■E・Jホールディングス<2153>の今後の見通し
(2) 成長戦略
成長戦略については従来と変わらず、以下の5つの点を重点戦略として今後も取り組んでいく方針だ。
a) グループ連携の強化
積極的なM&Aにより、弱い地域や技術領域の補完と人材確保を図る。さらに、グループ各社の連携を強化していくことで、総合力を高めていく。地域戦略としては、九州・沖縄、北陸、北海道などが相対的に弱いため、これら地域を中心にM&Aやアライアンスを推進していく戦略となっている。
b) 国内建設コンサルタント領域の強化
中核事業となる国内建設コンサルタント領域では、「環境」「防災・保全」「行政支援」の3つのコア・コンピタンスを強みにグループ会社との連携も図る。そして、5つの重点分野(環境・エネルギー、自然災害リスク軽減、都市・地域再生、インフラマネジメント、情報・通信)において付加価値の高い技術提案型業務の受注獲得に注力し、収益力の向上を図っていく。
特に需要が拡大している自然災害リスク軽減分野では、災害復旧・復興に取り組むため、災害リスクに特化した研究センターを設置し、継続的に技術開発や研究に取り組んでいる。その成果として、2019年の東日本台風災害では、道路・河川・廃棄物処理等の案件に関して東北管内で約10件、東京管内で約20件の受注を獲得した。そこでは、被害状況調査の実施や被害箇所の応急復旧設計、査定設計を実施した。現在もなお災害復旧設計に取り組んでいる。
また、近代設計が高い実績を有している無電柱化技術において、地上に敷設されている電線や通信ケーブルを地下に移設するには、道路下に埋設されているガス・水道管などと輻輳しているため、各事業者との緊密な折衝・調整が求められる。そのノウハウが同社の競争力の源泉となっており、今後の受注拡大が期待される。全国には依然として約3,600万本の電柱があり、その数も年々増加している。国内の無電柱化率は、2017年時点において東京23区で約8%、大阪市で約6%に留まっている。世界の主要都市と比べても遅れている。無電柱化の需要は、防災・減災対策として今後も継続して出てくるものと見込まれる。なお、東京都が策定した無電柱化推進計画では、都道に関して2027年度までに23区内の全線及び多摩地域の人口集中地区の全線において無電柱化を進める計画となっている。2017年度までの都道の無電柱化率は23区内で58%、多摩地域で18%である。
そのほか、同社では技術提案型業務の競争力強化のため、最新のICTやロボット機器についても積極的に導入している。具体的な事例を示すと、自然災害リスク軽減分野では、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)技術を用いて、地域の防災計画における津波発生を想定した避難シミュレーションに活用している。また、港湾・河川構造物の点検や貯水池等の水質調査のため、自律型無人潜水機AUVを2017年に導入、調査活動に利用している。AUVを使うことで、従来方法よりも低労力(50%程度)、低コスト(25%程度)で調査を行うことが可能となり、生産性向上に寄与している。
c) 海外コンサルタント領域の進化
中期経営計画では、海外事業の売上高構成比を2021年5月期に10%(2018年5月期は3.8%)、売上規模として30億円程度まで拡大することを目指していた。しかし、前述したように新型コロナウイルスの影響もあって、目標達成は次期中期経営計画に持ち越すことになりそうだ。
アフリカや東南アジアなど新興国では引き続き生活インフラ(道路・交通、水供給、廃棄物処理、再生可能エネルギー等)の整備プロジェクトの需要があるほか、今後は防災(地震、洪水対策)や都市計画等の新たな需要も増えてくるものと予想される。国内で培ったノウハウを生かしていくことで海外事業を拡大していく戦略となっている。
d) インフラマネジメント領域の拡大
インフラマネジメント領域については、日本インフラマネジメントを中心に近代設計やアイ・デベロップ・コンサルタンツなどグループ会社と連携し、官公庁、民間企業向けの両方で受注拡大に取り組んでいく。技術者派遣や施工管理支援、施設維持・運営管理支援、計測・調査・解析及び計測機器のレンタル事業に至るまで幅広い領域で受注拡大を目指す。
2020年3月にインフラメンテナンスサービスを展開する(株)ジャパン・インフラ・ウェイマーク(以下、JIW)とパートナーシップ協定を締結した。JIWは小型ドローンを用いたインフラ点検ソリューションのノウハウを持っている。新たな取り組みとして、老朽化した橋梁等の点検業務における支援技術の改善・向上に向けて情報共有と技術協力を行う。そうして、インフラ点検・保守業務の受注拡大につなげていく考えだ。
e) 事業開発領域の進化
エイト日本技術開発を中心にCDM事業(クリーン開発事業)、アドバイザリー事業の拡大を商社等の異業種連携等により推進していく。また、周辺領域における新規事業開発として、観光、アグリを主軸とした地域活性化事業にも取り組んでいる。
