これじゃ賃金上がるわけない-外国人労働者の急増-

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最新投稿日時:2018/10/17 18:54 - 「これじゃ賃金上がるわけない-外国人労働者の急増-」(みんかぶ株式コラム)

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これじゃ賃金上がるわけない-外国人労働者の急増-

著者:叶 芳和
投稿:2018/10/17 18:54

人手不足を背景に、外国人労働者が急増している。求人が増え、失業率は低下しているものの、賃金は上がらない。労働市場のグローバリゼーションが賃金上昇を抑えている。労働分配率は低下し続けているので、実習生など外国人の増加は企業経営者に利益をもたらしているようだ。外国人労働者の経済的利益は何か。

1、外国人労働者の急増

 日本国内の労働力は、ほとんど横ばいである。労働力人口は2012年の6565万人から17年の6720万人へと推移した(この5年間でわずか2.4%増)。少子高齢化の影響である。就業者数も5年間で4%増に過ぎない。(表2参照)。

 一方、外国人労働者は2012年の68万人から、17年の128万人へ、この5年間で87%も増えた。中でも技能実習生等の単純労働者は134%も増えた(年率18.5%増)。(注)図1参照。特に15年以降の伸びがすごい。単純労働者の前年比伸び率は15年24%、16年26%、17年24%の増加である。凄まじい増加である。

(注)ここで、「単純労働」は技能実習+資格外活動(うち留学)+特定活動である。表1参照。

 外国人雇用が増加しているにもかかわらず、労働力や就業者数は伸びていない。それだけ、日本人労働者は伸びていない訳である。(ちなみに、外国人を除いた日本人労働力の伸び率は5年間で1.46%増、就業者数は3.06%増である。つまり、外国人を除くと伸び率は1%低下する)。

 今回の景気拡大に対応した労働力の供給は、かなりの部分が「外国人雇用」である。日本人労働力の不足分を外国人雇用である程度充足してきたのである。外国人雇用の増加がなければ、労働市場はもっと人手不足が深刻化していたであろう。外国から労働力を供給することで、労働市場の過熱化を少しは冷ましている(冷却効果)。労働市場もグローバリゼーションが進んでいると言えよう。
 

 

 

2、賃金上昇せず

 人手不足は深刻である。この8月の有効求人倍率は1.63倍と、80年代のバブル末期より高い(90年=1.40倍)。1973年の石油危機直後が有効求人倍率のピークであるが(73年=1.76倍)、現在は43年振りの高水準である。少子高齢化の影響である。

 しかし、賃金上昇は見られない。表2に示すように、賃金指数は、ほとんど横ばいであり、この5年間でわずか1%の上昇に過ぎない。深刻な人手不足にもかかわらず、賃金上昇は見られない。何故か。

 色々な仮説があると思われるが、低賃金の外国人雇用が増えているので、賃金上昇が抑制されているのではないか。外国人実習生の賃金は、基本給は「最低賃金」をベースにしている。したがって、月給は基本給が約14万円程度、これに残業代が加わる(最賃は地域によって異なる)。

 つまり、近年、最賃ベースの低賃金労働力の供給が急増しているので、日本人労働者の賃金も抑制されているのではないか。特に低技能の非正規雇用者の賃金抑制に影響しているであろう(注、平均的な正規雇用者の賃金も伸びていない)。実習生も「日本人並み賃金」とよく言われるが、日本人が「実習生並み賃金」に近づいているのではないか。これと、先に指摘した労働力需給の「冷却効果」の両方で、外国人雇用は日本の労働市場に影響している。

 外国人実習生は日本人が就きたがらない仕事だとして、日本人と外国人実習生は競合しないとの見方が多い。しかし、「いまの賃金」では日本人は就きたがらないのであって、仮に賃金が2倍になれば、応募する日本人が増えるのではないか。外国人労働者と日本人は「代替的」と考える方が経済学的だ。もちろん、3K分野的要素は割り引く必要があるとしても。
 

