1. 2020年6月期の業績見通し
テックファームホールディングス<3625>の2020年6月期の連結業績は、売上高が前期比21.3%増の8,000百万円、営業利益が同11.1%増の800百万円、経常利益が同10.5%増の790百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が430百万円(前期は16百万円の損失)と増収が続く見通しで、親会社株主に帰属する当期純利益についても過去最高益を2期ぶりに更新することになる。
同社を取り巻く市場環境は良好で、IoT/AI関連サービスや次世代通信規格となる5G関連のシステム開発需要を中心に企業のIT投資拡大が続くと見られ、同社の業績も着実に成長することが予想される。また、2020年6月期より新たに農水産物輸出ソリューション事業を手掛けるWe Agriが連結業績に組み込まれる。業績への影響に関しては、売上高で8億円の増収要因となる一方で、営業利益はのれん償却分(147百万円)が減益要因となる見込みであり、これを既存事業の増益で吸収する格好となる。全般的に見れば前期と同様保守的な計画になっていると弊社では見ている。事業セグメント別の見通しは以下のとおり。
(1) SI事業
SI事業の売上高は前期比11%増の5,600百万円となる見通し。前期に引き続きIoT/AI関連やサービスデザインからの上流工程案件の受注拡大により、売上増と利益率の向上に取り組んでいく。NTTドコモ向けについては5G関連で既に1件のプロジェクトがスタートしているほか、その他にも複数の提案を行っている。5Gでは超高速通信の実現により様々な新規サービスの創出が予想されるため、4G導入期と比較して売上規模も大きくなることが予想される。
また、AI分野では2019年7月末にAI・データサイエンスのスタートアップ企業であるギャラクシーズに出資(出資比率は34%)し、グループ会社化したことを発表しており、これによりAIソリューションの開発力が一段と強化され受注増に貢献するものと期待される。ギャラクシーズの創業者である立教大学理学部教授の内山泰伸(うちやまやすのぶ)氏は、宇宙物理の研究に長く従事してきた人物で、望遠鏡の撮影画像(ビッグデータ)を収集・解析することで天体のモデル構築などを行ってきた。こうした画像解析のノウハウを強みとし、現在は工場の製造ラインでの異常・故障検知を行う「スマートファクトリー」や、小売店における人の流れを解析し、店舗分析や在庫最適化等をサポートする「スマートリテール」の領域でソリューション開発支援を行っている。2018年11月に設立され、人員体制は内山氏を含めて正社員4名(全員が博士)のほか、国立天文台や理化学研究所等からの出向も含めて合計で約10名体制となっている。
今後はAI関連のソリューション開発や、自社グループで展開するプラットフォームサービスにおける多種多様なデータの分析・解析においてギャラクシーズのノウハウ、リソースを活用し、開発期間の短縮や品質・性能等の向上、並びに新規サービスの創出につなげていく考えだ。また、立教大学では2020年4月より日本初のAIに特化した大学院「人工知能科学研究科」を開設するが、内山教授が大学院の教授も兼任することになっているため、今後は有望な若手AI人材の採用がグループで進む可能性があることもメリットとして挙げられる。
IoTソリューションでは自社プラットフォーム「MoL (Monitoring of Location)」を活用したソリューションサービスの拡大が見込まれる。空港における特殊車両の所在管理やメンテナンスを目的に2019年6月期より試験的に一部空港で導入されたが、2020年6月期はその他の空港にも横展開していく予定となっている。また、その他の用途での受注獲得も見込む。プラットフォームサービスは月額利用料等も獲得するストック型のビジネスモデルとなっているため、導入が広がれば収益の安定性向上に寄与することになる。
