S&P500月例レポート(22年9月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2022年8月
個人的見解:「我々は海岸で戦う…我々は決して降伏しない」
英国の首相だったウィンストン・チャーチルは1940年6月4日に、そして米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は2022年8月26日に演説を行いました。「我々は海岸で戦う、我々は水際で戦う、我々は野原でも市街地でも戦う、我々は丘で戦う。我々は決して降伏しない」と。
S&P500指数は、金利と、FRBの企業のコストと利益に対する見通しの間でバランスを取ろうとしましたが、8月にそのバランスは崩れました。同指数は月の大半で上昇し、4100台から4200台と順調に推移し、8月16日には月初来で4.72%高の水準まで上昇して4300を一時超えました。インフレと戦うためなら何でもやるというFRBの声明に構うことなく最後まで4000を死守しようとしましたが、最終的に4000を割り込み、前月末から4.24%下落し3955で月を終えました。
現実を突き付けられたのは、パウエル議長がジャクソンホールで行った演説で、この日は3.39%下落しました。議長は、インフレと戦うために「当面の間」、「持てる手段を力強く行使」する意向であり、それには「ある程度の痛み」を伴うが、これは「インフレを抑制するための不幸な代償」であると語りました。
その結果、ハト派スタンスを期待していた市場の見方は一転し、9月20-21日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%(0.50%を予想する向きもなくはありませんが、一方で1.00%という見方も一部にあります)、11月に0.50%、そして(現時点では願わくば)12月に0.25%の利上げが行われるとの見方が強まりました。もちろん、9月21日の午後2時にFOMCの声明が発表された時に引用されるのは、ハリー・トルーマン大統領の伝記的作品「Give ‘em Hell Harry(ハリー、地獄を与えてやれ)」から引用される、同大統領の「私は地獄など与えません。真実を語るだけで、彼らがそれを地獄だと思っているのです」というセリフになるかもしれません。
今や市場では、2023年上半期にFRBが利下げを行うと予想する人は誰もいないようです(下半期の利下げ予想は一部にあるようです)。利上げの効果が経済に浸透するまでの時間を考えると、私も個人的に同意見です。
S&P500指数は8月に4.24%の下落、年初来では17.02%の下落、6月16日に付けた直近の安値からは7.86%の上昇となった後、9月に入りました。過去の実績を見ると、9月は1年で最も低調な月で、1928年以降、9月は平均で1.03%下落しています。
9月は通常、夏休みが終わって「仕事に戻る」月ですが、今年は7月も8月も市場の活気は失われませんでした。市場の見方や取引(資産の再配分)は経済指標に左右されるとみられ、まずは9月1日の製造業購買担当者景気指数(PMI)とISM製造業景況指数、2日の雇用統計が注目されます。その後も、6日にはサービス業PMIとISM非製造業景況指数、13日には消費者物価指数(CPI)、14日には生産者物価指数(PPI)、15日には輸入/輸出統計、そして16日にはお待ちかねのクアドルプル・ウィッチング(株価指数先物、株価指数オプション、個別株先物、個別株オプションの最終取引日が重なる日)とS&P500指数のリバランスがやってきます。
メインイベントは20-21日のFOMC会合で、さらに住宅、在庫、所得、国内総生産(GDP)確報値と続き、月末になれば第3四半期の決算シーズンが顔をのぞかせます。また、新学期商戦に関するニュースも注目されますが、消費控えの傾向が既に見られ、今年の新学期商戦は低調が予想されます。夏の個人消費(予約、購入)も冷え込みの前兆を示しており、小売店は年末商戦への懸念が高まる中で(8月に「年末のプレゼントなんてくだらん」と言った人がいましたか?)、過剰在庫の値引きセールを始めるとみられます。
過去の実績を見ると、8月は59.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.89%、下落した月の平均下落率は3.95%、全体の平均騰落率は0.72%の上昇となっています。2022年8月のS&P500指数は、4.24%の下落となりました。
9月は44.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.28%、下落した月の平均下落率は4.70%、全体の平均騰落率は1.03%の下落(過去の実績では1年で最も悪い月)となっています。
今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2022年9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日、2023年は1月31日-2月1日、3月21日-22日、5月2日-3日、6月13日-14日、7月25日-26日、9月19日-20日、10月31日-11月1日、12月12日-13日、となっています。
S&P500指数は8月に4.24%下落して3955.00で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス4.08%)。7月は4130.29で終え、9.11%の上昇(同プラス9.22%)、6月は3785.38で終え、8.39%の下落(同マイナス8.25%)でした。過去3ヵ月では4.29%下落(同マイナス3.88%)、年初来では17.02%の下落(同マイナス16.14%)、過去1年間では12.55%下落(同マイナス11.23%)、2022年1月3日の最高値からは17.55%の下落(同マイナス16.68%)、6月16日の直近安値からは7.86%の上昇(同プラス8.21%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは16.80%上昇(同プラス21.61%)して月を終えました。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は4.06%下落の3万1510.43ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス3.72%)。7月は3万2845.13ドルで終え、6.73%の上昇(同プラス6.82%)、6月は3万0775.43ドルで終え、6.71%の下落でした(同マイナス6.56%)。過去3ヵ月では4.49%下落(同マイナス3.90%)、年初来では13.29%の下落(同マイナス12.01%)、過去1年間では10.89%下落(同マイナス9.07%)しました。
