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中国、天津にて(36)

 中国の一般庶民の「食」に対する姿勢について、この日記の初めの方で取り上げましたが、それに比べて日本人の「食」に対する意識の偏向している面を何度か取り上げています。

 殺虫剤入り冷凍餃子事件で明らかになりつつあるのは、日本人の「食品は安心安全なもの」という間違った思いこみに由来する部分が大きいと感じます。
 日本人の多くの人々は「食品の安全」までも、お金で買っている、と思いこんでいます。
「食の安心安全」のコストは企業持ちだから、と他人任せで、のんきに構えているのです。


 中国食品検査監督総局のホームページには、食品について米国や日本を名指しで「敏感国家」と定義して、それらの国に対する食品輸出体制についての徹底再検査を指示しています。

 この指示に基づき各省各直轄市の商品検査体制が強化され、日本への食品全般の輸出がストップしてしまいました。


 そもそも食品は「安全」なものとして存在しているのでしょうか。
 遠く原始の人は、直接口に含んで(リスクを冒して)、食せられるものか、人体に危害を及ぼすものかを身をもって体験して、口伝えに或いは経験の蓄積として「食物」を食物たらしめて来たのだと言えるでしょう。

 そもそも国産や中国産、外国産といった言い方自体が「食品」にはそぐわないように感じられます。
「食品」とは、人類にとって、そもそも初めからグローバルなものであると思います。貨幣以上に。
 人類が「食する」ことの出来るものについて、産地など問っていたら、確保が難しい性格のものだからです。

 人類の長年の経験と知恵が安全な「食品」を生み出しましたが、かつては国境や言語、民族、宗教、経済力等によりその流通は大きな制約を受けてきました。
 いまだに食糧の確保が難しく、飢餓や餓死者を出している国は存在し続けているのです。

 いま、日本では食品や農産物の「国産」を増やせ、とか「地産地消」(生産地で消費する)を進めろ、との大合唱があります。
 今まで「食の安全」まで企業メーカー側に押しつけていたのに、今度は「地産地消」です。農民に「食の安全」を担保させようというのでしょうか。
「地産地消」の時代に戻れば、やはり「食の安心安全」は、農民だけでなく消費者自らの選択責任を果たす割合が大きくなります。

 今の体制では、製造流通を担う企業メーカー側に大部分の「食の安心安全」を押しつけておいて、何か問題が発生すれば、企業と行政側の責任を追求していればよいだけです。

 それにしても、農業は疲弊し、農家や漁業の後継者は育たず、農業・漁業技術も廃れていきつつある今の日本の現状です。
 戦後の奇跡的な経済発展をとげた日本は、農業や漁業、林業を犠牲にしてまで、優秀な人材を製造業が確保し続けてこれたために、技術・経済立国となってきたのではないですか。
 そうして地方を離れ、都市化してしまった住人は、直接農民の手からではなく、食品を産業から供給される側に回ったのです。

「地産地消」でしか口に出来なかった、かつての生鮮品を、今私たちは国をも超えた生産物流体制の革新的な進歩により、包材に入った生鮮品や冷凍品、加工食品として享受できる立場に立てたのです。

 食品メーカーが中国現地生産に大きく舵を切る際には、中国の国内の現状(農薬まみれの野菜とか、多くの報道があった)を踏まえて、日本での生産・加工体制以上の衛生管理技法を現地工場に導入し、農作地の作付け方や農薬の管理なども徹底して、現地生産に臨んだ企業が殆どでした。

 むしろこの衛生分野や低農薬の栽培法は、日本の食品工場や農家の実態よりも数段進んでいるというのが現状です。
 この間の企業産業の果たした役割は革新的なものでした。

 こうした進んだ企業の食品の製造・流通の新しい仕組みは、「食物」の不足する国や地域に適用・応用することで、新たな食の分配を可能にできます。
 世界の食糧問題は、国家間を超えて解決すべき段階に入っています。経済格差や地域紛争による人間の生存に関わる「食の格差」を新たな食の配分の仕組みによって変えていくべきでしょう。

 食料も地下資源と同等で、今や大量消費国同士で確保合戦が始まっています。
 日本も、中国を初めとする食糧確保の既得権を簡単に明け渡すようなことをすべきではありません。
 この件に関しては、国家戦略が絡む重要な問題です。

 ところが、今日本の消費者は、国産品を求めたり「地産地消」にこだわる、というのです。
 極端な声は「中国産は購入しない」なのです。

 こうした主張は、心情的には理解できますが、それでは日本は食の「先祖返り」となってしまいます。
 疲弊著しい日本の農業の担い手(高齢者)に、鞭して増産を義務づけるのでしょうか。さんざん痛めつけておいて、今更それは酷な話でしょう。

 日本で食の農薬被害が、あまり問題にされないのは、強力な農薬の販売が許可されていないだけで、過去には過農薬被害は日常茶飯事でしたし、今の日本でも大量の農薬は消費され続けているのです。



 国内の大手流通業者(生協も例外ではない)に消費者は、これまで踊らされ続けてきました。消費期限の導入や生産者の顔が見える農産物などというのは、幻想でしか有りません。決して「食の安心安全」を担保するものではないのです。

 何か問題が発生した時に、大手流通業者は自分たちに追及の手が及ばないように、メーカーや農民に責任を押しつけようとしているだけなのです。
 あたかも取れたてや作りたての食品(生鮮品や加工品など)を食卓にお届けするような幻想を消費者に植え付けて、要は購買を促進したいだけなのです。

 すでに都市の消費者は、大手流通業者の箱の中から、陳列品を選択させられているだけで、メーカーや農民の手からは既に離れてしまった「食品」(=商品)をカゴに放り込んでいるだけなのです。
 こうした現実が認識・理解されて、食品問題はよりよい解決・進歩が図られるべきでしょう。


 日本の「食」の現状は決して悪くはありません。
 むしろ食品の選択のバリエーションと質が格段に向上していますし、今まで手に入りにくかった食品や新しい生鮮品が格段に増えています。
 しかも、低価格品から中級品、高級品、最高級品と、値段の選択余地が多くなりました。


いわゆる「餃子」問題は、故意による食品テロ対策の要素が大きいでしょう。日本での対策が大きく後れを取っているのです。

 日本での食品問題は、商品に対する問題だと、端的に言える段階にあります。
 皆さんは、良い商品を選ぶ際、何を基準に選びますか?
 機能ですか、価格ですか、或いはメーカーですか?

「食品」も「安心安全」を言うなら、信頼できるメーカーやそのブランドで選ぶべきです。
食してみて、自分に合った商品や信頼に足るメーカーの商品を選んで、食べ続けていれば、あまり酷い食品被害に遭う確率はうんと減ります。

「食品」は、メーカーやブランドで選ぶべきであって、「国産」かどうかで選択するという基準は全くのナンセンスです、と本当のことを最後に言っておきます。


                      <つづく>
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