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「新聞に広告を出してみれば?」と彼女が提案した。「あなたのお友達に連絡してほしいって」
「悪くないな」と僕は言った。効果があるかどうかは別にして、何もしないよりはずっとましだ。
僕は四つの新聞社をまわって翌朝の朝刊に広告を入れてもらった。
鼠、連絡を乞う
至急!!
ドルフィン・ホテル406
そしてあとの二日、僕はホテルの部屋で電話を待った。電話はその日のうちに三本かかってきた。
一本は「鼠とは何を意味するのか?」という一市民からの問い合わせだった。
「友達のあだ名です」と僕は答えた。
彼は満足して電話を切った。
もう一本はからかいの電話だった。
「ちゅうちゅう」と電話の相手は言った。「ちゅうちゅう」
僕は電話を切った。まったく都会というのは奇妙なところだ。
あと一本はおそろしく細い声の女からの電話だった。
「私はみんなに鼠って呼ばれているんです」と彼女は言った。
遠くの電線が風に揺られているような感じの声だった。
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★「羊をめぐる冒険(下)」
村上春樹著 講談社文庫 476円+税 2004.11.15.第1刷 2013.7.1.第24刷
P.34~35より抜粋
「ちゅうちゅう」のところ、「まほろ駅前番外地」に出てくる行天の語りみたいで、笑えた。
赤字のところは、こういう表現って、なかなかできないなと思わせる部分だ。
こういう表現のオンパレードなのには、唸ってしまう。
オイラのような初心者でも、こういう表現を書けるようになると、ぐっと小説家っぽくなる。
こういう表現のまったくない文章だと、ずっと素人っぽくなる。
これは、大きな違いだと思われる。
道は険しい。。
*
「オイラ、小説を読むのはあまり好きでないんだが、誰かオモロイ作家を知らないだろうか?」
マエストロ掲示板でそう書いたら、
「山田太一」と答えてくれた人がいた。
「異人たちの夏」を映画で視たことがあったので、この答えには納得したけど。
山田太一も、早稲田の人なんだよね。
(村上春樹と書かないところが、なんだか臭うぞ・・・)
「羊をめぐる冒険」には、「異人たちの夏」にあったモチーフが底流に流れていて、
想像していたよりもホラー的な要素の大きな作品だった。
背中に星印のある羊、神か悪魔か素性は不明だ。
その羊が憑いた人間は、不思議で異様な才能を開花してしまう。
また、東海アマさんの語る右翼像が、作品の中にさらりと流れるところには驚いた。
「自分の意志で考えていると思っているけど、ホントは眷属が囁いているのかもしれない」
などと、オイラはよく書くのだけれど。
背中に星印のある羊も、それに似ている。
あのヒトラーにも、そういう存在がいたと自身が書物に書いている。
彼は同胞のナチスから、実は命を狙われており何度も暗殺計画にあうのだが、
決して死ぬことのなかった運の持ち主だった。
わずか数メートルしかないところに仕掛けられた爆弾でも、彼はかすり傷も負わなかった。
(かつて関口宏の番組で放送されていたものを視て知った)
きっと、何かがホントウに憑いていたと思われる逸話だ。
ひょっとして神も悪魔も同根であって、
彼らの支配下で、オイラたちはこの世でお芝居をしているだけなのかもしれない。
PSだとすると、鼠はそれに反抗してしまったことになるけれど。。