高齢者や若年層の労働市場への参加が進むとして推計したもの(厚生労働省雇用政策研究会推計) 。例えば、30~49歳の女性の労働力率は、2012年71%→2030年85%に上昇し、M字カーブは解消すると仮定している。
3.社人研中位推計ケースは、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が推計した2060年の性・年齢別人口に労働力率を乗じたもの。
出生率回復ケースは、2030年に合計特殊出生率が2.07まで上昇し、それ以降同水準が維持される、生残率は2012年以降一定などの仮定をおいて推計した人口に労働力率を乗じたもの。
4.2060年の労働力人口では、上記「1.」の厚生労働省雇用政策研究会推計に加え、女性・高齢者の労働参加が更に進むとし、30~49歳の女性の労働力率をスウェーデン並み(2030年85%→2060年90%)、60歳以上の労働力率を5歳ずつ繰り上げて推計している。

出所:内閣府 労働力人口と今後の経済成長について(「成長・発展」補足資料)

(図2)
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(備考)内閣府「国民経済計算」「民間企業資本ストック」、総務省「労働力調査」、経済産業省「鉱工業指数」「第3次産業活動指数」、厚生労働省「毎月勤労統計」、
厚生労働省雇用政策研究会「労働力需給推計」(2014)、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」等をもとに作成。
(注)1.現状継続ケースの労働力人口は、2012年の労働力率、労働時間がその後も一定のケース。
2.経済成長・労働参加ケースの2020年、2030年の労働力人口は、厚生労働省雇用政策研究会推計を使用。労働時間は2012年で一定。
3.女性・高齢者の労働参加が図られ、高齢者の労働時間が伸びるケースの2060年の労働力人口は、2030年に比べ更に女性・高齢者の労働参加が進み(30~49歳の女性の労働力率をスウェーデン並み、60歳以上の労働力率を5歳ずつ繰り上げ)、労働時間は60歳以上の男女の労働時間を5歳ずつ繰り上げたもの。
4.出生率が回復するケースの2060年の労働力率は、上記「3.」のケースと同様で、人口は2030年に合計特殊出生率が2.07まで上昇し、それ以降同水準が維持される、生残率は2012年以降一定などの仮定をおいて推計したもの。

出所:内閣府 労働力人口と今後の経済成長について(「成長・発展」補足資料)


まず労働力人口不足の問題からみてみましょう。労働力不足解決には、やはり女性と高齢者の活用が重要だと思います。
第95号(4月30日)でもご紹介しておりますが、女性の労働力参加率をあげるための政策は、アベノミクスでも女性の活躍推進というテーマで成長戦略の中核のひとつにあげています。具体的には、女性の働く意欲を高めるため指導的地位に占める女性の割合を30%程度に高め、すべての上場会社で女性役員を1人登用することを企業に要請しています。出産後の女性の就労率をあげるため学童保育の拡充を図るとともに育児休暇を3年まで延長することを企業側に要望しています。女性の就労時間を引き上げるため、配偶者控除などの女性就労の足かせとなっている税・社会保障制度の見直しを図り、女性就労に中立的な税・社会保障制度等を中期的に検討していくようです。同時に企業に対し自由度の高い働き方(テレワーク、時短勤務等)の導入なども要請し、女性の就労率、就労時間を引き上げていきます。

一方、高齢者の労働力参加率をあげる直接的な施策はいまのところあまりでていません。おそらく年金・保険などの社会保障制度を見直し、就労するインセンティブを高める年金等の社会保障制度に導入することで問題を解決していくと思われます。高齢者は、体力的な衰えはあるものの、蓄積した経験や技能を持っています。これらを活かせる働き方や環境を提供できれば労働力参加率は向上させられると考えます。

前述の内閣府の試算でも、女性や高齢者の労働力を引きあげても労働力不足は解消できません。特に建設、介護などの非製造業では将来的には労働力不足が今以上に顕著になると考えられます。そのため現政権では、これを補うため外国人労働者の受け入れ環境を整えていく方針です。具体的は、高度外国人人材の受け入れ拡大・促進や外国人技能実習制度の抜本的見直しに着手しています。また現在人手不足が顕著になっている建設業については、外国人労働者活用の緊急措置として外国人技能実習制度の実習期間延長を決定したほか、これを農林水産業や製造業における短期就労にも拡大し、家事支援にも活用して行く方針です。
外国人労働者の受け入れは、労働力人口不足する日本にとっては必要な施策です。一方でこの問題は、日本のこれまでの雇用、社会にあり方を大きく変える問題でもあり、受け入れ範囲を単純労働まで拡大していくのかを含め慎重な議論が必要かもしれません。

女性や高齢者を活用したとしても2060年には1,200万人弱の労働力人口不足が生じます。不足分を外国人労働者ですべてまかなうのは現実的ではなく、潜在的成長率を引き上げるにはやはり生産性の向上が不可欠です。

次に「生産性の向上」の視点からアベノミクスの戦略を考察します。
わが国の生産性の向上は1990年以降伸び悩み傾向になっています。そのためアベノミクスの成長戦略も生産性の向上を意識した内容が盛り込まれています。
そのひとつがICT戦略です。わが国の非製造業の生産性の低さの背景にIT技術を十分に活用できていないことがあります。IT技術を活用することにより、人員を削減すると同時にビッグデータなどを活用し一人当たりに売上げを伸ばして生産性を向上していくことが必要です。そのため政府もこれを後押しするため公共データの民間開放やビッグデータ活用推進について検討しています。

またICTの活用では政府推進しようとしているスマートアグリも注目できます。スマートアグリとはIT技術で制御された農業です。光や二酸化炭素の濃度、成長に応じた肥料の量などの加減をIT技術で制御します。これにより大量の農作物が均一で収穫され生産性が大幅に改善するというものです。またコンピュータで基本制御されるため労働者の負荷が下がるため、就労者の確保も容易になります。高齢化が進んでいるわが国の農業の生産性向上の切り札になるかもしれません。

また成長戦略にあげている各種「特区戦略」やスマートシティ構想などが実現されれば、企業の集積度合いが高まり、結果としてエリアの人口密度が高まるため、サービス産業の効率も上がり生産性の向上につながると考えられます。

最も注目されるのが、今年6月に成長戦略の改訂で発表されたロボットによる産業革命です。少子高齢化で労働力不足が確実な日本にとって、労働力をロボットに置き換えることができれば理想的です。安倍政権も国をあげてプロジェクトを進めていきます。汎用人型ロボットの実現にはかなり時間を要すると思います。しかし介護や工事現場の働く人をサポートするパワードスーツなどは実用化が目前に迫っています。パワードスーツなどが量産化され高齢者や女性などの労働力を幅広く利用できるようになり、生産性の向上だけでなく、労働力不足の解消にもつながります。

アベノミクスの成長戦略は、労働力人口不足が深刻化する日本経済の問題点を意識した内容になっており、戦略内容ではなくその実行力が問われているのかもしれません。

※当コラムは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

配信元: みんかぶ株式コラム

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