日本初のグローバルな総合フィルタメーカー目指す
●山崎敦彦氏
ヤマシンフィルタ 代表取締役社長
ヤマシンフィルタ<6240.T>は建設機械向け油圧フィルタで国内シェア70%と圧倒的な強みを発揮している。しかし、それに満足することなく今後はグローバル化や、新規分野での新たな柱となる事業構築により飛躍的な成長を目指している。現在の事業内容と成長戦略について、山崎敦彦代表取締役社長に聞いた。
──「建設機械用の油圧フィルタ」について具体的にお教えください
山崎 油圧ショベルをはじめ、ブルドーザー、ホイールローダーなど建設機械の多くはエンジンで油圧のポンプを回して、前進後退や作業機器など多くの部分を油圧システムで動かす仕組みとなっています。運転席の逆側に“作動油”のタンクが装備されており、このタンクから油が供給されさまざまな油圧システムを循環して返ってきます。ヤマシンのフィルタで最も多いのはこの作動油タンクのなかに入っているもので、仕事をしてきた油のさまざまな汚れを濾過して取り除く役割を担っています。
──「建設用機械の油圧フィルタ」の役割について分かりやすくお願いします
山崎 油が循環するなかで、さまざまな土埃りや、塵、ゴミなどの汚れを拾ってくるわけで、油は人体に例えると血液に相当し、油圧フィルタは腎臓の機能を果たしています。建機は建設現場で動くわけで、当然埃だらけ、ゴミだらけになります。また、内部の金属と金属が圧力を伴って接触するため摩耗に伴う金属粉も発生し、故障の原因にもなります。これらを全て濾過して故障を未然に防ぐ極めて重要な役割を果たしています。
当初は“濾紙”、つまり紙にフェノール樹脂をコーティングし、熱加工して硬化させ形を整えたものを使用していました。最近は建機自体をコンピューターで制御するメカトロ化の進展で、より微細なゴミを除去するキメの細かさや、いわゆる環境対応などの観点から廃棄物を少なくしようと、フィルタ自体を長持ちさせるロングライフ化などが求められるようになってきました。これに伴い、現在では紙に比べて繊維がより細かいガラス繊維を濾材として使用しています。繊維が細かく、ふんわりと成形しているため、より小さなゴミをたくさん回収することができるうえに、ロングライフ化も実現しています。
当社では、この濾材を自社開発し、生産しているところに特長があります。通常、メッシュ(ふるい)で水をすくうときなど、目が細かくなればなるほど、流体の通過抵抗が大きくなります。さらに、ゴミが詰まってくれば通過抵抗はさらに大きくなります。ところが、なるべくメッシュの目を細かくして、ゴミをたくさん採るけれども、さっと抜けるという矛盾したところを目指すのが濾過の技術です。例えば、日本の建機メーカーは、さっと抜けることを重視する一方で、米国の建機メーカーはゴミがどの程度採れるのか、つまりフィルタの寿命を第一に考えるといったスペックに対する考え方違いに特長があります。オーダーメードとでもいうべき要望に応えて最適の商品を提供するためには、濾材を自社開発せざるを得ません。海外の多くのフィルタメーカーは濾紙メーカーから濾材を購入しているケースが多いのです。
当社の油圧フィルタは、「新車用(ライン品)」(売上構成比率は2017年3月期で43%)と「交換用(補給品)」(同57%)の2つがあります。ライン品は、建機メーカーが製造するときに最初から部品として組み込んでいくものです。その建機がマーケットに出て稼働して、一定時間が経過した後に交換するのが補給品です。ライン用は景気変動の影響を受けやすい面があります。半面、補給用は不況期にも比較的安定した需要が期待でき、利益率も若干高い傾向があります。ヤマシンの油圧フィルタの国内シェアは約70%を占めていますが、4年に1回程度の各建機メーカーのモデルチェンジを意識して、絶え間なく積極対応することでさらにシェアを拡大する方針です。
──企業理念の「仕濾過事(ろかじにつかふる)」の意味するところはなんですか