 
 アベノミクスも、なかなか思うように目標を達成できなかった。消費者物価指数の2%目標は実現しなかった。経済のグローバリゼーションが進む中、海外から安い製品が流れ込んでくると物価は上昇出来ない。賃金も同じで、要素市場もグローバリゼーションが進んでおり、低賃金の実習生が増え、賃金が抑制されているのではないか。

3、労働分配率の大幅な低下

 労働分配率は歴史的な下落を見せている。財務省「法人企業統計」を使って、金融業・保険業を除く全産業の労働分配率を計算すると、2017年の分配率は66.2%である。これは1973年の石油危機当時以来の低水準である。

 日本の労働分配率は、1960年の労働市場の「ルイス転換点」後、賃金上昇に伴い、上昇に転じた。その後は、好景気の時に下がり、不況時に上がる傾向を繰り返してきたが、近年は2001年と09年にピークをつけ、その後、下落に転じた。現在の66.2%は80年代の好景気(バブル期)よりも低い水準である。

 この2010年代の下落幅は大きい。これは企業収益は史上最高を更新しているにもかかわらず、平均的な労働者の賃金が上昇せず、人件費が増加しないからである。低賃金の外国人雇用が増加し賃金上昇を抑制したという仮説に立てば、労働分配率の低下は外国人労働者の急増の影響もある。

 外国人労働者の活用は、企業に間違いなく利益をもたらした。低賃金で雇える人たちが増えているわけだから、否の場合に比べ、間違いなく企業経営者に利益をもたらしている。一方、日本人の賃金は上がらない。つまり、外国人労働者の増加は「分配」に影響している。労働分配率の低下は外国人労働者の増加も一因という訳だ。
 

 
◇外国人労働者の経済的利益とは何か
 もちろん、外国人労働者の増加は、労働力の増加を通してGDP増加要因である。それは日本人にも経済的利益をもたらしている。しかし、次のことも考えるべきだ。低賃金の外国人労働者の増加は、ロボット化等の技術革新を遅らせている(注)(仮に外国人労働者が居なければ、ロボット導入が増えていただろう)。ロボット化等が進めば、生産性が高まり、また技術革新投資はGDP増大要因でもある。つまり、外国人労働者受入れの経済的利益は、GDPを高める側面と(労働力追加)、GDPを下げる要因の両方がある。喜んでばかりはいられない。

(注)酪農業の場合、搾乳ロボットは賃金の高いヨーロッパでは普及率が40%に達しているのに、日本は低賃金の実習生を活用しているので、搾乳ロボットの普及率は3%程度に過ぎない。日本はロボットも就職したがらないほどの低賃金ということであろう。いま、アメリカでは搾乳ロボットの導入が急に伸び始めた。トランプ大統領の移民政策により、低賃金のメキシカンが入れないようになってきたからだ。このように、ロボット化等の技術革新は賃金の関数である。

 外国人労働者受入れは、われわれに経済的利益をもたらしている。一方、マイナス要因もある。特に、非正規雇用者にとってはマイナス面が大きい。賃金抑制効果は結婚の阻害要因でもあり、少子化の要因にもなっている。もし、今後、外国人労働者を増やす政策を採るならば、この分配面のマイナス効果を緩和する方法を見つけなければならない。

 筆者はその方法として、外国人技能実習生の賃金引き上げを提案している。技能実習生の賃金を「最低賃金プラス2割加算」とする(2割は例えばの話)。これを「外国人最賃」と呼ぶことにする。もともと「最低賃金」は日本人についての規定であり、ここで「外国人最賃」制を創設しようという提案である。日本人の賃金の足を引っ張る効果を緩和できるであろう。(『週刊農林』2018年9月5日号拙稿及び『山形新聞』2018年10月2日付け7面「直言」欄拙稿参照)。

 外国人労働者は、日本の社会に大きなメリットをもたらしている。一方、社会的費用も発生させている。両者の塩梅を図る工夫が必要と思われる。
 

 

配信元: みんかぶ株式コラム

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