ee-TaB*®事業に関しては、顧客サービスの向上につながる「客室オーダー機能」(ホテルレストランでのオーダー受付やデリバリー注文、タクシーの呼び出し機能など)に加えて、業務系機能(遺失物管理機能、清掃管理システム)などの機能拡充を進めてきたことで、導入ホテル数が順調に拡大している。2019年8月には帝国ホテル(東京本館)にも全室導入が決まったことを発表している。帝国ホテルでは新たな機能として客室内設備(照明、空調、カーテン開閉等)のリモートコントロール機能も搭載し、10言語対応とした。直近の導入客室数は6千室弱だが、全国のホテルの客室数は約84万室で、旅館も含めると150万室を超える。今後も増加が続く外国人向けのサービス向上ツールとして同システムを導入する宿泊施設数はさらに拡大していくものと予想される。このため、同事業に関しても今後1〜2年内に損益分岐点を超えてくることが予想される。
(2) 自動車アフターマーケット事業
自動車アフターマーケット事業の売上高は、前期比横ばい水準の1,600百万円を見込む。地域密着型の営業活動により自動車整備システムのシェア拡大を進めていくが、大規模顧客向けの部品商・ガラス商卸向け業務支援システムの販売再開が下期以降になるためだ。利益面でも、のれん償却費79百万円がなくなるが自動車整備システムのクラウド化に向けた開発投資を積極的に行うため、前期並みの水準で見込んでいる。
自動車整備システムやガラス商・部品商向けシステムの対象顧客数について見ると、整備事業者数が6~7万社あるのに対して、ガラス商は500社、部品商は1,500社程度となっている。ガラス商や部品商の数は少ないものの、1社当たりの売上規模は整備支援システムの数倍以上となる。このため、同事業が本格的な成長ステージに入るのは早くても2021年6月期以降となる。また、自動車整備システムのクラウド版については2021年6月期の投入を予定している。初期導入費用を抑えられるサブスクリプション型(月額課金収入)モデルとなるため、一時的に売上高が目減りする可能性もあるが、こちらも新規顧客の獲得余地が大きいことから成長は可能と見られ、中長期的に見れば安定した高収益事業へと転換し、連結業績の拡大に貢献するものと予想される。
(3) 農水産物輸出ソリューション事業
農水産物輸出ソリューション事業の売上高は8億円を見込んでいる。2019年3月に株式追加取得により子会社化したWe Agri(出資比率は40.8%、実質支配力基準による連結対象子会社)で展開する事業となる。We Agriは国内の生産者から主にプレミアムフルーツや加工品を仕入れて、ICTを活用した小売在庫管理システムを用いて国内外の小売事業者に販売するベンチャー企業で、この小売在庫管理システムや受発注システムなどの流通データ・プラットフォームを同社で開発し、顧客企業等に提供していくことになる。また、商材については海外で人気のある日本の酒類についても今後取り扱っていく予定となっている。
プレミアムフルーツの契約産地は東京、山形、山梨、長野、熊本、沖縄などにあり、今後も契約先の開拓と海外での販売先を増やしていくことで事業規模を拡大していく方針で、現状は主に香港やシンガポール、タイ等の高級デパート、日系スーパー、高級ホテルなどに卸販売している。
また、テックファームが開発中の流通データ・プラットフォームについては、今後1〜2年程度かけてデータ収集と解析を行い、精度の高い需要予測や最適な卸価格を算出できるシステムの開発を行っていく。データ解析等についてはギャラクシーズのリソースを活用し、2022年6月期以降に有料化サービスへ移行する計画となっている。特に、プレミアムフルーツに関しては季節ごとに需要量や最適価格の設定が変動するため、最適化されたシステムが導入されれば、生産者だけでなく小売店舗にとってもメリットを享受できることになる。また、海外向けの受発注手続きは国ごとに様式が異なり業務負担が大きかったが、同社で利便性の高いシステムを開発することで流通データ・プラットフォームへの参加者を増やし、規模の拡大を図っていく戦略だ。直近ではシンガポールで200店舗を展開する最大手のスーパーからの引き合いもきており、認知度の向上も徐々に進んでいるようだ。なお、2020年6月期の売上高については食品の卸販売が大半を占めることになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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