トランプノミクス
トランプ次期大統領の政策骨子である、「大型減税」と「大型財政出動」、いわゆる“トランプノミクス”がマーケットに好感されている形となっていますが、特に「減税」というワードに米株式市場参加者は敏感に反応している結果とも言われています。
当然、「財政出動」に伴う公共事業の拡大は、雇用の増加をもたらし、株式市場にはポジティブではあるものの、その反面で大規模な公共事業と大型減税は、米財政収支にはネガティブに働き、その証左として米長期国債が売り込まれていることは、理論的には尤もな動きと言えます。しかしながら、現在のマーケットで発生している「株高」「金利高」「ドル高」の3つについては、一般的な経済原理から見てもそれらは共存し得ず、それぞれトレード・オフの関係となっていることもあり、その“歪み(ひずみ)”が露呈するのは時間の問題と言えそうです。
その中身を順に確認していくと、「(トランプノミクスに伴う)大型財政出動」→「国債の大量発行」→「国債価格の下落」→「実質長期金利の上昇」→「設備投資・住宅投資等民間投資の減少」(=クラウディング・アウト効果)→<株安>・・・といった流れに。
また、「実質長期金利の上昇」は「国内への資本流入圧力増加」へとつながり、その後「自国通貨高」(=ドル高)をもたらし、そして「輸出減少、輸入増加」→「貿易赤字の拡大」→「GDPの減少」→<株安>へとつながります。
しかも、TPP離脱とともに、トランプ次期大統領の政策一丁目一番地とも言える「米国第一主義」の骨子は「製造業重視」となっており、特に“ラストベルト”と呼ばれる製造業地帯を票田としたトランプ次期大統領や議会共和党にとって、ドル安政策は今後の政権運営における“錦の御旗”と捉えることも可能です。
今後のスケジュールを確認してみると、12月19日の選挙人による投票と、その後の年明け1月6日の正副大統領正式発表、そして1月20日の大統領就任式といった流れとなっており、次期政権が正式稼働するまで約2カ月間の政権空白期間が存在します。現在のファンド勢を中心としたドル買いフローの進展は、その政権空白(レイムダック)期間の間においては、特段ドル高牽制発言等が為されないであろうとの推測の下、いわば無抵抗のマーケット原野をドル買いの戦車が進軍しているようなものとも言えます。
しかしながら、過去の事例に従うと、感謝祭を境にマーケットの潮目が変わることもあり得ること、また米大統領選挙において開票作業の不正行為があったとの報道もあり、そうすんなりと政権交代が行われない可能性があることも念頭に入れる必要があるのかもしれません。無抵抗のドル高進行軍に、“ドル高レジスタンス”が為されるのも、そう遠い将来ではないような気がします。