日銀と“見た目”を気にする経営者が後押し
(9984)ソフトバンクグループは2月15日に、同社としては過去最大の5000億円を上限とする自社株買いを表明しました。
翌日の株価は700円高と値幅制限いっぱいまで買われ、7年ぶりの上昇幅となりました。12億株を発行する同社はこの日だけで、時価総額が8400億円も押し上げられたことになります。
2015年の1年間に実施された上場企業の自社株買い総額は約5兆円と推計されており、ソフトバンク1社だけで全体の10分の1もの規模を実施します。
同社は「株価は実力より安いと考えた(孫正義社長)」として、去年8月にも約1200億円の自社株買いを行っていますが、当時よりも4割ほど株価が下がっていることから、規模を大幅に拡大しました。
■“お金持ち企業”が自社株買いへ
日銀が「マイナス金利」の導入を決めた1月29日以降、決算シーズンと重なったこともあり、自社株買いを表明する企業が増えています。
(6954)ファナックは2月9日に、300億円を上限とする自社株買いを発表。昨年に利益の2割を自社株買いに充てる株主還元策を打ち出していますが、自社株の取得を行うのは6年半ぶりのことです。
同社の自社株買いを促したのは、経営者が自社株を割安と判断したソフトバンクのケースとは異なり、マイナス金利が念頭にあったとみられます。
ファナックは9,356億円(15年9月末)もの現金同等物を保有する、超がつくほどの“お金持ち企業”です。お金をため込んでいても金利がつかないばかりか、マイナス金利で資産が目減りする恐れがあることが、6年半ぶりの自社株買いの後押しとなりました。
メガバンクが大企業の普通預金などを対象に「口座手数料」の導入も検討していると一部で報じられています。巨額の預金を持つファナックは、手数料を徴収される可能性が浮上した為、お金を使う決断に至ったのです。
■“落選”組の巻き返しも
このほか、自社株買いには資本を減らす効果もあるため、経営者が“見た目”を気にして自社株買いに動くケースもあります。経営効率を示す「株主資本利益率(ROE)」の向上を目的とした自社株取得がこの例です。
金属加工機械の大手(6113)アマダホールディングスは一昨年の5月、16年3月期までは利益の100%を株主に配分すると発表してマーケットの話題をさらいました。同社の決断の背景には、同業他社と比べて低いROEを向上させたいという思惑がありました。
アマダは時価総額4000億円超と東証1部の250位ほどに入る主力株ですが、上場企業400銘柄で構成される「JPX日経400」の組み入れ対象からは外されました。
同社のROEは3%(14年3月期時点)と低く、資本効率が悪いとして“落選”したことが自社株買いを決断した背景です。
アマダのように同業と比較してROEが低い企業は、資本効率を高めるために、自社株買いに踏み切る可能性があります。
日本企業は3月期決算を採用している数が最も多く、全体の7割ほどを占めています。ROEを上げるためには、期末までに自社株買いを実施する必要があるため、“見た目”を気にした自社株買いが、3月末に向けて増える公算が高いといえます。
小野山 功