山崎 「仕濾過事(ろかじにつかふる)」は、先代社長の私の父が考案した社是・企業理念です。「フィルタビジネスで社会のお役に立つ」という意味です。社会のお役に立つということを、もう少し具体的にいうと「お客様のお役に立つ」、「投資家の皆様のお役に立つ」という意味で使っております。例えば、現実のビジネスシーンでは、受注から納品まで通常2ヵ月程度必要な商品についても、お客様から突然「あすまでに納品して欲しい」という困難な要求が突きつけられるケースが起こります。これに対しては、営業から生産管理、購買調達まで各担当者が一体となって「お客様のお役に立つ」の精神を発揮して、なんとか工夫して間に合わせるように出荷するという顧客サービスに徹することです。
──成長を牽引しているグローバル戦略の現状と今後の展開は
山崎 中国は昨年の秋口くらいから徐々に景気が回復してきています。米国もトランプ大統領の誕生により今後10年間で1兆ドル程度の公共投資を実施するという方針が掲げられました。今後、米国、中国という二つのマーケットが成長の牽引役になるものとして期待しています。とくに中国は、過去10年間沿岸部を主体として経済発展を遂げてきましたが、今後は習近平国家主席の打ち出した「一帯一路」のシルクロード経済・外交圏構想に基づいて西域の開発がスタートします。このプロジェクトは5~10年単位の大規模なもので、建機が長期にわたって大量に投入される可能性があります。例えば、新疆ウイグル自治区とカザフスタン国境の阿拉山口(あらさんこう)という町のGDPは毎年急成長をみせています。また、米国については公共投資の具体化が遅れていますが、先々誰が大統領になってもさまざまなインフラの改修・整備は待ったなしの状態となっており、建機の需要は拡大しそうです。
──技術面に関する研究開発についてお聞かせください
山崎 フィルタの濾材は、当初の「紙」から「ガラス繊維」へと進化を遂げていますが、既に20年近くを経過した「ガラス繊維」に続くまったく新たな次世代の濾過素材の開発が大詰めにきています。当然、既存製品に比べて機能面に優れ、用途の拡大も期待できるものです。また今後は、IoTやAI技術への対応も進めます。いまは、一定時間でフィルタを交換していますが、使用する環境や条件によって、フィルタの汚れ具合も当然ばらつきが出てきます。そこで、いま開発しているのは“目詰まりセンサー”や、循環している油の清浄度を感知するセンサーです。人間にとっての血液検査による健康診断のように、建機の血液である油の清浄度やフィルタの目詰まりの具合を検査することで、故障の予知が可能となります。これらの検査したデータを、機械を稼働させているGPSシステムに乗せることで、世界中にある1台、1台の建機に対しても“健康チェック”を実施できるようになります。
──新規分野への挑戦、取り組みについてはどうお考えですか
山崎 現在、当社の売上高の90%を建機フィルタが占めており、安定した経営を維持するためには、それ以外の新分野の開拓は極めて重要な課題です。そのためには、大黒柱となる事業をあと2本構築しなければなりません。まずは、現在も手掛けている“自動車”、“鉄道・船舶”向けといった産業用や、“食品・飲料”、“メディカル”、“電子部品”向けといったプロセス用のフィルタの強化を目指します。また、新分野については、業務提携やM&A(企業の合併・買収)も活用して補強し、柱を3本にして安定した経営基盤を確立します。
──5年後、10年後に目指すヤマシンフィルタのイメージについて
山崎 現在売上高100億円の会社ですが、夢として5年後、10年後に大黒柱となる事業を3本構築することで、日本初の世界に冠たるグローバルなフィルタメーカーを目指します。また、女性や外国人など多様な人材を積極的に活用して活躍できるようなダイバーシティを推進していきます。
──今後の株主還元策についてお話ください
山崎 株主還元については、いままで、配当とクオカードの寄贈というかたちで実施してきました。今後は、横浜に本社を構えている企業であるというカラーをもっと発信するために、“横浜で頑張っている”というブランディングに役立つような株主優待の実施で総合還元利回りの向上を目指します。
(聞き手・冨田康夫)
●山崎敦彦(やまざき・あつひこ)
1953年生まれ。80年東京大学卒業後、小松製作所に入社。82年に山信工業(現ヤマシンフィルタ)に入社し、90年に代表取締役社長に就任。
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