3. 新成長エンジンの創出
冨士ダイス<6167>は自動車産業向け以外でも市場ニーズを先取りした高付加価値製品の開発に注力している。新型コロナウイルス感染症の流行が2年にも及び、新製品開発・新技術開発の進捗が停滞するも、改めて開発が進み出し、2026年度には量産化されるものも多いと見られる。
医療・化学分野では、分析用デバイス(マイクロ流路)成形金型が評価用サンプル対応から試作品評価まで前進した。従来はPDMS樹脂(ポリジメチルシロキサン:シリコンの一種)基板に微細流路を形成することが多く、デバイスの成形に鋼製の金型が用いられてきた。しかし樹脂製分析デバイスでは耐薬品性や耐熱性等の課題があり、その様な場合にはガラス製分析デバイスが使用されている。このガラス製分析デバイスの成形時は高温で不活性ガス環境下になり、鋼製に対し高い鏡面性が得られるため、超硬合金製金型のニーズが高まっている。同社は、耐摩耗性と揺特性に優れたバインダーレス超硬合金(一般の超硬合金のような金属結合相コバルト、ニッケルなどを含まず、鏡面性が出やすい合金)を使用、直彫加工技術を駆使し、ピッチ精度1μm、輪郭精度5μmの超硬合金製分析用デバイス金型を試作した。
さらに同社は従来のバインダーレス超硬合金で不可能であった熱膨張係数8MK-1を超える熱膨張係数と低比重を有したTR合金を開発(( 社 )日本機械工具工業会の2023年「技術功績大賞」を受賞)、ガラス硝材の熱膨張係数に近似させて、成形後の金型からガラス成形体の剥離を容易にし、歩留り改善を可能とした。用途として撮像系レンズ(後述)、医療用デバイス向け等が挙げられる。特に、医療用分析デバイスの製造工程は、エッチングやガラスへの直加工も多く、高コストがネックとなっていた。前述した分析用デバイス、医療用デバイスともに、金型によるプリント成形ができれば大幅なコストダウンが可能となり、血液検査などの予防医学、POCT(診療現場での臨床検査)活用による迅速化での展開が見込まれ、大きな市場が生まれる可能性がある。このほか、マイクロウェルプレート(細胞培養容器:透明な多数のくぼみを付けたプレートで、細菌学・血清学等のマイクロ分析に活用)用金型にも用途が見込まれる。ただし、医療・化学分野は研究機関などR&D向けが大半を占め、中期経営計画のフェーズ2でも材料開発向けが中心で、ラインナップ化や量産化については時間を要すると見られる。
環境・エネルギー関連では、希少金属であるタングステン、コバルトの使用量を大幅削減し、鋼より軽量で超硬合金に迫る硬さと靭性を実現した省タングステン・コバルト合金(サステロイST60)の開発が注目度を増している。同材種は専門紙で取り上げられ同社株価の上昇にもつながったが、実際に( 株 )日刊工業新聞社の2023年“超”モノづくり部品大賞「奨励賞」を受賞している。具体的には超硬合金では比重が大きいため、従来は超硬合金の適用が困難とされてきた回転工具分野(粉砕回転刃、ハンマー)への展開を目指している。現在、混錬機用のスクリューなどへの適用を目指し、顧客によるテストが進んでいる。現時点ではスモール立ち上げを見込んでおり、岡山製造所の既存設備での製作が可能であるが、今後量産ともなれば、岡山製作所内に専用エリアを作ることも視野に入れている。また同合金は米中摩擦やロシア問題などで、タングステン、コバルトなどのレアメタル供給リスクの高まるなか、同社の事業継続を確実なものとする手段の1つになる可能性も秘めている。
このほかではCO2還元用触媒や水素発生用触媒などを開発している。また、二次電池用触媒の開発も並行して進めているが、この分野は様々な企業や研究機関も開発を行っており、同社の粉末冶金技術や高圧合成技術で差別化できるかがカギとなろう。
光学分野では高熱膨張レンズ用金型(TR合金)が従来目指していた用途向けがようやく拡大する動きとなり、成長の加速が期待される。前述のようにTR合金はガラス硝材の熱膨張係数に近似させることで成形後の金型からガラス成形体の剥離を容易にし、歩留り改善を可能とするため、用途として赤外線カメラ用レンズ向けなどを期待していた。しかし実際にはミラーレス一眼カメラ向け撮像用非球面レンズ成型用金型のニーズが高まっている。現在デジタルカメラはミラーレスの時代となり、しかもフルサイズミラーレスが急拡大、交換式レンズは解像度向上のために非球面レンズの多様化(多い場合では1本で4枚)、大口径化も進んでいる。この交換式レンズはコンパクトデジタルカメラに採用されるレンズに対し大径であり、熱膨張による硝材寸法の動きが大きく、成型時における品質には、サブミクロンレベルで曲率を制御する必要があり、モールドの熱膨張率が大きく影響する。このため同新合金への需要が高まっている。さらにここに来て本来の遠赤外線レンズ用の材料としてカルコゲナイドガラス(遠赤外線を透過し物体を熱源として捉えることができる硝材)用金型母材としての用途の拡大が始まりつつある。この要因の1つは同合金が産出地の偏在するタングステンやコバルトを使用せず、安定的に供給できる点にある。中期的には自動運転などで多用されるADAS(先進運転支援システム)向け、防犯監視カメラ向け赤外線レンズ用金型用途などに大きく需要が伸びる可能性がある。現在直径100×50L程度で対応も、カメラでは広角化、センサーでは大型化による高解像度ニーズなどの高まりもあり、大径品も製品化を進めており、用途開発もさらに進む見通しとなっている。
その他分野では、3D造形超硬合金の開発も進めている。従来製作ができなかった形状の金型や部品の超硬化により、耐摩耗性向上と長寿命化が可能となる。現在は製造サンプルを作成中で、超硬合金粉末の組成の多用化なども進め、実用化を目指している。ただしこの分野では( 株 )フジミインコーポレーテッドや住友電気工業<5802>なども開発を進めており、いかにスピード感を持って開発を進めるかがカギとなろう。
次期中期経営計画での収益拡大を支える事業として、量産への期待が膨らむ製品群も現われ、今後の新たな柱としてフェーズ2に大きく開花が期待される。
4. 海外事業の強化
同社は海外事業の強化を行うに当たり、アジアを中心とした海外売上高の拡大について、子会社、輸出の両輪で売上拡大を目指すとしていた。2023年3月期の海外売上高は3,395百万円(前期比5.1%増)、海外売上比率19.8%、海外事業に従事する従業員は約180名規模となっているが、2024年3月期には売上高で3,560百万円(前期比4.9%増)、構成比で20%を目指す。足元では中国の景気悪化などで計画に対して多少苦戦しているが、2023年7月には海外事業本部を設立、担当役員を擁立し海外事業の強化を進めている。中国については潜在需要の大きいEV関連部材メーカーの新規拡販などを目指す。またインドに関しては自動車生産の本格拡大に対応、休眠させていた現地法人の再開に向けて、積極的に市場調査や拡販を進めている。さらに、従来はあまり言及してこなかった北米について、市場調査や現地企業とのリレーション構築など、拡販のための準備を進めている。これらの施策により、海外販売比率25%達成を目指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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