S&P500月例レポート(2016年11月配信)
S&P 500®
2016年10月: 多くの投資家が(投資家以外も)11月8日におびえる中、
「大虐殺の10月」は免れたものの相場は下落
10月はウォール街にとって最も恐ろしい月とされていますが、それはお化けの仮装で菓子をねだるハロウィーンの風習のせいではなく、株価の実績の悪さと暴落の歴史が原因です。1987年10月19日、S&P500は20.47%下落しました(筆者は当時から市場にかかわっていました)。これは1日の下落率としては史上最も大きく、2番目は1929年10月28日の12.34%(筆者は生まれていませんでしたが)、さらにその翌日の1929年10月29日には3番目となる10.16%の下落を記録しています。そんな昔の相場のことは知らないという方々にとっては、2008年の10月(当時も筆者はここにいました)もまた楽しい月ではありませんでした。10月7日は5.74%、10月9日は7.62%、10月15日は9.04%、そして10月22日には6.10%の下落を記録したからです。このような過去を踏まえると、今年10月の1.94%の下落を乗り切るのは、前の編集長(この人物は引退したというのに、まだ時々筆者宛てに修正を入れた記事を送ってきます)の言い方を借りれば、ダック・スープ(楽なもの)です。問題があるのは月であって相場ではないという点に疑問の余地はほとんどありませんが、一部の専門家は、世界および国内経済、企業業績、政治、金利(関連する景気対策や利上げ速度)に関する問題を指摘します。「公正かつ正直」(最近よく耳にする言葉ですが実態が伴っていないようです)に言って、これらは目新しいものではありません。目新しいのは、コミュニケーションの速さ、「すぐに判断できる」ウェブに基づくアプローチ、そして、みんなにとって良くなければ駄目という考えです(元編集長なら、筆者がこのコメントに「社説」という単語を入れ忘れたとメモを寄こすでしょう)。2016年の10月は上記の事柄の全てが伴う月でした。米国経済は、住宅セクターに牽引され、ゆっくりとした成長が続きました。実際に企業の利益は予想を上回り(決算発表が終わった上場企業の73%が予想を上回りました。過去の平均は67%)、小売りセクターの業績はまだ発表されていないものの、売上高も増加し、55%が予想を上回りました。より重要なのは、業績がバリュエーションを支え、2016年第4四半期の業績予想も維持されていることです。注目すべきは、現時点での第4四半期の予想は過去最高になるだろう(「だろう」という部分が重要)という点です。一方で政治に関するニュースが続きました。大統領選は、55%対45%という従来の差、あるいはそれ以上の接戦が予想されているように、大差での勝利にはならない状況で、2016年11月8日に確定するのは、誰がホワイトハウスの住人になるか、今後2年間の議会(そして最高裁判事)の構成がどうなるか、翌日の11月9日に誰が「大統領再選委員会」のメンバーに登録されるか(今から楽しみだ)という3つの事柄だけでしょう。言葉遣い(法的措置の可能性も)、キャッチフレーズ、非難の応酬による政治的なバトルは、それぞれの党内および党の間の両方で続くとみられます。前向きな要素としては、議会構成やプレイヤーが明らかになることで、企業や市場参加者が余分な木の枝葉を落として決定(あるいはコミット)しやすくなる可能性があるということです。英国に関してはとてもそう言える状況ではありません。2019年(米国では大統領再選委員会の活動が最高潮となる時期)の欧州連合(EU)からの離脱を目指し、メイ首相が2017年3月までに離脱交渉を開始する予定となりましたが、英国における未知の状況はまだスタートもしていないのです。EU離脱決定後の最初の英国内総生産(GDP)の伸びは0.5%となり、0.4%だった予想を上回ったものの(2016年第2四半期の0.7%からは低下)、これから英国とEUに及ぶ影響は未知数で、しかもそうした未知数は、大西洋のこちら側の米国よりも対岸の方がはるかに大きいといえます。
