【お金は知っている】中央銀行がお札を大々的に刷って、銀行に流し込む量的緩和政策は景気をどこまでよくするのか。
日銀は2001年初めから5年間、量的緩和政策を続けたが、白川方明(まさあき)前総裁(08年4月~13年3月)は実体景気への効き目は薄いとして、小出しの緩和に徹してきた。
モデルは米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が08年9月のリーマン・ショックから現在まで、3度にわたって実施してきた量的緩和政策である。
量は増えても、カネは回らなければ意味がない。預金に対してどのくらいの割合で貸し出されているかを示す「銀行の預貸率」である。
その秘密は米国の金融構造にある。米国の国内総生産(GDP)に対する銀行融資残高の割合はことし9月末で43%に過ぎない。
すると企業などは証券市場から低コストの資金を調達できる。株式など証券資産主体に金融資産を運用している米国の個人はフトコロが潤って消費を増やす。
日本の場合、家計の金融資産の54%は現預金で、株式など証券資産は14%に過ぎず、米国とは真逆だ。
異次元緩和は円安・株高の誘因に違いない。しかし、株価を上昇させても恩恵は一部の大口株主にとどまる。
米国と違って資産効果が個人消費に波及する度合いは小さい。消費需要が伸びなければ企業も雇用増や設備投資をためらう。
もとより、銀行融資に依存する中小企業は円安で収益を減らしている。
原材料コストが上がっているが、販売価格に転嫁できないためだ。来年4月からの消費増税で雇用の7割を占める中小企業はさらに収益を圧迫される。
米国並みのパワーが見込めそうにない日本の異次元緩和は消費増税でさらに効力をそがれるだろう。