「しあわせってなんだっけ、なんだっけ、うまいしょうゆがある家さ」。昨年、コマーシャルソングでまた聞かれるようになりましたが、もとは1986年、明石家さんまが歌って大ヒットしたものです。当時、日本はバブルの入り口で、みな幸せを謳歌していました・・・。
私はこの歌を聞くと義理の叔父さんのことを思い出します。彼は、ぐーたらで、はったりやで、借金は踏み倒し仕事は長続きしません。叔母はそんな亭主でも文句も言わず、小学校の給食係として働き、遊んでいる亭主に代わって生活を支えたのです。
親戚からは相手にされない二人でしたが、このコマーシャルソングがはやっていたころ、母と一緒におじさん夫婦の家を訪ねたことがあります。二人はもう70に近く、小田急の藤沢駅近くの4畳半と台所だけの安アパートに住んでいました。
おじさんは、この家には不釣合いのフルートを取り出して、「僕はねフルート奏者の何とかさん(名前は忘れましたが)が、日本で演奏したときに手伝ったことがあり、その縁でこのフルートを貰ってね。彼からニューヨークのカーネギー・ホールで演奏会をやるときには、ぜひ来てくれといわれているんだよ。カーネギー・ホールで彼の演奏を聞くのが楽しみでね」と。
「それはすばらしいですね」と答えたものの、真偽を図りかねておばさんのほうに目をやると、「また始まった」という顔をしていましたが、そのうちに「わたしもねー、そのとき着てゆく服のことを考えているのよ」と話に乗ってきます。私はほのぼのとした夫婦の愛情を感じました。
この後、おじさんは自慢のフルートで演奏してくれましたが、音楽に興味のない私にはただうまいと思うだけでした。とはいっても、どう見ても不幸としか見えないこの夫婦でも、夢がありその夢を追っているときは、幸せなんだなと思わずにはいられません。
おじさんはこれから4~5年ほどで他界し、おばさんもおじさんの後を追うようにこの世を去りました。どうやら、おじさんの夢は実現しなかったようでした。
それにつけても、しあわせってなんだっけ、なんだっけという歌を聞くと、夢を追っているおじさん夫婦のあの時の顔が重なり合います。
日本はバブルの崩壊を経て、いまだに失われた20年の中にあります。世界最高水準にある年金や医療保険を、5%という低い消費税の元で達成したというのに、恩恵を受けている老人たちからも不満の大合唱です。今一度、幸せってなんだっけと自問して、夢を見付けその夢を追いかけ幸せを取り戻したいものです。