2016年11月30日の石油輸出国機構(OPEC)の総会では、ある程度の生産調整がもたらされるのではないかとの期待から、原油価格が15カ月ぶりの高値となるなど、連日関連するニュースが報じられましたが、譲歩を引き出す手腕や生産量の基準日(米国による対イラン制裁の前か後か)の設定に関する懸念が上値を制限しました。原油価格は9月の48.05ドルを2.8%下回る46.70ドルで取引を終え、金は3.0%安の1,278.90ドルとなりました(9月は1,318.80ドル)。また、もし本当に英ポンドのレートを知りたいのなら、それは1.2244ドルです。10月は前月の1.2976ドルから5.6%の下落で取引を終えています(国民投票日の夜には1.50ドルでした。筆者はロンドンに住む娘に新しいコーチのバッグを買ってやることになりそうです)。ユーロは対ドルで1.1240ドルから1.0982ドルまで2.3%の下落となりました。
政策金利に関しては、大半の中央銀行は様子見姿勢を取り、見通しを示すにとどまりましたが、実際に行動に出た中央銀行も少数ですがありました(インド準備銀行は政策金利を0.25%ポイント引き下げて6.25%としました)。11月1-2日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合では、今年12月の金利見直しについてヒントが示されるとみられ、もし利上げなら、昨年以来2年連続の12月利上げとなります(その前の利上げは2006年)。市場の関心は早くも3回目の利上げ時期に移っています。現時点での大方の見方では、2017年1月31日-2月1日のFOMCでは、経済が12月の利上げの影響を吸収するのを待つために金利は据え置かれ(2016年は年明けから2月11日までに株式市場が10.5%下落したことを考えると、市場の反応も確認する必要があります)、3月14-15日のFOMCで追加の利上げが行われるとみられています(その次の会合は5月2-3日の予定)。
11月8日に投票日を迎える米大統領選挙に関しては、現時点において市場はクリントン候補が勝利し、下院は共和党が辛うじて過半数を維持すると予想しています。上院も共和党の過半数が続くとの見方が主流ですが、互角の議席数、あるいは少数ですが民主党の過半数獲得を予測する向きも一部に見られます。投票日以前に市場の見方に変化があれば資産配分の見直しが起こり、万が一それが現実化した場合には、投票日翌日の9日は大商いとなり、一時的に注文の不均衡が生じる可能性があります。投資家は投票日当日の夜と翌日の取引開始前に海外市場に目を向けて動向を読み取ることで、選挙前に示されたさまざまなシナリオに基づいて自らが取るべき(あるいは回避すべき)行動を見極める必要があります。
11月の相場は歴史的には59%の確率で上昇しています。ほとんどの企業で決算発表が終わり、政治的不透明感の一部が解消されることで、市場関係者は市場に戻ってくるかもしれませんが、投資資金を抱えて様子見していた投資家が取引を再開するかどうかは分かりません。筆者の周辺では、彼らがアクティブまたはパッシブのどちらの方向に動くかに関心が寄せられています。
中央銀行については、インド準備銀行(RBI)は経済成長の鈍化を理由に政策金利を0.25%ポイント引き下げて6.25%としました。欧州中央銀行(ECB)は、現行の量的緩和プログラム(2017年3月で終了)の対象となる債券の不足について触れ、政策金利は据え置きました。国際通貨基金(IMF)は2017年の世界経済の予想成長率を3.4%とし、2016年予想の3.1%から加速するとの見通しを発表しました。国別では、米国と英国の成長率予想を下方修正し、ドイツ、日本、インドの成長率予想を上方修正しました。9月20-21日のFOMC議事録からは、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げの準備ができているが今回は据え置きを決めたことが示され、12月利上げの可能性が強まりました。FRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)では引き続き、経済が進展しているとの見方が示されましたが、「緩やか」という単語が63回も使われました。FRBは労働力不足と賃金上昇が見られるとも言及しました。
