最近ともすれば忘れがちなユーロ危機ですが
明らかに経済の国家間格差や緊縮財政などの弊害が表れている様な気がします。
しかも欧州は東アジアなど海外からの移住者が多く
自国民にとって失業率の悪化は指数以上に厳しいものがあります。
先日スウェーデンで起こった暴動もこうした背景が原因ですが
若年層の失業率悪化が止まらないことは、国の将来にとっても大きな問題です。
現在ユーロ加盟国ではおよそ30%の若者が職に就けないという異常事態が起こっています。
またユーロ圏全体の失業率も12.2%(およそ2000万人)に達していますが
この数字は統計史上最悪で、特に若年層の失業率が突出しているギリシャ(65%)
スペイン(56%)、イタリア(41%)などでは若者の不満が爆発し
何時暴動に発展しても可笑しくない状況ではないでしょうか。
次に気になるのが家計の債務比率です。
2007~2012年の間に米国が130%から105%まで減少したのに対し
ユーロ圏は100%から110%に増加しており、景気の悪化を物語っているとも言えそうです。
そして意外にもオランダが250%で世界トップクラスの債務比率になっているのですが
昔から経済が安定していた国だけに、ユーロ統一の新たな不安要素になると大変です。
ユーロ加盟国は現在17か国(新たにクロアチアが参加予定)ですが
通貨統一時に国家間の金利差を利用した不動産投資がエスカレートして
スペインの様に深刻な住宅バブルに陥った国も少なくありません。
また債務危機国としてユーロの足を引っ張るギリシャ、アイルランド、ポルトガル
スペイン、キプロス、スロベニア、イタリアに加え
ユーロを支える側であった筈のオランダの財政問題が浮上したことで
(失業率も増加傾向で現在8.1%)ユーロ危機は新たなステージを迎えた様な気がします。
しかしこの様な状況下にも関わらず、従来より欧州はインフレ率が高いことから
ECBは積極的な量的緩和政策に踏み切れず
謂わば八方塞がりの状態にあることがユーロの経済が停滞している一因とも言えそうです。
つまりユーロ加盟国の経済力には大きな格差があり
ドイツやフランスの様に資金が流入しても全く問題のない国がある一方で
同じ金額の流入でも深刻なインフレに陥る国があるところに
統一された金融政策の運用の限界がある様に思います。
ところでユーロ統一の障害は金融政策の在り方だけでなく
統一以前からの経済格差や民族・文化の違いなども重要だと思います。
①国家間の経済格差
まずユーロ加盟国の平均年収とGDPを比較してみます。(但しどちらも一昨年のデータです)
<ユーロ加盟国の平均年収> (単位:US$)
①ルクセンブルク: 37,499.20 ②オーストリア:23,824.10 ③オランダ: 23,770.30 ④ベルギー: 23,639.50 ⑤フィンランド:23,549.70 ⑥ドイツ: 23,534.80
⑦フランス: 22,751.30 ⑧アイルランド:21,846.50 ⑨イタリア:19,276.10
⑩スペイン: 14,575.70 ⑪キプロス: 12,013.60 ⑫ギリシャ: 11,342.30
⑬ポルトガル:10,316.10 ⑭スロベニア: 9,670.48 ⑮マルタ:9,125.77
⑯エストニア: 3,956.04 ⑰スロバキア: 3,739.12
<ユーロ加盟国GDP> (単位:100万US$)
①ドイツ:3,577.030 ②フランス:2,776.320 ③イタリア:2,198.730
④スペイン:1,493.510 ⑤オランダ:840.430 ⑥ベルギー:513.400
⑦オーストリア:419.240 ⑧ギリシャ:303.070 ⑨フィンランド:266.500
⑩ポルトガル:138.880 ⑪アイルランド:217.670 ⑫スロバキア:96.090
⑬ルクセンブルク:58.410 ⑭スロベニア:49.590 ⑮キプロス:24.950
⑯エストニア:22.230 ⑰マルタ:8.900
ユーロ17ヶ国中赤字で示した国は財政危機国ですが、第2位の経済大国フランスも失業率が悪化し
ユーロを牽引するドイツでさえ、失業率は6.9%という比較的高い水準から改善していません。
またお解かりの様に、ユーロ加盟国の国民年収は
1位のルクセンブルクと最下位のスロバキアとでは10倍の開きがありますが
ガソリン価格が最も高いのはスロバキアという物価の矛盾が起こっているのも問題です。