主なポイント
○S&P500指数は、8月中旬までは7月(9.11%上昇)の上昇トレンドが持続し(6月は8.39%下落、2022年上半期は20.58%下落)、一時は7月末から4.72%高、6月16日の安値からは取引時間中に一時18.83%高の水準まで上昇しました。
しかし、勢いは続かず、FRBによる利上げや個人消費の冷え込みの深さに対する懸念が市場の重石となりました。9セクターが上昇した7月と対照的に、8月は9セクターが下落しました。8月は値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回り、値上がり銘柄数は132銘柄(このうち8銘柄が10%以上上昇)、値下がり銘柄数は369銘柄(このうち71銘柄が10%以上下落)でした。年初来でも同様で、値上がり銘柄数は116銘柄(このうち34銘柄が20%以上上昇)、値下がり銘柄数は385銘柄(このうち213銘柄が20%以上下落)です。9セクターが年初来で下落しており、最も上昇率が大きいのはエネルギーの44.72%上昇、最も下落率が大きいのはコミュニケーション・サービスの31.04%下落となっています。
○これまでに492社(時価総額で98.7%に相当)が2022年第2四半期決算の発表を終え、369銘柄(75.0%)で営業利益が予想を上回り、100銘柄が予想を下回り、23銘柄は予想通りでした。売上高は491銘柄中349銘柄(71.1%)で予想を上回りました。
2022年第2四半期の営業利益は、前期比で4.8%減、前年同期比では9.8%減となる見通しですが、これにはバークシャー・ハサウェイ
○S&P500指数の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の8月の平均値は1.28%となり、7月の1.68%から低下しました(6月は2.03%)。年初来では平均1.85%(7月末時点では1.94%)となりました。2021年は0.97%、2020年は1.73%、2019年は0.85%、2018年は1.21%、2017年は0.51%(1962年以降で最低)でした。
○S&P500指数は8月に4.24%下落して3955.00で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス4.08%)。7月は4130.29で終えて9.11%の上昇(同プラス9.22%)、6月は3785.38で終えて8.39%の下落(同マイナス8.25%)でした。過去3ヵ月では4.29%の下落(同マイナス3.88%)、年初来では17.2%の下落(同マイナス16.14%)となっています。
○バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は17.39%上昇(同プラス20.68%)して月を終えました。
○同指数に関する主な騰落率:2022年1月3日に付けた終値での最高値から17.55%下落(同マイナス16.68%)、6月16日に付けた直近の安値からは7.86%上昇(同プラス8.21%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは16.80%上昇(同プラス21.61%)しています。
利回り、金利、コモディティ
○米国10年国債利回りは7月末の2.85%から3.17%に上昇して月末を迎えました(2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは7月末の3.12%から3.28%に上昇して取引を終えました(同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは7月末の1ポンド=1.2140ドルから1.1621ドルに下落し(同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは7月末の1ユーロ=1.0266ドルから1.0052ドルに下落しました(同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は7月末の1ドル=133.46円から138.98円に下落し(同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は7月末の1ドル=6.7442元から6.8904元に下落しました(同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
○ユーロは対ドルでパリティを割り込みました。1999年にEU加盟国のうち11ヵ国が導入してスタートした単一通貨ユーロの取引初日の対ドルレートは1ユーロ=1.17ドルでした。最安値は2000年の同0.83ドル、最高値は2008年の同1.60ドルで、2022年8月末の対ドルレートは1.0052ドルでした。
○8月末の原油価格は、7月末の1バレル=98.43ドルから同88.87ドルに下落し(今年に入ってから一時同130.50ドルまで上昇)、年初来の上昇率は17.9%(2021年末は同75.40ドル)となりました。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は年初来で16.7%上昇しました(8月末は1ガロン=3.938ドル、7月末は同4.440ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は83.5%上昇し(2020年末は同48.42ドル)、ガソリン価格は69.0%上昇しました(2020年末は同2.330ドル)。
○EIAは2021年のガソリン価格の内訳について、53.6%が原油、16.4%が連邦税および州税、15.6%が販売・マーケティング費、そして14.4%が精製コストと利益だと説明しています。
○金価格は7月末の1トロイオンス=1780.60ドルから下落して1722.40ドルで月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は7月末の21.33から25.87に上昇して月を終えました。月中の最高は27.69、最低は19.12でした(2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12、2017年末は11.05)。
⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。
⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。
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