その日は、たまたま秋子が仕事を休みの日で、明彦は、今日しかないと思い会社に電話してみた。
「店長さんは、おりますか。」
電話に出た、若い女の声は、「どんな御用ですか。」と聞いてきた。
「事情が有って、今は言えません。店長さんに話せば、私がどういう人か、全てが、後になってわかります。」
店長が出てきて、秋子の父親であることを告げ、秋子の退職のことで、聞いてみた。
「秋子さんからは、退職するとは、聞いておりません。」
予想外の言葉だった。ふっと、何がどうなっているのか、めんくらったが、しかし心の中では、安心した。家で退職する、退職すると、言っているだけだった。
それから、「雑談程度で良いから、会ってくれませんか。」と頼んでみた。場所は、他の従業員には、分からないように会いたいと、希望を言うと。
「会社に応接室がありますから。」と返ってきた。
そこで、午後2時に会う約束をした。
昼食を食べ、時間を見計らいながら、明彦は、家で他のことをやりながら、考えた。考えたといっても、何も考えなかった。ただ、時間を潰していただけだった。
約束の時間に、店に行ってみた。7人くらいの店員が応対していた。他に案内係が2人いた。案内係に、店長と約束が出来ていることを話すと、店長は直ぐに奥から出てきた。まだ若い30歳前後の男の店長だった。仕事疲れのためか、身だしなみが、少し悪いと思った。しかしまあ、この暑さ、そしてこなさなければならない業務量、みだしなみなど、そんな事言っている場合でもないのだろう。明彦君だって、相当、ひどい格好で行った。そんなこと、かまっちゃいられないという、心境だった。そう、親が死んで、葬儀をどうするかという場合を想像して欲しい。最低限のことが出来ればよいと思っていた。
そのわずかの間に、店の中を見渡した。「只今の待ち時間が180分」と出ていたのが、目についた。
応接室と言っても、6畳くらいの広さで、半分物置で、テーブルと椅子がある飾り気など、全く無い部屋だった。一通りの挨拶をして、約30分間、話してみた。