地方活性化事業としては2012年以降に、岡山県や秋田県、徳島県において現地の地方公共団体や企業等との共同出資により、アグリ事業における6次産業化に取り組んでいる。岡山県の(株)エンジョイファームでは、農園での青果物の栽培や食育農作業の体験施設「水車の里フルーツトピア」について、2013年4月から運営管理業務を受託(契約期間は2022年度まで)している。これにより、利益面でも若干ながら黒字となっている。
また、秋田県の(株)ストロベリーファームでは夏秋イチゴ農業の6次産業化に取り組んでいる。夏秋イチゴは現在、9割を輸入に依存しており、流通価格も通常の4~5倍と高価格で販売されている。ストロベリーファームでは希少品種である「なつあかり」の栽培に成功し、全国の洋菓子店やレストラン等から注文を獲得できるまでになった。需要増に対応するため、2019年にはハウスを3棟から6棟に拡大し、2020年夏から出荷量が2倍(収穫量で約5トン)に拡大する見込みである。2021年5月期からの黒字化を見込んでいる。
徳島県の(株)那賀ウッドでは林業の6次産業化に取り組んでいる。木材利活用推進・地域振興事業の一環として、徳島県産の品質の高い木粉を、石油代替の循環型素材として利活用を推進している。現在は、公共施設のウッドテーブルやウッドデッキ用材料のほか、簡易トイレや団扇、インテリア用木製品の材料として販売されている。ただ、収益化するまでにはまだ至っておらす、今後も用途先の開拓が課題となっている。
(3) SDGsの取り組みについて
SDGs(持続可能な開発目標)※について、ESGの観点から取り組みを進めている。同社の事業は公共分野に関わるコンサルティング業務が中心となっているため、環境や社会貢献といった面で密接なつながりがある。世界的にも地球温暖化による異常気象や自然災害が多発する状況のなかで、環境・社会インフラ分野への投資需要は高まる傾向にあることから、そのため、同社の活躍余地も大きいと弊社では見ている。
※SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標を指す。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成されている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<EY>
(2) 成長戦略
成長戦略については従来と変わらず、以下の5つの点を重点戦略として今後も取り組んでいく方針だ。
a) グループ連携の強化
積極的なM&Aにより、弱い地域や技術領域の補完と人材確保を図る。さらに、グループ各社の連携を強化していくことで、総合力を高めていく。地域戦略としては、九州・沖縄、北陸、北海道などが相対的に弱いため、これら地域を中心にM&Aやアライアンスを推進していく戦略となっている。
b) 国内建設コンサルタント領域の強化
中核事業となる国内建設コンサルタント領域では、「環境」「防災・保全」「行政支援」の3つのコア・コンピタンスを強みにグループ会社との連携も図る。そして、5つの重点分野(環境・エネルギー、自然災害リスク軽減、都市・地域再生、インフラマネジメント、情報・通信)において付加価値の高い技術提案型業務の受注獲得に注力し、収益力の向上を図っていく。
特に需要が拡大している自然災害リスク軽減分野では、災害復旧・復興に取り組むため、災害リスクに特化した研究センターを設置し、継続的に技術開発や研究に取り組んでいる。その成果として、2019年の東日本台風災害では、道路・河川・廃棄物処理等の案件に関して東北管内で約10件、東京管内で約20件の受注を獲得した。そこでは、被害状況調査の実施や被害箇所の応急復旧設計、査定設計を実施した。現在もなお災害復旧設計に取り組んでいる。
また、近代設計が高い実績を有している無電柱化技術において、地上に敷設されている電線や通信ケーブルを地下に移設するには、道路下に埋設されているガス・水道管などと輻輳しているため、各事業者との緊密な折衝・調整が求められる。そのノウハウが同社の競争力の源泉となっており、今後の受注拡大が期待される。全国には依然として約3,600万本の電柱があり、その数も年々増加している。国内の無電柱化率は、2017年時点において東京23区で約8%、大阪市で約6%に留まっている。世界の主要都市と比べても遅れている。無電柱化の需要は、防災・減災対策として今後も継続して出てくるものと見込まれる。なお、東京都が策定した無電柱化推進計画では、都道に関して2027年度までに23区内の全線及び多摩地域の人口集中地区の全線において無電柱化を進める計画となっている。2017年度までの都道の無電柱化率は23区内で58%、多摩地域で18%である。
