―コロナ禍も世界のマーケットは成長続く、開幕近づき注目度高まる―
東京株式市場は、新型コロナウイルスの「デルタ株」の感染拡大が逆風材料として意識され、方向感が定まらない状況にある。ここにきて新型コロナワクチンの接種拡大に伴い、経済正常化期待で買われてきた銘柄のなかにも弱含むものが少なくない。こうしたなか、依然として投資家の注目度が高いのが「スポーツ」関連株だ。23日には東京オリンピックの開幕が迫っているが、感染拡大を助長するとの見方から歓迎ムードに乏しいという状況のなか、 スポーツ関連の株価は意外ともいえる上値指向を続けている。スポーツ関連株の“いま”を検証した。
●“わが世の春”が一転
スポーツ関連株は、東京五輪関連の一角として注目を集めてきたセクターの一つだ。そもそも同関連株は、2019年9月開幕のラグビーワールドカップ日本大会を皮切りに、20年の「東京五輪」、そして21年の「ワールドマスターズゲームズ2021関西」といったスポーツのビッグイベントが3年連続で開催される「ゴールデン・スポーツイヤーズ」に突入し、まさに“わが世の春”を迎えるはずだった。ラグビーW杯は大成功で通過したが、年が明けると新型コロナの猛威で状況は一変。五輪イヤーでスポーツムード一色に染まるはずだった日本列島は、気がつけば「コロナ一色」に変貌。東京五輪は1年延期、ワールドマスターズゲームズも22年にずれ込むことになった。
●コロナ禍なんのその世界市場は成長
昨年3月中旬、東京五輪開催が危ぶまれるなか多くのスポーツ関連株が安値をつけるに至ったが、同月30日に21年夏への延期が決定すると、とりあえず開催されるという安心感からか株価は底値離脱へ向かった。そして、紆余曲折しながらも開催に向けての動きが強まるなか、今年5月中旬には株価も上昇波動に乗り、現在もなお高値圏で推移している銘柄は少なくない。無観客試合も取り沙汰される東京五輪だが、開幕が接近したことでスポーツ関連株の一角に矛先が向かっている。また、経済正常化を見据えた投資資金の流入に加え、コロナ禍にあっても堅調な業績が株価を後押ししているとみる向きもある。
実は、コロナ禍にあっても世界のスポーツ市場は順調に拡大している。市場調査会社のエヌピーディー・ジャパンが発表した「グローバル・スポーツ・エスティメート(GSE)2021」によると、「20年の全世界におけるスポーツ製品市場は56兆円(=5078億ドル)となり、新型コロナ感染拡大の影響を受けながらも、前年比0.3%増とわずかに成長」したという。わずかなプラスだが、新型コロナがまん延している世界においてプラスであること自体に価値がある。更に「25年の全世界におけるスポーツ製品市場は75兆円(=6814億ドル)にまで成長する」と予測しており、世界展開を加速させている日本のスポーツメーカーにとっては市場の成長は追い風となる。ちなみに米ナイキ
●アシックスに投資家の熱いまなざし
一方、国内勢で投資家の熱い視線が向けられているのがアシックス <7936> だ。同社は、5月13日の取引終了後、21年12月期連結業績予想について、売上高を3700億~3850億円から3850億~3950億円(前期比17.1~20.1%増)へ、営業利益を70億~100億円から115億~135億円(前期39億5300万円の赤字)へ上方修正、これを受けて翌日の株価はストップ高となった。その後も勢いは止まらず、上方修正発表前には1800円近辺だった株価が6月28日には2898円まで買われ年初来高値を更新。現在は、上昇一服も目が離せない状況が続く。
同社は、東京五輪のスポーツ用品カテゴリーで、唯一のゴールドパートナーであることも大きなポイントといえそうだ。五輪思惑+業績の裏付けという株価上昇を促す両輪が上手く回転している。なお、同社は6月22日に「5月13日公表の2021年12月期通期連結業績予想の数値は、当競技大会の各種開催シナリオの影響を考慮しているため、今回の開催方法の発表による業績予想の変更はない」と異例のコメントを出している。
●デサントは高値圏で頑強
デサント <8114> の株価も目を見張る状況にある。1900円近辺でもみ合っていた株価は、6月に入るや上昇基調を強め、30日には3125円まで買われ新値街道を突き進んだ。きょうは小安く引けたものの2900円台中盤で頑強展開となっている。同社が5月14日に発表した21年3月期の連結経常損益は5億8400万円の赤字(前の期は4億5600万円の黒字)に転落したが、従来予想の12億円の赤字を上振れて着地。新型コロナ感染の再拡大による売り上げ低迷が継続する見通しだったものの、想定よりも堅調に回復。中国経済がコロナ禍からいち早く立ち直るなか、同国における合弁会社の業績も好調で、持ち分法による投資利益が想定を上回った。続く22年3月期の同損益は43億円の黒字に急浮上する見通しだ。海外で、デサントブランドの展開力を強める同社の活躍余地はまだまだ大きい。
