北朝鮮と米国の首脳会談が実現する。北の“非核化”にとどまらず、南北統一まで話が進むのではないか。国交正常化を超え、「米朝同盟」に進む可能性も否定できない。朝鮮半島は大きな転機に立っている。「戯曲」です。
1、金正恩氏の満面の笑み
これは「異説・朝鮮半島論」である。急転直下、米国と北朝鮮が同盟関係に進み、非核化が実現すると考える。世界は戦争の危機から脱する。
3月9日、突如、世界的ビッグニュースが流れた。「米朝首脳会談開催合意」。5月に米朝首脳会談が実現することになった。2月の平昌冬季五輪での韓国と北朝鮮の南北関係改善(開幕式に南北統一旗で合同入場など)に始まり、3月5日、韓国文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特使と北朝鮮金正恩(キム・ジョンウン)委員長との会談(4月末の南北首脳会談合意)、同8日(日本時間9日)韓国特使の訪米、トランプ米大統領に米朝の直接対話をしたいとの北朝鮮側のメッセージを伝える。
トランプ大統領は金正恩委員長の申し込みを受諾、5月までに直接会談に応じると即答した。わずか3日間で米朝首脳会談の実現が決まった。あれほど罵り合っていた両者が、直接対話を行うわけであり、世界中がびっくりした。北の非核化は実現するであろうか。一触即発、戦争の瀬戸際を心配した世界は米朝対話の行方に注目している。
まず、「究極のソリューション」は何かを考える。それは「米朝同盟」ではないか。北朝鮮が欲しいものは、石油と食料であろう。それを一番持っているのは米国である。もう一つは体制の維持である。金王朝の後ろ盾は中国か米国か。
中国と北朝鮮は仲は良くないと言われる。習近平主席の特使が北朝鮮を訪問した際(2017年11月)の“冷遇”は話題になった。朝鮮労働党指導部と会談したが、水一杯出なかったと伝えられた。もちろん、金正恩委員長との面談もない(注1)。これに対し、今回の韓国の特使に対しては晩餐会まで催し、金正恩委員長も出席した。テレビに映し出された金正恩氏は満面の笑みを見せた(注2)。金委員長は「北朝鮮の体制安定が保証されれば、核保有の理由がない」と強調した(注3)。
(注1)2017年11月21日付け朝日新聞。
https://www.asahi.com/articles/ASKCN5DSWKCNUHBI01D.html
(注2)2018年3月6日付けBBCニュース。http://www.bbc.com/japanese/43283984
(注3)2018年3月6日付け時事ドットコム。https://www.jiji.com/jc/article?k=2018030601128&g=prk
中国と北朝鮮は先代・金正日氏の時代から不仲と言われる。ましてや、正恩氏を廃し、兄の正男氏を擁立する動きを見せた中国に対し、金正恩氏は快く思っていないであろう。もう義理は感じていない。米国が後ろ盾になってくれるなら、米国と手を握ってもよしと考えるのではないか。
米国が北朝鮮の後ろ盾になって守ってくれるのなら、もう核を持つ必要はなくなる。一番欲しい石油も食料も米国は豊富に持っており、中国に頼る必要はなく、米国に切り替えればいい。「米朝同盟」が成れば、北朝鮮にとってはすべてが解決する。体制保障、食料・石油の供給と、「米朝同盟」は北朝鮮にとっては万馬券だ。もちろん、米朝の“国交正常化”でもいいわけだが、「米朝同盟」に進む可能性を排除できない(両者の区別は中国と北朝鮮の離反があるか否か)。米朝同盟のカードまで見せるのは、金正恩氏の疑心暗鬼を取り除かんためのトランプ流ディーリングか。
金正恩氏は早くから米国との直接対話を望んでいたが、米国の庇護のもとに暮らせるかどうかの確約を求めていたのではないか。なお、トランプ氏は核の全面放棄を求めない可能性もある。米大陸に届くICBMの開発放棄さえあればよい(米国ファースト)。中国や日本を射程距離とした中距離弾道ミサイルの保有を許せば、北朝鮮にとってハードルは低い。
3月5日、韓国の特使と会談した時の金正恩氏の満面の笑み。中国とは早くから不仲。経済制裁の効果が効いてきた。この3つの事実から、米朝同盟への道筋が見えてくる。
