S&P 500 月例レポート
S&P 500®
7月末は恐怖を味わうも、投資家は市場を逃げ出さず
7月も一日早く終わってさえいれば、S&P500にとって引き続き好調な月でした。最終日を除けば、過去1年半の典型的な月だったと言えるでしょう。月初3日間連続で、終値ベースの過去最高値を更新(7月は合計5回。6月は8回、年初来の合計は27回。)マージャーマンデー(合併の月曜日)が続き、Twenty-First Century Fox (FOXA)のTime Warner (TWX)に対する800億ドルの買収提案など一部は難航しましたが、Dollar Tree (DLTR)によるFamily Dollar Stores (FDO)の買収(85億ドル)やオンライン不動産物件情報サイトのZillow (Z)によるTrulia (TRLA)の買収(26億ドル)などは、より順調に話が進んでいるようでした。米連邦準備制度理事会(FRB)は連邦公開市場委員会(FOMC)議事録を公表、債券買い入れ額を月額100億ドル縮小し、250億ドルにすることを決めています。債券購入は10月に終了するというのが大方の予想です。利上げ開始時期についてのヒントはあまり示されませんでしたが、2015年半ばになるだろうというのが、一般的な見方です。面白いことに、イエレンFRB議長は、一部市場は「過熱している」と発言しており、市場は30分間ほど反応しました。グリーンスパン元FRB議長が1998年12月5日に「根拠なき熱狂」と発言した記憶がよみがえりました。特筆すべきは、当時の指数が1,176で、2000年3月には1,527まで上昇(30%)し、2009年3月には677に下落したことです(現在は1,930)。原油価格は引き続き下落し、98ドルを下回って7月の取引を終えました。これは、悪天候による米国の農産物価格の上昇分を一部埋め合わせています。米国の第2四半期の国内総生産(GDP)速報値は、前期比年率4.0%増となり、悪天候の影響によるとされる第1四半期のマイナス2.9%成長を十二分に相殺する格好となりました。時価総額ベースでは既に78%が終了している米企業決算も、期待を裏切っていません(小売の発表はこれからですが)。純利益は過去最高益を更新する見込みです。売上高は6%増加したものの、さほど大きな伸びではないため、利益率の記録更新となるでしょう。業績に関してさらに特筆すべきは、企業による自社株買いが標準な量を超えており、S&P500の構成銘柄の2割が1株当たり利益(EPS)を4%以上増やしています。自社株買いは正当で便利な経営ツールであるものの、投資家の観点から見れば、EPSの増加要因を評価し、株式数を減少させる自社株買いに対し、どれだけが売上高に触発された従来型の成長であるのかを適切に判断する必要があります。また、7月の相場は、表面上は好調でしたが、水面下では一部懸念がくすぶり続けていました。それでも状況を注視する向きがほとんどで、当該懸念が米国相場に大きく織り込まれることはないようでした。緊張が続くウクライナ情勢、マレーシア航空機撃墜事件などを受け、冷戦時代における対立構図の再来の様相を呈しています(ロシア市場は7月に10.9%下落、年初来で16.5%下落。米国市場は7月に1.5%下落、年初来で4.5%上昇)。イスラエルのパレスチナ自治区ガザへの侵攻は短期間で終わるかと見られていましたが、既に数週間が経過、いくつかの停戦も失敗に終わっています。アルゼンチンが再びデフォルトに陥るとの懸念(13年前に発生したデフォルトについて未だに米国裁判所で法廷闘争が続いています)と、ポルトガルの銀行問題(ポルトガル一国の問題であるものの、1年以上収まっていた欧州に対する懸念が再燃)が相まって、グローバル株式市場は下落しました。満月でもないのに(訳者注:満月には不吉なことが起こるというような風説がある)、これら全ての事象が7月最終日に集結したかのようでした。最終日の下落はトップニュースとなり、マスコミは上げ相場は終わり、下げ相場が始まったと報じました。確かにいずれはそれが真実となるのかもしれませんが、現状では、大きな売りや、無制限の売りや、とにかく逃げ出したいといった心情の売りはありませんでした。結果として7月31日(木)は2.0%下落し、4月以来最悪のパフォーマンスとなりました。2%以上の下落を記録したのは2011年末以降8日間しかなかったため、実際よりも深刻に感じられました(2011年は21日間)。VIX恐怖指数は6月の11.57から7月は16.95に急上昇しましたが、それでも過去の平均20.09に比べて16%減です。重要な問題は、どこまで深い下落となるか、そして、どの水準でボトムフィッシング(底値買い)が入るかです。マスコミは悲観的だったものの、トレーダーたちはより楽観的で、資金を引き揚げる向きは少ないようでした。
