石原慎太郎「星と舵」に対する三島批評

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2014/07/09 - 元祖SHINSHINさんの株式ブログ。タイトル:「石原慎太郎「星と舵」に対する三島批評」 本文:この頃の江藤さんの文芸時評に関連して、思い出したことがある。この連載の第六回で紹介したように、六十五年一月号と二月号に分載した石原慎太郎の長編小説「星と舵」について江藤さんは「才能の浪費の好例」として

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石原慎太郎「星と舵」に対する三島批評

元祖SHINSHINさん
元祖SHINSHINさん

この頃の江藤さんの文芸時評に関連して、思い出したことがある。

この連載の第六回で紹介したように、

六十五年一月号と二月号に分載した石原慎太郎の長編小説「星と舵」について

江藤さんは「才能の浪費の好例」として退けたが、

実はその後に三島由紀夫氏がかなりの評価を下していたことがわかったのである。

 

それは出版部が企画して前年に完結した全八巻の「石原慎太郎文庫」の八巻『星と舵』に

解説として書かれた一文であった。

 

「『星と舵』は、石原氏の持っているよいものが横溢した作品で、

その中の或部分は読後永く心に残る。小さな結晶した透明な作品とは云えなくても、

海と同じように、雑多な漂流物に充ちつつ、その底にはたえざる潮流がある。

いろんな特色において、この作品は海および航海に似ている。

これが海と航海を扱った小説である以上、それは成功のしるしに他ならない。

ある人には長すぎると思われ、或る部分は退屈と思われるかもしれないけれど、

航海はつねに長すぎ、いかなる冒険的な航海といえども、航海は退屈なものである。

従ってこの作品の内容や気分のみならず、形式も航海にふさわしいと云えるだろう。

すなわち、この作品は決して長すぎない」

 

と書き、次にはほとんど江藤氏にむけていうべきことのような文章がくる。

 

「かくて石原氏が愛するものは自己の投影としての宇宙であり、

この作品は日本浪漫派の衰退ののち、二十年後にあらわれた真にロマン主義的な作品なのだ。

逆に云えば、『星と舵』を構成する各部分は、

この主題に忠実であればあるほど美しく、不忠実であればあるほど醜い。

私は今まで故意に、『星と舵』の大きな部分を占める『女』について触れずに来たが、

それを語るには、どうしてもこの主題を前提にしなければならないからである。

 

/結論から先に云うと、この作品では、他の近作に比して、

氏の登場させる女がさほど作品の瑕瑾になっていない。

はっきり云えば、氏の作品で女が現れるとガッカリするほどその部分が甘くなるのだが、

『星と舵』ではそれほどの難がない。

というのは、ヒロインの久子が、具体的な女であるよりは、

後半にいたってますます『僕』の主題のなかにしか存在しない観念の女になってゆくからである。

 

/海は女であり、船は女であり、女は女である。

この爽快な作品が爽快でありえているのは、しかし、女のためではなく、

すべてが女という観念のためである。

しかも『行為と死』などのようには、女という観念と具体との無理な結合は見られない。

(同じ理由から、若いクルーたちの、何ら観念性のない雑談や性的思い出話の部分は醜い)」

 

この三島氏の文章は明らかに

「『星と舵』は、おそらく半分以下の枚数で、比類のない航海小説になり得たかも知れないのに、

石原氏の職業意識の不徹底さの故に、数カ所のこの上なく美しい海洋描写と、

この上なく退屈かつ通俗的な女の話との混合に終わっている」

と書いた江藤氏の文芸時評に対するものだ。

 

それに、時評と解説では文章の役割が異なっていることもあるが、

この『石原慎太郎文庫』には、

〈三島由紀夫・江藤淳・大江健三郎編集〉と刷り込んであることから考えると、

すべて承知の上で三島・江藤両氏が意識的に役割分担をしたのかもしれない。

 

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★「文芸誌編集実記」

  寺田博著 河出書房新社 2,000+税 2014.4.20初版印刷 2014.4.30初版発行

  「三島由紀夫の解説」P.127~129より抜粋

 

「文芸」の元編集長であった寺田博による回想録だ。

 

抜粋した三島の解説は、

常に完璧な創作を目指していたのであろう作家の目を通じてみたものなので、

これはこれから書き手を目指す人にとっても、大きなヒントになると思われる。

 

慎太郎って、なかなかやるじゃん。。

 

PS:川上弘美の新書が出ると新聞広告。短編集らしい。

   絶対に買う。

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