世界経済に関するニュースでは、中国の9月の輸出(米ドル建て)は前年同月比10.0%減、輸入は同1.9%減となり、貿易黒字は420億ドルとなりました(人民元は対米ドルで6年ぶりの安値になっています)。中国の第3四半期GDP成長率は前年同期比6.7%(予想通り)、9月の小売売上高は10.7%増(予想通り)、9月の鉱工業生産は6.1%増(予想を若干下回る)となりました。ユーロ圏の8月の鉱工業生産は前月比1.6%増(市場予想は1.1%増)、前年同月比では1.8%増でした。ドイツの8月の鉱工業生産は前年同月比5.4%増となりました。英国の9月の消費者物価指数(CPI)は2年ぶりの高水準となる前年同月比1.0%上昇となり(イングランド銀行の目標は2.0%)、コアインフレ率は1.5%でした。英国の8月の製造業生産は前月比0.2%増(予想は0.5%増)、失業率は同横ばいの4.9%で、11年ぶりの低水準を維持しています。OPEC加盟国の9月の産油量は過去最高の日量3,364万バレル(前月比同16万バレル増)となり、ロシアは11月30日のOPEC総会で減産を支持すると表明しました。原油価格は一時、15カ月ぶりの高値となる1バレル51.57ドルを付けましたが、最終的に9月末時点の48.05ドルから2.48%下落の46.70ドルで10月の取引を終えました。英国では、EU離脱を決めた国民投票以降、最初の四半期となった第3四半期GDP成長率はプラス0.5%と、予想の0.4%を上回りましたが、第2四半期の0.7%を下回りました。
米国経済関連では、9月の自動車販売台数が減速し、購入促進を目的として奨励金が引き上げられ、需要が奨励金頼みとなっていることが示唆されました。製造業購買担当者景気指数(PMI)は、8月の52.0に対して9月は51.5に低下しました。9月の生産者物価指数(PPI)は前月比0.3%上昇、前年同月比では0.7%上昇となり、食品とエネルギーを除くコアPPIは前月比0.2%上昇、前年同月比で1.2%上昇でした。9月のサプライ管理協会(ISM)製造業景気指数は50.2の予想に対して51.5となり(8月は49.2)、ISM非製造業景気指数は予想の52.9を大幅に上回る57.1となりました(8月は51.40)。9月のCPIは前年同月比1.5%上昇、コアCPIは同2.2%上昇と、FRBにとって好ましい結果となりました。8月の製造業受注は0.2%増(予想は0.2%減)で、7月分は当初発表の1.9%増から1.4%増に下方修正されました。8月の建設支出は前月比で0.7%減(予想は0.35%増)、前年同月比では0.3%減(7月は1.5%増)となりました。9月の貿易統計では、輸出は前月比で0.3%増加しましたが、前年同月比では依然として1.1%減と前年割れが続いています。輸入は前月比0.1%増、前年同月比では1.5%減でした。9月の小売売上高は予想通りの0.6%増と力強い伸びを見せ、8月は当初発表の0.3%減から0.2%減に上方修正されました。9月の鉱工業生産指数は予想通りの0.1%上昇となり、製造業指数は0.2%上昇(予想は0.1%上昇)となった一方で、設備稼働率は予想の75.6%を下回る75.4%となりました。第3四半期GDP成長率の速報値は市場予想を上回り、経済全体の成長が続いていると市場が確信するのに十分な結果でした。年率換算で2.5~2.6%の市場予想に対して2.9%となり、第2四半期の1.4%から大幅に加速して2年ぶりの高い伸びとなりました。ただし、改善しているとはいえ低めの成長であることに変わりはなく、2009年の景気後退以降の経済成長率は少なくとも1949年以降で最も低い水準が続いています。9月の個人所得は0.3%増と、予想の0.4%増をわずかに下回り、個人消費支出は予想通りの0.5%増となりました。PCE価格指数も予想通りの前年同月比1.2%上昇で、コアPCE価格指数は同1.7%上昇でした。
雇用関連では、9月の雇用統計の非農業部門就業者数は15万6,000人増と、予想の16万8,000人増に達しませんでした。失業率は前月の4.9%から5.0%に上昇し、労働参加率は前月の62.8%から62.9%にわずかに上昇しました。時間当たり平均賃金は8月の25.73ドルから0.2%増加して25.79ドルとなり(前年同月比では2.6%増)、週平均労働時間は前月の34.3時間から34.4時間に増加しました。予想未達が小幅にとどまったことで市場はほとんど反応しませんでしたが、FRBは事態をやや深刻に捉え、9月の労働市場情勢指数(LMCI)はマイナス2.2%、8月もマイナス1.3%に下方修正されました(当初発表はマイナス0.7%)。8月の米求人労働移動調査(JOLTS)の求人数は、544万3,000人となり、7月の583万1,000人から減少しました。
