朝鮮戦争(米中)の危機 田中字

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朝鮮戦争(米中)の危機 田中字

北朝鮮の核実験を受けて、米国は、日韓などを誘って、公海上で北朝鮮の船
を臨時検査する「拡散安全保障イニシアチブ(PSI)」を実施しようとして
いる。PSIの検査対象は、大量破壊兵器の原材料を運んでいそうな怪しい船
だが、どの船が怪しいかというのは主観的な問題であり、米軍は北朝鮮の通常
の貿易船を臨検していくかもしれない。北朝鮮はこれを宣戦布告とみなし、直
接遠くの米国には反撃できないので、韓国との軍事衝突を起こす可能性がある。
今は北も、一触即発の雰囲気を作っているだけかもしれないが、米国が一線
を越えれば、北も一線を越え、戦争になりうる。すでにロシアは、戦争になる
かもしれないとの懸念を表明している。

 PSIに基づく北朝鮮船に対する臨検は、まだ実際には一度も実施されたこ
とがない。PSIは国連決議に基づくものではなく、米国が単独覇権主義を採
っていたときに米国務省にいたネオコンのジョン・ボルトンが作ったものだ。
国際法では、武力行使が許されているのは、国連安保理で武力による問題解決
が不可避だと決議された場合のみだ。PSIについては、一部の国々の軍隊が
怪しいと主観的に思った公海上の商船を強制査察することが合法なのか、違法
な武力行使にあたらないのかという点が、精査されていない。中国は、PSI
の合法性が疑問だとして、参加していない。

 米国がPSIを強硬に実施し、北朝鮮と米韓日が戦闘状態に入った場合、中
国は中立を保ったまま仲裁しようとするだろうが、戦火が拡大すると、しだい
に中立が保ちにくくなる。60年前の朝鮮戦争と同様、米韓軍が北朝鮮の対中
国国境に迫ったりしたら、前回と同様、中国は北朝鮮側に立って参戦せざるを
得なくなる。こうなると、米国の多極主義者が企図していた、中国を台頭させ
て米中協調で世界を支配するといった多極化戦略はつぶれ、代わりに冷戦型の
米中対立が復活する。

 冷戦前と異なり、米国の資本家は韓国や中国に巨額の投資をしているので、
もはや米国は朝鮮半島で中国と戦争するなどという馬鹿なことはしないだろう
とは言い切れない。米英中心主義は昔から、潰されるよりは世界戦争を起こし
て逆転した方が良いと思っている(だから2度も大戦が起きた)。投資の儲け
は、一度戦争をやって焼け野原にした後、復興していけば回収できる。前の記
事に書いたが、米国には、パキスタンの核技術が北朝鮮に流れるようにして北
朝鮮を核武装させたのは米国自身だとする分析もある。世界の支配構造全体を
賭けた戦いなのだから、米英中枢の両派は必死で、何でもやりうる。金日成・
金正日親子やサダム・フセイン、ヒットラー、旧日本軍部などは、このアング
ロサクソン内部の長期暗闘のチェスの駒にすぎない。

http://original.antiwar.com/justin/2009/05/26/is-north-korea/
Is North Korea About to Blow Up the World? by Justin Raimondo

 しかし、駒は駒としての勝ち負けがある。米国が本当に北朝鮮と戦争してく
れるかもしれない状況になったので、韓国の右派政権や日本といった、恒久対
米従属を希求する人々は、にわかに活気づき、喜々として(うれしさをこらえ
て厳しい顔をして)「戦争を覚悟せねばならない」と国民に呼びかけ、北朝鮮
非難の声を高めている。

 朝鮮戦争を再発できれば、米国にとって東アジアで最重要の国は中国から日
本に戻る。日本にとっては「中国ざまみろ」である。在韓・在日米軍の駐留も
続く。朝鮮は焼け野原になっても、日本には戦争特需が再来するかもしれない。
テポドンが飛んできても当たらないので大したことはない。冷戦党だった自民
党は、存在意義を再び国民に認めてもらえる。昨年の福田首相辞任後に起きそ
うだった自民解党の政界大再編を何とか先延ばししておいてよかったという話
になる。