S&P500は月間ベースで2014年1月(3.56%下落)以降初めて下落(マイナス1.51%)し、連続上昇も5カ月で途切れました。最終日31日の2.00%の下落(4月10日以来最大の下げ)により指数がマイナスに転じる格好となりました。10セクター中8セクターが下落しました。構成銘柄のうち、150銘柄が上昇(平均でプラス4.11%)し、351銘柄が下落(平均でマイナス4.12%)しました。16銘柄は10%以上上昇(平均でプラス12.56%)し、31銘柄が10%以上下落(平均でマイナス13.09%)しました。最も良好なパフォーマンスを示したのは2.56%上昇した電気通信サービスでした。けん引役となったのは、一部資産のスピンオフ(分離・独立)を発表したWindstream Holdings (WIN)でした。同社は15.1%上昇し、Frontier Communications (FRT)は12.2%上昇しました。情報技術も1.40%上昇し、年初来ベースでは9.54%上昇と、S&P500の上昇(4.45%)の2倍超となっています。業績が予想を上回った半導体メーカーのIntel (INTC)は、9.7%上昇(年初来でプラス30.5%)しました。増収増益だったにもかかわらず、投資家の失望を誘ったフラッシュメモリーカードのSanDisk (SNDK)は、12.2%下落したものの、年初来ベースでは30.0%上昇しています。7月に最悪のパフォーマンスを示したセクターは、2014年の寵児である公益事業でした。同セクターは、6.91%下落し、年初来ベースの上昇幅は8.37%に縮小しました。経済が回復するなか、エネルギー消費量は大幅に増加していないことを示す報告を嫌気し、公益事業株に売りが出ました。そのなかでも下落が大きかったのは電力株でした。Entergy (ETR)は11.3%、Public Service Enterprise Group (PEG)は13.8%、NRG Energy (NRG)は16.8%、それぞれ下落しました。ところが、3社とも、年初来ベースではS&P500のリターンを上回っています。注目すべき銘柄の一つは、構成銘柄のうち最高のパフォーマンスを上げた(18.2%上昇)総合メディア企業のTime Warnerでした。上昇の背景には、Twenty-First Century Fox(9.9%下落)による買収提案があります(提案は拒否されましたが、今後話が進展する可能性あり)。業績が予想を上回り、投資家を感心させたメキシコ料理のファストフードチェーンChipotle Mexican Grill (CMG)は、13.5%上昇(年初来で26.2%上昇)しました。使用期限切れの食品を出荷していたとされる中国の仕入れ先との取引を停止したファストフードのYum! Brands (YUM)は14.5%、McDonalds (MCD)は6.1%、それぞれ下落しました。業績が予想を下回り、慎重な業績見通しを示した保険会社のGenworth Financial (GNW)は24.7%下落(構成銘柄のうち最悪のパフォーマンス)し、年初来ベースの上昇が15.5%の下落に転じました。
投資家が押さえておくべきポイント
・終値ベースの過去最高値を5回更新。日々の上昇は不安定ながらも、より長期的な観点から見れば、株価は好調でした。
・7月の最終日は2.00%下落(あるいは単なる後退、または反応、と言えるでしょう)し、月間ベースでマイナスに転じました。ウクライナ情勢を背景に2.09%下落した4月10日以降、最悪のパフォーマンスでした。また、月間ベースでは2014年1月(3.56%下落)以降初めての下落でした。7月は1.51%下落し、年初来ベースでは4.45%上昇しています。1年間では、14.53%上昇しています。VIX恐怖指数は6月の11.57から7月は16.95に急上昇しています(ウクライナ情勢を受け、4月は17.85でした)。ダウ・ジョーンズ工業株価平均は年初来ベースで0.08%下落しています。
・たとえ時代が平和でも、業績不振を切り抜けるのは至難の業ですが、業績が良い場合、世界的な緊張状態を切り抜けるのは比較的容易なようです。売り上げが不振でもM&A(合併・買収)という「解決策」があります。増税についてもM&A(および本社所在地)が「解決策」となるでしょう。
・ウクライナ、ガザ地区、アフガニスタンの情勢がありながらも、原油価格は98ドルを下回って7月の取引を終えています。
考えのメモと注目のポイント:
・昔は「no new taxes(新税はない)」などと言われましたが、企業が税の転嫁や税金面で利点のあるスピンオフを続ける今の時代は「no old taxes(古い税はない)」と言った表現がピッタリでしょう。
・EPSの増加の背景にある新しいトレンドは、株式数の削減です。
・医療費の上昇の初期兆候がみられ、その分は2015年のレートに転嫁されなければなりません。(11月の中間選挙後)
・地球温暖化への懸念により、世界的な冷戦へと逆戻りした場合、米国や欧州の政府や企業はそれぞれ異なる方針をとるのでしょうか。
基本統計:
・2014年第2四半期のGDP速報値は、企業在庫や消費支出に支えられ、前期比年率4.0%増となり、第1四半期のマイナス2.9%成長を打ち消しました。8月28日に改定値や詳細(確定値は9月26日)が公表されます。
・FRBの姿勢に変化が見られないなか、金利動向に大きな変化はないでしょう。米国10年債利回りは2.56%(2013年末は3.03%)、米国30年債利回りは3.31%(2013年末は3.96%)、S&P500の利回りは2.04%(2013年末は1.89%)でした。
・原油価格は98ドルを下回り、ガソリンスタンド販売価格は下落しています。一方、農産物価格は上昇しています。
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・
インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
本翻訳は、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。
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