そのほか、同社では技術提案型業務の競争力強化のため、最新のICTやロボット機器についても積極的に導入している。具体的な事例を示すと、自然災害リスク軽減分野では、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)技術を用いて、地域の防災計画における津波発生を想定した避難シミュレーションに活用している。また、港湾・河川構造物の点検や貯水池等の水質調査のため、自律型無人潜水機AUVを2017年に導入、調査活動に利用している。AUVを使うことで、従来方法よりも低労力(50%程度)、低コスト(25%程度)で調査を行うことが可能となり、生産性向上に寄与している。
c) 海外コンサルタント領域の進化
中期経営計画では、海外事業の売上高構成比を2021年5月期に10%(2018年5月期は3.8%)、売上規模として30億円程度まで拡大することを目指していた。しかし、前述したように新型コロナウイルスの影響もあって、目標達成は次期中期経営計画に持ち越すことになりそうだ。
アフリカや東南アジアなど新興国では引き続き生活インフラ(道路・交通、水供給、廃棄物処理、再生可能エネルギー等)の整備プロジェクトの需要があるほか、今後は防災(地震、洪水対策)や都市計画等の新たな需要も増えてくるものと予想される。国内で培ったノウハウを生かしていくことで海外事業を拡大していく戦略となっている。
d) インフラマネジメント領域の拡大
インフラマネジメント領域については、日本インフラマネジメントを中心に近代設計やアイ・デベロップ・コンサルタンツなどグループ会社と連携し、官公庁、民間企業向けの両方で受注拡大に取り組んでいく。技術者派遣や施工管理支援、施設維持・運営管理支援、計測・調査・解析及び計測機器のレンタル事業に至るまで幅広い領域で受注拡大を目指す。
2020年3月にインフラメンテナンスサービスを展開する(株)ジャパン・インフラ・ウェイマーク(以下、JIW)とパートナーシップ協定を締結した。JIWは小型ドローンを用いたインフラ点検ソリューションのノウハウを持っている。新たな取り組みとして、老朽化した橋梁等の点検業務における支援技術の改善・向上に向けて情報共有と技術協力を行う。そうして、インフラ点検・保守業務の受注拡大につなげていく考えだ。
e) 事業開発領域の進化
エイト日本技術開発を中心にCDM事業(クリーン開発事業)、アドバイザリー事業の拡大を商社等の異業種連携等により推進していく。また、周辺領域における新規事業開発として、観光、アグリを主軸とした地域活性化事業にも取り組んでいる。
地方活性化事業としては2012年以降に、岡山県や秋田県、徳島県において現地の地方公共団体や企業等との共同出資により、アグリ事業における6次産業化に取り組んでいる。岡山県の(株)エンジョイファームでは、農園での青果物の栽培や食育農作業の体験施設「水車の里フルーツトピア」について、2013年4月から運営管理業務を受託(契約期間は2022年度まで)している。これにより、利益面でも若干ながら黒字となっている。
また、秋田県の(株)ストロベリーファームでは夏秋イチゴ農業の6次産業化に取り組んでいる。夏秋イチゴは現在、9割を輸入に依存しており、流通価格も通常の4~5倍と高価格で販売されている。ストロベリーファームでは希少品種である「なつあかり」の栽培に成功し、全国の洋菓子店やレストラン等から注文を獲得できるまでになった。需要増に対応するため、2019年にはハウスを3棟から6棟に拡大し、2020年夏から出荷量が2倍(収穫量で約5トン)に拡大する見込みである。2021年5月期からの黒字化を見込んでいる。
徳島県の(株)那賀ウッドでは林業の6次産業化に取り組んでいる。木材利活用推進・地域振興事業の一環として、徳島県産の品質の高い木粉を、石油代替の循環型素材として利活用を推進している。現在は、公共施設のウッドテーブルやウッドデッキ用材料のほか、簡易トイレや団扇、インテリア用木製品の材料として販売されている。ただ、収益化するまでにはまだ至っておらす、今後も用途先の開拓が課題となっている。
(3) SDGsの取り組みについて
SDGs(持続可能な開発目標)※について、ESGの観点から取り組みを進めている。同社の事業は公共分野に関わるコンサルティング業務が中心となっているため、環境や社会貢献といった面で密接なつながりがある。世界的にも地球温暖化による異常気象や自然災害が多発する状況のなかで、環境・社会インフラ分野への投資需要は高まる傾向にあることから、そのため、同社の活躍余地も大きいと弊社では見ている。
※SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標を指す。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成されている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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