2. 経営数値目標と成長戦略
(1) 経営数値目標
中期経営計画の経営数値目標としては、2021年5月期に連結売上高で300億円以上、経常利益で21億円以上、当期純利益で14億円以上を掲げている。また、資本政策としては資本効率の向上及び成長投資による事業拡大により、企業価値の向上を図り、ROEで8%以上の水準を目指している。2019年5月期までの進捗状況は順調で、経常利益に関しては1年前倒しで達成できる見通しとなっている。一方、ROEに関しては前期に自己株式の売却により純資産が増加したこともあって、8%以上という目標を達成するためには純利益で16億円程度が必要となってくる。
(2) 成長戦略
中期経営計画を達成していくための成長戦略として、E・Jホールディングス<2153>では以下の点を重要戦略として掲げている。
a) グループ連携の強化
コア・コンピタンスを主軸とした技術力の強化と、グループ各社の連携を強化し、ワンストップサービスの深化を図っていく。
b) 国内建設コンサルタント領域の強化
中核事業となる国内建設コンサルタント領域を更に強化すべく、弱い分野や地域の補強、高付加価値な技術提案型業務の受注獲得に注力していく。弱い分野としては鉄道、電力分野などがあるほか、補償コンサルタント分野での補強も進めていく。また、地域的には、九州、北陸、北海道、沖縄などが弱く、これら地域においてはM&Aやアライアンスの推進によりカバーしていく戦略となっている。
また、国内建設コンサルタント領域は、道路や橋梁、河川、港湾、廃棄物処理、再生エネルギー等の分野別で市場を分けると約20分野に分けられるが、このうち売上高で上位5位以内の分野を現状の5分野から2倍の10分野まで拡大し、総合でトップ5位以内を目指していく。なかでも、同社グループのコア・コンピタンスである「環境」「防災・保全」「行政支援」のマネジメント技術をベースに、5つの重点分野(環境・エネルギー、自然災害リスク軽減、都市・地域再生、インフラマネジメント、情報・通信)に注力し、課題解決型の高付加価値業務の受注獲得により、収益性を向上しつつ事業規模を拡大していく考えだ。
同社は技術提案型業務の競争力強化のため、最新のIT技術なども積極的に導入している。具体的な事例を示すと、自然災害リスク軽減分野では、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)技術を用いて、地域の防災計画における津波発生を想定した避難シミュレーションに活用している。また、近代設計が高い実績を有している無電柱化技術においても、低コスト化を可能とする設計手法(小型ボックスや浅層埋設等)、歩道が狭い路線(またはない路線)における設計手法でノウハウを有しているほか、ICタグやQRコードを使った地下空間管理システムを開発、導入している。同システムは管路埋設と同時にICタグを施設することで管路位置の可視化を実現し、試掘調査の削減や浅層埋設に伴う電線切断事故発生リスクを解消する安全かつ低コストを実現する技術となっている。なお、近代設計は高速道路等の施工管理を含めた発注者支援業務でも実績があり、2020年度以降の着工が予定されている東京・日本橋周辺における首都高速道路の地下化プロジェクトでの受注獲得も期待される。
情報・通信分野では、ドローンを活用した災害現場での3次元計測を行っている。2018年7月に発生した西日本豪雨災害でも、被災直後に河川氾濫地域の被害状況をドローンで3次元計測(レーザー計測)し、迅速かつ精緻に把握し、その後の被害復旧設計に役立てている。ドローンのグループ保有台数は6台であったが、2019年2月に新たに3台を追加購入し9台体制となっている。さらに、2018年5月期に導入した水中ドローン(自律型無人潜水機)は、水中の高精細なデータ計測(位置、地形、水質、流況等)や水中画像を収集可能で、ダムや河川・港湾等の水中調査を行う際に活躍している。2020年5月期には新たに水上型ドローン(自立航行無人機)の導入も予定しており、測量分野での競争力を強化する。
c) 海外コンサルタント領域の進化
中期経営計画では、海外事業の売上高構成比を2021年5月期に10%(2018年5月期は3.8%)、売上規模としては30億円程度まで拡大することを目指していたが、2018年5月期においてJICAの予算が一時的に凍結されたことで(2018年末に再開)、受注が落ち込んだこともあり計画の達成はやや厳しい情勢となっている。とはいえ、今後の成長市場として拡大していく方向には変わりない。海外拠点の増設(ベトナムへの進出を検討)や現地法人化、アライアンスの推進(同業他社、現地企業や大学、研究機関等)を積極的に推進し、とりわけ東南アジアでの事業拡大に注力していく方針となっている。分野的には道路・交通、水供給、廃棄物・再生可能エネルギーなどに加えて、防災(地震・洪水対策)、都市計画等の分野にも展開していく考えだ。
d) インフラマネジメント領域の拡大
インフラマネジメント領域については、近代設計を中心に日本インフラマネジメントや新たに子会社化したアイ・デベロップ・コンサルタンツとも連携することで、技術者派遣や施工管理支援、施設維持・運営管理支援、計測機器レンタル事業等の事業規模拡大に取り組み、売上高構成比で2021年5月期に20%水準(2019年5月期は受注ベースで10.3%)まで引き上げていくことを目標としている。2019年5月期の受注高は3,129百万円であり、2021年5月期には売上高で60億円規模まで拡大していくことになる。社会インフラ整備については、発注者の技術者不足や自然災害が相次ぐなかで、道路や橋梁等の老朽化対策が喫緊の課題となっており、施工・運営管理支援や発注者支援業務等の需要拡大が見込まれる。
e) 事業開発領域の進化
エイト日本技術開発を中心にCDM事業(クリーン開発事業)、アドバイザリー事業の拡大を商社等の異業種連携等により推進していく。周辺領域における新規事業開発として、観光、アグリを主軸とした地域活性化事業を行っている。
地方活性化事業としては2012年以降に、岡山県や秋田県、徳島県において現地の地方公共団体や企業等との共同出資により、アグリ事業における6次産業化に取り組んでいる。岡山県の(株)エンジョイファームでは、農園での青果物の栽培や食育農作業の体験施設「水車の里フルーツトピア」について、2013年4月から5年間の指定管理業務を完了し、新たに5年間(2022年度まで)の継続契約を締結した。2018年5月には軽食コーナーの新設やイチゴハウスの増設も行うなどリニューアルオープンしたことで来場者数も増加し、利益面でも若干ながら黒字となっている。
また、秋田県の(株)ストロベリーファームでは夏秋イチゴ農業の6次産業化に取り組んでいる。夏秋イチゴは現在、9割を輸入に依存しており流通価格も通常の4~5倍と高価格で販売されている。ストロベリーファームでは希少品種である「なつあかり」の栽培に成功し、全国の洋菓子店から注文を獲得できるまでになっている。需要増に対応するため、2019年にはハウスを3棟から6棟に拡大し、2020年夏から出荷量が2倍(収穫量で約5トン)に拡大する見込みとなっており、2021年5月期からの黒字化を見込んでいる。
徳島県の(株)那賀ウッドでは林業の6次産業化に取り組んでいる。木材利活用推進・地域振興事業の一環として徳島県産の品質の高い木粉を土木・建設資材である「ウッドプラスチック」や「塗壁」の原料として販売を目指し、スタートした事業だが顧客からの価格・品質要求とのギャップがあり、現在は公共施設のウッドテーブルやウッドデッキ用材料、あるいは木粉簡易トイレ等の木分活用製品としての販売にとどまっており、収益化に対する模索が続いている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<SF>
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