2、非核化、共同ノーベル賞
米国は北朝鮮の非核化に向けて、北朝鮮への制裁強化を世界に訴えてきた。中国も北朝鮮の6回目の核実験(17年9月)の後、制裁に積極的に参加した。今年1月の中国の北朝鮮からの輸入は前年同月比77%減であった。ティラーソン米国務長官も対北朝鮮制裁の効果が現れ出していると述べ、中国による圧力の効果と評価した(注4)。
(注4)2018年1月18付けニューズウイーク日本語版。https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9335.php
中国が本格的に経済制裁を強化したため、対北朝鮮経済制裁の効果が出始め、北は音を上げた(したがって、功労者は中国だ)。当然、北朝鮮の中国への反発、離反を促した。米国が北の中国離れを仕込んだのではないか。経済制裁へ中国を巻き込んだのは、米国が仕込んだ、中国と北朝鮮の“離反策”だったのではないか。
これは米CIAのシナリオではないのか。そして今回、北朝鮮では米国通の崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長が外務次官に昇格し(2月28日)、期を同じくして、米国ではポンペオCIA長官が国務長官に指名された(3月13日)。水面下のキーパーソンが表舞台に出てきたのではないか。これら一連の動きはCIAシナリオ説を示唆している。世界中がビックリすることや、疑問視されることが次々起きているが、「CIAシナリオ」説に立てば、すべて素直に理解できることである。
米国と北朝鮮の秘密会談がスエーデンのストックホルムで持たれていることは、これまでもしばしば伝えられている。例えば、2016年5月(オバマ政権時)、ストックホルム国際研究所で北朝鮮外務省北米局の韓成烈局長及び崔善姫副局長と米国側トマス・ピカリング元国務次官及びエバンス・リビア元東アジア太平洋担当国務副次官補が接触した(注5)。また、崔善姫局長は2017年5月にはノルウエーのオスロで米朝非公式交渉をしたと伝えられる(注6)。北と米は喧嘩をしながらも、水面下で秘密接触を継続している。民間ベースの日常的な交流もあるようだ(注7)。
(注5)2016年5月25日付け聯合ニュース(日本語版)。http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2016/05/25/0300000000AJP20160525000800882.HTML?3e23fc00
(注6)2017年8月19日付けCOURRIER。https://courrier.jp/news/archives/95057/
(注7)松尾文夫「誰も語らない米・朝の「深くて太い」水面下接触」2017.8.31付け。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52413。米国は北朝鮮のIT専門家の育成協力など民間ベースの協力もある。北朝鮮のIT専門家が国務省発行のビザを得て米国に渡り、技術研修を受けている。大学間の交流、公益財団、NGOグループの訪朝もある。松尾論文は「日本人が知らない」米朝の接触を明らかにしている。米朝の間には幅広い交流が存在する。松尾論文を読むと、世界が変わる。必読文献であろう。
米朝首脳会談によって、非核化が実現すれば、トランプ大統領はノーベル平和賞だ。いや、トランプ氏と金正恩氏の“共同ノーベル平和賞”だ(これも米国からの働きかけ)。
米朝首脳会談の会場は、常識的にはスエーデンのストックホルムであろう。しかし、サプライズを狙って、トランプ大統領が北朝鮮の平壌に行く可能性も排除できない。米朝首脳会談が成功すれば、その後、韓国の文在寅大統領を交えて3首脳による南北統一会議に発展するのではないか。非核化だけではなく、南北の平和的統一が展望できた時、間違いなくノーベル平和賞であろう(その場合は3人共同ノーベル賞)。
