日本のデフレは止まるのか? 労働市場からの考察。

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最新投稿日時:2014/06/04 11:24 - 「日本のデフレは止まるのか? 労働市場からの考察。」(みんかぶ株式コラム)

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日本のデフレは止まるのか? 労働市場からの考察。

著者:舞妓さん
投稿:2014/06/04 11:24

 日本は過去約20年にわたり、デフレスパイラルに苦しんできました。アベノミクスでは、大胆な金融政策、財政政策、そして成長戦略により、デフレからの脱却を目指しています。では、本当に日本のデフレは止まるのでしょうか?
 デフレスパイラルには様々な要因が関係しており、かつそれらがお互いに影響を与えあうことで生じています。そのため、一つの要因だけを取り出してデフレが止まるかどうかを結論付けることは困難です。その限界を理解した上で、ここではデフレスパイラルの中で非常に重要な役割を果たしていると考えられる労働市場・賃金の動向を取り上げたいと思います。結論を先に言うと、これまでの賃金下落を支えてきた構造は変局点に来ており、アベノミクスをきっかけとして、デフレ脱却に成功する可能性は高いと考えています。

 最初に、過去の賃金指数(労働者一人当たり現金給与総額の名目指数)の動向を見てみます。2005年から2006年に小幅な上昇があったものの、1997年をピークにほぼ一貫して低下が続いており、2013年にはピークから13%程度減少しています。

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 この賃金水準の低下はどのように生じたのでしょうか。パートタイム労働者と一般労働者(パートタイム以外の常用労働者)に分けた賃金指数をみてみます。先ほどの労働者全体の賃金水準とは異なり、パートタイム労働者、一般労働者毎の賃金水準に大幅な下落は見られません。

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 それでは、労働者全体の賃金水準の低下はどのように起きているのでしょうか?要因は、下図のように、相対的に賃金の低いパートタイム労働者の比率が上昇しているところにあります。
 2013年におけるパートタイム労働者の平均月間現金給与の水準(時間当たり賃金ではありません)は、一般労働者の約1/4となっています。仮に、①労働者総数が不変で、②一般労働者の賃金に対するパートタイム労働者の賃金が25%とすると、パートタイム労働者の割合が15%から30%に上昇した場合、全体賃金は約12.6%下がると計算できます。つまり、パートタイム労働者比率の増加によって、前述の賃金低下の大部分が説明できるということになります。

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 では、このようなパートタイム比率の上昇による賃金水準低下は今後も続くのでしょうか? 弊社は、①パートタイム労働者と一般労働者の賃金水準格差が縮小する、②パートタイム比率が下がる、もしくはその両方、によって賃金水準の低下に歯止めがかかる可能性が高いと考えています。そのように考える理由は以下の3つです
 1.人口構成上、今後は労働力の確保が課題になること
 2.製造業の雇用者数減少トレンドが変化する可能性があること
 3.女性が働きやすい社会制度の整備がアベノミクスにより進められること

 まず、一番目の点について、総人口に占める生産年齢人口(ここでは日本の実態に合わせて20歳以上69歳以下の人口と定義)の比率を見てみます。今後日本においては、第一次ベビーブーマーが70歳以上となることで、総人口の減少以上に生産年齢人口の減少が進むため、生産年齢人口比率が大きく低下します。このような変化は、労働市場における需給をタイト化させる方向に働き、パートタイム職の賃金が上昇する可能性があります。もしくは労働者にとっては低賃金のパートタイム職ではなく、フルタイムの職を得られる機会が高まる可能性もあります。

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 次に二番目の点について、製造業の就業者数の推移を見てみます。1990年代前半から比べると、製造業における雇用者数は400万人程度減少しています。2014年1月時点の非農林業雇用者数合計が5,400万人程度であることを考えると、400万人の減少は無視できません。このような製造業における雇用者数の減少がパート労働者の増加に影響を与えているという見方も存在します。

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 製造業における雇用者数の減少の背景には、①労働生産性向上、②海外への生産移転、③日本企業の世界市場におけるシェア低下、等があると考えます。このうち、少なくとも②については影響が弱まると見ています。現在国内で生産されている製品は、リーマン危機以降円高が進んだ厳しい局面においても国内生産が選択されたものであり、円高の修正が進んだ現在において海外に移転していく可能性は高くないと考えます(逆に、弊社が企業へのインタビューをしていると、海外調達に切り替えたものを、再度国内調達に戻すという話を聞くこともあります)。また、③についても、円高の修正による日本企業の価格競争力の改善等により、シェア回復が期待できる分野もあると考えます。
 このような変化もまた、労働市場における需給をタイト化させる方向に働きます。


 三番目の点について、年齢階級別の女性の労働力率を見てみます。日本では、女性が出産・育児を理由に一旦仕事を辞めることで、30代における労働力率が低下する構造があります(総務省の2012年度就業構造基本調査によれば、2011年10月~2012年9月の1年間で結婚・育児を理由に離職をした女性は38.4万人)。一旦退職した後、再び復職するのですが、日本では税制等の理由から、一旦退職した既婚女性はフルタイムではなくパートタイムで働く傾向があり、これがパートタイム労働の供給源となっています。
 一方で、アベノミクスの成長戦略では、女性の労働参加率を高める制度の整備を行う方針です。その結果、出産・育児期の退職が減少すれば、企業にとってこれまでのようにパートタイムの労働者を確保することは容易ではなくなると考えられます。

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 なお、このような労働市場の変化が日本経済に与える影響は、単に賃金が上がりやすくなることで個人消費が改善する、というところには留まらず、日本経済の構造を変えていく極めて大きなものになる可能性があります。この点についてはまた稿を改めて考えたいと思います。

 最後に、パートタイムの新規求人倍率を見ておきたいと思います。アベノミクスの開始以降、労働市場は顕著に改善しています。その中でもパートタイムの新規求人倍率は、パート労働者の賃金上昇が見られた2005年~2006年並みの水準となっています。もちろん2013年後半は消費税の増税前駆け込み需要への対応による上乗せ分がありますので、割り引いて考える必要があります。しかし、駆け込み需要の反動減が一巡した後に高い新規求人倍率が続くとすると、企業の雇用方針に変化が現れるのではないかと考えています。

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(参考文献)
日銀ワーキングペーパーシリーズ「グローバル化と日本経済の対応力」
加藤涼、永沼早央梨

配信元: みんかぶ株式コラム

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