▼朝鮮再戦争なら中国はドルを潰す

 しかし、米国と中国が戦争に近づくとしたら、経済の面から違う展開が起こ
りうる。中国は今、米国債を世界で最も多く買っている。ガイトナー財務長官
が中国を訪問して「米国債は安全ですから、これからも買ってください」と説
いて回ったばかりである。金融対策の失敗と財政赤字の急増、ドルの刷りすぎ
で、米国債の世界的な信用は潜在的に落下し続けている。すでに中国国内では、
米国債は危ないという見方が強まっている。

 そんな中で、米国が北朝鮮に強硬姿勢をとって開戦し、中国を戦争に巻き込
もうと迫ってきたら、中国はどうするか。軍隊を中朝国境に差し向ける前に、
まず米国債を売って米国の長期金利を高騰させ、ドルに対する信頼性を下落さ
せようとするはずだ。中国は、ロシアなどと組んで進めている、ドルを使わな
い貿易決済体制の実現を急ぐだろう。すでにドルと米国債は張り子の虎で、米
英のマスコミやアナリストの客観性を装ったプロパガンダで何とか支えられて
いるにすぎないことを、中国側は知っているはずだ。ドルを支え続けるのも壊
すのも、中国の方針しだいである。

 米中対立になって中国がドルを破壊するのなら、日本は、中国ざまみろとか
対米従属万歳と喜んでいる場合ではない。日本が対米従属を続けたいのは、米
国が最強の覇権国だからである。ドルや米国の覇権が崩壊しては元も子もない。

 戦争になったら、国連安保理でも、中国はこれまでの慎重さをかなぐり捨て、
常任理事国としてPSIの違法性を突くだろう。PSIの基本はブッシュの
単独覇権主義なので、イスラム世界は中国の側につく。原油高騰が煽られる。
ロシアは、以前に欧露協調で米国の強硬姿勢をなだめようとしたイラン問題の
関係でPSIに参加しているが、北朝鮮問題で中国が反米的になってPSIを
非難し始めたら、ロシアも同調するだろう。国連では、創設以来の60年間の
米英による国連支配を打破しようとする動きが強まる。

http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/eo20090604rc.html
The path with North Korea

 中国にドルを壊されるのなら、米国は北朝鮮と戦争するはずがないと考える
のが常識論だ。しかし私が見るところ、ブッシュ前政権以来の米国は、中国や
ロシアやイスラム世界をわざと怒らせて反米で結束させ、世界を多極化しよう
としてきた観がある。中国は米国からの挑発に乗らず、米国から嫌がらせを受
けても黙って受け流してきた。その分、ブッシュの多極化戦略は効果が出なか
った。ところが今、オバマ政権になって、もしかすると北朝鮮と本当に戦争し、
今度こそ中国を怒らせる(反米の側に追いやる)ことができるかもしれない
という場面になっている。

 オバマは、イスラエルや英国に対する冷淡さを見ると、どうもブッシュの戦
略を継承する隠れ多極主義である。しかもオバマは、イスラエルの入植地建設
を強硬に禁じるなど、大胆なところがある(彼は選挙時から大胆さを売り物に
してきた)。そう考えると、オバマが一線を越えて北朝鮮と戦争になり、中国
を怒らせてドル崩壊を早めるという展開があり得る。

 こうした私の予測は、確定的なものではない。米英中心主義と多極主義の暗
闘の構図が間違っていないとしても、両派の今の力関係を測ることは難しい。
力関係によっては、一発逆転の戦争勃発まで至らないかもしれない。しかし半
面、6カ国協議が再開されて北朝鮮問題が外交で解決する見通しがないのも事
実である。北朝鮮は、核実験した以上、核武装まで一気に進みたいと思ってい
るだろうし、国際社会における米国の力も落ちているので、たとえ米国が北と
の直接交渉に応じたとしても、米国主導の問題解決は困難だ。宙ぶらりんのま
ま、一触即発の危険な状態が続くことは間違いない。

◎田中宇の国際ニュース解説の内容です
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