トランプ大統領は、打っては三振、守ってはエラーが続いているが、満塁ホームランを打てばすべて帳消し、ヒーローになれる。投手との談合でホームランを打たせてもらう約束が出来ているのではないか。誰も成しえなかった北の非核化に成功したトランプ氏は、絶望的とみられていた大統領2期目も確約を得たようなものだ。
3、南北統一への工程表
トランプ大統領は朝鮮半島10か年計画の工程表を作るだろう。まず「緊急人道援助3か年計画」だ。食料・医療を中心に民生安定を図る。次は第2期「経済復興5か年計画」だ。さらに第3期「南北統一準備」2か年を経て、10年後(2028年)朝鮮大統領選挙で「金正恩大統領」を選出させる。韓国は中国の経済力に魅かれ、いつ中国に接近するか分からない。北出身の方が米国にとって御しやすいからだ。これが米CIAが金正恩氏と合意したシナリオではないか(注8)。
(注8)最終章の金正恩大統領論は難しい問題だ。核を取り除くためには何でもするということであろうが、統一朝鮮大統領は南北国民の投票によって決まる(非核化は「北の人権侵害」を帳消しにできるか)。CIAシナリオは非核化、国交正常化まで、その先はディーリング得意のトランプ大統領か。
この米朝同盟論という仮説は、筆者は国際政治の専門家ではなく、情報があるわけではない。人間行動の一般理論からの推論である(もちろん、憶測である。実情は知る由もない)。複眼的思考が必要と思い、テストした。逆張り的シナリオであり、リスクもあるが。
このシナリオ通りに進めば、半島情勢は180度転換する。「朝鮮半島の春」が来る。ただ、仮に国交正常化を超えて「米朝同盟」に進めば、中国は困ったか?ロシアも困ったか?(日本も困った!では困る/蚊帳の外)注9。中国にとっては痛い失敗なのではないのか。米CIAとの「智力」勝負に敗れたのではないか。
なお、朝鮮半島が米朝同盟、非核化で、長期的に「平和」になるかどうかは不明。米中衝突の危険が出てきたのかもしれない。喜んでばかりはいられない。ベスト・シナリオは米朝同盟までは進まず、米朝の国交正常化止まりで朝鮮半島の平和が実現することか。
(注9)集団安保体制、憲法改正を目指してきた日本の動きは水を差される。また、北朝鮮が国際社会に復帰した場合、日本は巨額の戦時賠償を請求されるのではないかと懸念する見方がある。トランプ大統領は米大陸に届く長距離弾道弾は凍結させるものの(米国ファースト)、日本に届く中距離核ミサイルを保有し続けることを黙認するのではという見方もある。なお、1972年の日中国交正常化にあたり、中国の周恩来首相は「日中両国民の友好のため、日本に対する戦争賠償の請求を放棄する」との見解を提示し、日本や世界を驚かせた。北朝鮮は日本に対してそのような好意を示すであろうか。「制裁強化」一辺倒の日本に対して北朝鮮は良い感情を持っていないので、今のままでは賠償金は倍額請求になりかねない。
国家の活力ある発展の源泉は「情報」だ。長期的には自由な言論、自由な発想が決め手になる。中国は歴史が長く、三国志の時代は言うに及ばず古代から「智」で国を建ててきた。しかし、近年、経済力が急上昇し、それが政治力の上昇をもたらし、「智力」の役割が軽視されているのではないか。本来なら、CIAに負ける国ではない。経済力におぼれ、油断があったのではないか。
日本が今日の国際情勢についていけないのも、同じ理由だ。「忖度」ばやりで、自由な発想、言論の自由がなくなっているからではないのか。自由な発想の下でイノベーションが起きる。「自由」こそ国力発展の源泉という一般理論に気付くべきと思われる。
(注)以上に上げた事実関係はすべてYahoo検索記事による。ネット上の記事は間違いも多いと思われるが、そのリスクは考えない。「米朝同盟」説を導くためのコンポーネントを示すものであって、仮に日付け等に誤りがあっても問題はないと考える。
○○君、新しい作曲が出来ました。「春の幻想曲六重奏序曲」。戯曲かな?。素人の岡目八目です。目まぐるしく変化する国際情勢に対応するには、“複眼的思考”が必要なのではないでしょうか。思考実験になるのではないか。
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