また国家間の所得格差が原因で、低所得国から高所得国に優秀な人材が流出したり
技術力や開発力の格差が広がるという現象が後を絶ちません。
さらに経済をリードするドイツやフランスでは日本と同じく産業の空洞化が起こるなど
ユーロ圏では様々なねじれ現象が生じており
ドイツやフランスの失業率が高止まりしている原因は、どうやらこの辺りにもありそうです。
②宗教の違い
ユーロ加盟国の宗教はキリスト教が主流ですが、実際には様々な宗教が混在しています。
またキリスト教もカトリックとプロテスタントに分かれており、思想に違いがあるのも事実です。
<カトリックが主流の国>
イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、オーストリア、ベルギー
ルクセンブルク、アイルランド、スロバキア、スロベニア、マルタ
<プロテスタントが主流の国>
ドイツ、オランダ、フィンランド
また、ギリシャはギリシャ正教、キプロスはロシア正教とギリシャ正教
エストニアはロシア正教とプロテスタントがそれぞれ主流といった具合です。
無論これ以外にもイスラム教やヒンズー教など様々な宗教が一つの国家内に存在することが多く
仏教が大半を占める日本とは宗教文化が全く異なるのが特徴です。
そして宗教や宗派によって倫理観が異なることもユーロ統一の障害の一つだと思います。
欧州の宗教 → http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPTYE87501A20120806
③言語の違い
ユーロ加盟国で使用されている言語は、ざっと数えただけで25種類以上あります。
しかも英語が使われる国はアイルランドとマルタの2ヶ国
ドイツ語はドイツ・オーストリア・ルクセンブルグの3ヶ国
フランス語はフランス・ベルギー・ルクセンブルグの3ヶ国
つまり圧倒的多数の言語が存在しないため、言葉の壁も障害の一つになると言えそうです。
欧州で使われる言語 → http://www.kokusai.ne.jp/Japanese/indexsyueurope.html
④民族の違い
欧州の民族を大別するとゲルマン民族・ラテン民族・スラブ民族に分類出来ますが
それぞれの民族を一纏めに出来る訳ではなく
例えばゲルマン民族だけでも10種類以上の部族から成り立っています。
因みにイギリス人はアングロ・サクソン系などと言われますが
そのルーツを辿るとゲルマン民族に分類されるアングル族とサクソン族が
グレートブリテン島に移住したところが原点になっている様です。
欧州の民族 → http://wee.kir.jp/contents/cont_euro.html
この様にユーロ加盟国の経済や文化の違いを知れば知るほど統一の難しさを感じてしまいます。
余談ですが、ユーロ加盟国で最も所得が少ないスロバキアにはフォルクスワーゲンの工場があります。
無論賃金格差を狙っての進出ですが、お膝元での売り上げは小さく
スロバキア国内で頻繁に見掛ける車はヒュンダイ社製です。
先にもお話した様にスロバキアのガソリン価格はユーロ加盟国の中でトップクラスですが
日本のガソリン価格と比較すればおよそ2割増しの水準です。
ですからスロバキアの人々は休日でもドライブをすることは稀で
電車やバスを利用したり、家族揃って公園でのんびりしたり
友人同士はオープンカフェでお喋りするというのが一般的な過ごし方の様です。
(個人的にはむしろこういう生活に憧れます・・・)
因みに、同じ休日でもドイツでは若者達が逆輸入したフォルクスワーゲンを乗り回し
アウトバーンを時速200km以上でぶっ飛ばしているという訳です。
私はこの事例がユーロ加盟国の経済格差の実態を象徴していると思います。
ところで、ユーロ圏では債務危機国が多数を占めつつあり
万一ドイツのメルケル首相が失脚すれば、一気に崩壊への道を歩む危険性が増すでしょう。
また最近比較的安定していた債務危機国の国債金利が再び上昇を始めており
QE3や中国経済以上にユーロ危機の再燃が不気味な存在として
再浮上して来るのではないかと考えています。
ユーロ危機は決して沈静化しているのではなく、嵐の前の静けさに思えて仕方ないのですが
少なくとも投資家は今一度ユーロ危機と向き合う必要があると思います。
ユーロ破綻、そしてドイツだけが残った →