●大坂なおみ出場思惑でヨネックス
また、ヨネックス <7906> [東証2]にもスポットライトが当たっている。株価はここ急速に上げ足を速めており、きょうも一時23円高の795円まで買われ年初来高値を更新した。同社は、圧倒的シェアを誇るバドミントンに加えテニス、ゴルフが3本柱。メンタルの不調により現在は休養している女子テニスの大坂なおみ選手とスポンサー契約を結んでいるが、東京五輪が復帰戦になるとの見方が強まっており、こうした思惑も株価を刺激しているようだ。これについて日本テニス協会に取材をすると、「(東京五輪への)参加意思は確認しているが、これ以上はお話しできない」と言う。もちろん成績次第の面もあるが、世界中からその動向に注目が集まっているだけに、大会出場が正式表明されるだけでも大きなインパクトを与える可能性がある。21年3月期の連結営業利益は前の期比57.4%減の10億3200万円となったが、従来予想を上回って着地。22年3月期の連結営業利益は22億円を計画するなど業績面でも明るい。
●ミズノ、年初来高値奪回から一段高期待も
ミズノ <8022> の21年3月期の連結営業利益は前の期比39.2%減の38億600万円で着地。続く22年3月期は、前期比31.4%増の50億円を計画している。国内外ともに新型コロナの影響が影を落とすが、国内においてはワクチン接種の拡大、海外ではばらつきがあるものの米国を中心に景気回復が続くとみており、復活期待も高まる。株価は、6月21日に2178円で直近安値をつけたあと切り返しに転じている。きょうは、一時71円高の2490円まで買われ、約3ヵ月半ぶりとなる年初来高値を更新しており、ここからの展開に期待がかかる状況だ。また、同社は世界最大級の生涯スポーツの総合競技大会「ワールドマスターズゲームズ2021関西」で、スポーツメーカーとしては唯一のメジャーパートナー契約を結んでいる。アジアで初めての開催となる同大会も22年5月に開催が延期されているが、翌年に延期されたことでアフターコロナのビッグイベントとして、いっそう高い関心を集めることになりそうだ。
●ゼット、ゴルドウインにも注視
ゼット <8135> [東証2]にも目を配っておきたい。21年3月期の連結営業損益は1億2900万円の赤字(前の期は3億3400万円の黒字)に転落したが、22年3月期は5億円の黒字に回復する見通しにある。コロナ禍にあって、SNSなどでゼットブランドの発信を強化しており、これが今後の業績に浮揚力を与えそうだ。現在は250円を挟みもみ合うが、低位株で急騰習性もあるだけに目が離せない存在といえる。ゴールドウイン <8111> の22年3月期は連結経常利益段階で前期比4.9%減の152億円となる見通しだが、直近3ヵ月の実績である21年3月期第4四半期の連結経常損益は20億9800万円の黒字(前年同期は1億2400億円の赤字)に浮上している。19年のラグビーW杯日本大会開催を材料に株式市場でも一世を風靡(ふうび)した同社株は上値の重い状況が続くが、出遅れ感も漂うだけに注視が必要だ。
●デルタ株感染拡大、アウトドアに再び出番も
そのほかのスポーツ分野では、コロナ禍のなかで前期に続き業績を伸ばす自転車用部品大手のシマノ <7309> 、「ダイワ」ブランドで知られるフィッシング用品のグローブライド <7990> に加え、アウトドア用品を製造販売するスノーピーク <7816> にも注目しておきたい。シマノの21年12月期の連結業績予想は、売上高が前期比20.5%増の4555億円、営業利益が同27%増の1050億円を計画しており、3密回避も追い風に株価は上場来高値街道を快走している。グローブライドの21年3月期の連結営業利益は前の期比2倍の74億500万円に急拡大し、22年3月期も前期比8%増の80億円と伸びを見込んでいる。いったんはワクチン接種の普及で収束の糸口が見えた新型コロナの感染だが、ここ急速に感染力の強いデルタ株の脅威が増しており、再びアウトドアスポーツへの関心が高まりそうだ。
株探ニュース
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