この1年で2倍に高騰した牛肉の国内価格が他の物価にまで波及し、4月のインフレ率は年率46%に達した。世界有数の牛肉輸出国にもかかわらず牛肉価格が上昇して国内消費全体が落ち込めば、今年10月に予定される議会選挙に向けてフェルナンデス政権の支持率が低下しかねないとの懸念が政府内で高まっていた。
牛肉の輸出禁止令は17日に発表された。輸出分を国内に回して供給量を増やし、価格を抑制する狙いだ。フェルナンデス政権が発足して以降17カ月間のインフレ率は1989年のハイパーインフレが終息して以降、最も高い水準で推移している。
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「自らの首を絞める」政策
畜産関係者によると、牛肉価格の急騰は輸送費の値上がりなどの国内要因に加え、牛の飼料となる穀物の国際価格の上昇も関係している。だが、中銀が保有する流動性の高い外貨準備資産がほぼ底をつくなかで、政府が牛肉の輸出を禁じれば自ら貴重な外貨獲得手段を失うことになる。20年の牛肉の輸出額は34億ドル(約3700億円)に上った。
「政府は自分の首を絞めているようなものだ」とある大手輸出業者は苦言を呈し、禁止期間が延長されれば、中国や欧州の主要顧客は安定供給を求めてウルグアイやパラグアイ、ブラジルなどの業者に流出してしまうのではないかと懸念を示した。「致命的な失策で失った市場を取り戻すのは至難の業だ。値下げも必要になるだろう」
輸出向けの牛肉は牛をより太らせるため、国内向けよりも飼料代が高くつく。それを国内に回すとなると、コストを度外視した値下げが必要になると畜産業者は嘆く。
08年の大規模ストの再発を懸念する向きもある。当時はクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領(現副大統領)が今回と類似した干渉主義的政策を打ち出し、生産者らが出荷停止や道路封鎖などで抵抗した。その結果、輸出は半減し、国内の牛の飼育頭数は20%減少した。食肉加工業者の多くが倒産し1万2000人が職を失った。その後事業を再開したものの、いまだに多額の負債を抱えている業者もいる。