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田中宇 国際ニュース解説 核軍縮

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★オバマの核軍縮
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 米国のオバマ大統領はG8サミットの直前、7月6日から8日までロシアを
訪問した。米露は、双方が戦略核弾頭を従来の2200発から1500-1700発
へと約3分の1ずつ減らし、核弾頭を搭載できる戦闘機や潜水艦についても大
幅に減らす核軍縮の合意を締結した。同時に米露は、世界の核兵器全廃を目標
に、来年さらに核兵器を削減する交渉を行うことで合意し、覚書を取り交わした。

▼英国の反応でわかるオバマの本気

 私は当初、核軍縮をめぐるオバマこうした考え方を、美辞麗句のたぐいと思
っていた。ところが、核軍縮に対する英国の反応を見て、実はオバマは言葉通
りのことをやろうとしており、画期的な展開になるかもしれないと気づいた。
英国のブラウン首相は、G8サミット前には、核の脅威が存在する限り、一方
的に核兵器を廃絶することはできないと言っていた。だがブラウンはサミット
後に言い方を変え、北朝鮮やイランに核を放棄させるための世界的核軍縮に英
国も協力し、核兵器を削減しても良いが、現在英政府が予定しているトライデ
ント核ミサイル(潜水艦搭載、160発)の改良計画だけはやらせてもらう、
と言い出している。

(英国はひどい財政難で、トライデントの更新だけでなく、米国との同盟関係
維持に不可欠なアフガニスタンへの軍事駐留の継続についても、国内から「金
の無駄。不必要」との反対意見が多く出ている)

 G8諸国の中で、核兵器を持っているのは米英仏露の4カ国だが、米露は
G8直前に核軍縮を決め、フランスはドイツとともに、核兵器は時代遅れの兵器
だとする考え方をEUの方針とする流れにある。残るは英国だけだ。ブラウン
の発言からは、G8サミットに際して、オバマからブラウンに対し「核軍縮に
協力する気がないのは君の国だけだぞ」と圧力がかかり、ブラウンが「今やっ
ているトライデントの更新だけはやらせてくれ」という条件つきで、しぶしぶ
オバマの構想を認めたことがうかがえる。

 オバマは本気で「米露を中心とする先進国が核兵器を廃棄して世界の手本と
なり、北朝鮮やイランなど途上国が核兵器を持とうとするのを思いとどまらせ
る」という政策を実行しようとしていると考えられる。オバマは記者会見で
「すでに核を持っている国が、まだ持っていない国に核保有をやめさせるという
従来の構図とは別のやり方が必要だ」「核兵器に関して、イランや北朝鮮だけ
が悪いという従来の規範ではなく、全世界が守らねばならない新しい規範を作
る」と述べている。また英ブラウンは「将来は、核兵器を持っていない国が、
持っていないことを証明することの方が、各国の責任となる」と言っている。

▼許されなくなる日本の核武装

 北朝鮮に関しては、オバマの世界的な核廃絶計画は、まさに北朝鮮が望んで
いたとおりの展開になる。以前の記事「北朝鮮は核武装、日本は?」に書いた
ように、ブッシュ政権で北朝鮮担当の高官だったビクトル・チャは「北は、米
国から核保有国として認めてもらい、米朝が対等な立場で核軍縮を行う展開を
望んでいる」と指摘している。オバマが米露核軍縮合意に際して発した「北朝
鮮やイランに核兵器開発をやめさせるためにも、米露など先進諸国が核兵器を
廃棄すべきだ」という言い方は、まさに「米朝が対等な立場で核軍縮を行う展
開」である。イランに対する非難は濡れ衣なので、米国主導の国際社会は、北
朝鮮を核廃絶させるために世界的な核廃絶を行うことになる。

北朝鮮は核武装、日本は?

 今後、オバマの核廃絶計画が進展して行くほど、北朝鮮は気が大きくなり
「核廃絶してやるから、在韓米軍を撤退しろ」と要求するだろう。米中枢では
ブッシュの時代から、在韓米軍はなるべく早く撤退し、アジアのことをアジア
に任せる新体制を実現する多極化の構想が見え隠れしてきたが、その実現のた
めに、北朝鮮の強硬姿勢が再度、口実として使われそうだ。

アジアのことをアジアに任せる

 北朝鮮は、核兵器を廃棄すると言いつつ、一部を隠し持つかもしれない。し
かし重要なのは、北が核兵器を隠し持つかどうかではなく、東アジアに紛争を
抑止する多国間の枠組みを作れるかどうかである。それについて米国は、北朝
鮮の核問題が解決したあかつきには、北核問題の6カ国協議を、東アジアで初
めての多国間安全保障の枠組みに発展・存続させる構想を、前政権時代から持
っている。

 この新体制下では、北朝鮮は中国から監督される代わりに、日米韓は北朝鮮
に対する敵視をやめて、和平条約を締結することになる。これによって和平の
枠組みが作られれば、北が核を隠し持っていても、大した問題ではなくなる。

 日本はこの新体制に移行する際に、北朝鮮と和解し、ロシアとも和平条約を
結ぶ必要がある。北方領土問題は、日露合意のもとで棚上げするか、二島返還
で解決するしかない。米国の覇権衰退とともに、今後の日本は米国の後ろ盾が
失われ、ロシアに対して弱い立場になるので、二島を大きく上回って日本側が
返還を受けられる可能性は非常に低い。中国に対しても、日本は今よりさらに
弱い立場になるだろう。

 日本が弱い立場になることを拒否して単独で軍事大国化するという選択肢も
ないわけではないが、世界的な核廃絶の動きが始まると、日本の核武装は許さ
れなくなる。すでに日本は、世界から「米覇権が崩壊したら核武装しそうな国」
と疑われている。こっそり核兵器開発すると、すぐにばれて世界から非難され、
日本は窮した挙げ句に稚拙な逆切れ状態となり、戦前の二の舞になりかねない。

 今後の世界の核拡散防止は、英首相が言うように「核兵器を持っていない国
が、持っていないことを証明する責任を持つ」という体制になるだろう。世界
から核武装を疑われ出している日本は、イランのように濡れ衣をかけられる懸
念すらある。今後、米国の衰退が顕著になるとともに、日本は核武装すべきだ
という主張が、世論の人気取りのために、日本の言論界や政界で増えそうなだ
けに危険だ。

 米国は、今後しばらくは、日本に対する核の傘を保証し続けるだろう。しか
し、それは建前だけだ。米国は、軍産英複合体が意外な復活を遂げない限り、
一方で日韓などに核の傘を保証する言葉を発しつつ、他方では核兵器の廃絶を
進行させるだろう。日韓など、米国への依存が強い国々も、いずれ米側の言葉
を信用しきれなくなり、米国への信頼を失うだろう。日本は、強硬な孤立主義
や核武装に流れずにすめば、北朝鮮やロシアと和解していき、6カ国協議が発
展して作られる東アジアの多国間安保体制の中で、新たな安定を見出すだろう
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