雇用削減に関しては、スウェーデンの携帯電話機メーカーEricsson(ERIC)はコスト削減策の一環として3,900人を削減すると発表し、1週間で株価は32.5%下落しました。通信サービス大手のVerizon(VZ、10月は7.5%安)は5カ所のサービスセンターを閉鎖し、3,200人を削減すると発表しました。自動車メーカー大手のVolkswagen(VLKAY)は電気自動車の生産に注力し、今後数年間で1万人を削減するとの計画を発表しましたが、株価は1週間で2.9%上昇しました。
住宅関連では、全米住宅産業協会(NAHB)が発表したNAHB住宅市場指数は予想通り、9月の65から10月は63に低下しました。9月の住宅着工件数数は年率換算で104万7,000戸と、予想(118万戸)を下回り、8月の114万2,000戸から減少しました。許可件数は予想(116万5,000戸)を上回る122万5,000戸となりました(8月は115万2,000戸)。9月の中古住宅販売件数は年率換算で547万戸と、前年同月比で0.6%増加し、予想の535万戸、8月の530万戸をいずれも上回りました。9月の新築住宅販売件数は年率換算で59万3,000戸となり、前月の57万5,000戸を上回りましたが、予想の60万1,000戸には届きませんでした。
M&A関連では、英国の投資会社Henderson Group Plc(HNDGF、10月は2.0%高)が、同業のJanus Capital(JNS、同8.5%安)を株式交換方式により約26億ドルで買収すると発表しました。未公開会社でアウトドア用品を販売するBass Pro Shopsは、同業のCabela’s(CAB、同12.2%高)を45億ドルで買収することで合意しました。損害保険を扱う日本の損保ホールディングスは、同業のEnduranceに対して63億ドルでの買収を提示しました。工具メーカーのStanley Black & Decker(SWK、同7.4%安)は、日用品大手Newell Brands(NWL、同8.8%安)の工具部門を19億5,000万ドルで買収すると発表しました。通信サービス大手のAT&T(T、同9.4%安)は、メディア大手Time Warner(TWX、同11.8%高)を現金と株式の合計830億ドルで買収すると発表しました。AT&Tは2015年にも衛星放送大手のDIRECTVを485億ドルで買収しています。今回の買収は当局による調査の対象となり、複雑化と長期化を懸念する声も聞かれます。英国のたばこ大手British American Tobacco(BTI、同10.0%安)は同業のReynolds American(RAI、同16.8%高)に対し、未保有分の58%の株式取得を提案しました。航空通信システムを手掛けるRockwell Collins(COL、同横ばい)は、航空機の内装を製造するB/E Aerospace(BEAV、同15.2%高)との合併をめぐって同社と交渉中と報じられました。買収額は65億ドルと推定されています。デジタル通信機器メーカーのQualcomm(QCOM、同0.3%高)は、半導体メーカーのNXP Semiconductor(NXPI)を390億ドルで買収することで合意しました。このニュースを受け、NXPIの株価は月間2.0%上昇しました。通信会社のCenturyLink(CTL、同3.1%安)は、同業のLevel 3(LVLT、同21.1%高)を250億ドルで買収すると発表しました。General Electric(GE、同1.8%安)は、油田サービス大手Baker Hughes(BHI、同9.8%高)を買収して自社の石油・ガス事業と統合させる計画を明らかにしました。GEはBaker Hughesの株主に対し、17.40ドルの特別配当(総額74億ドル)を支払う予定です。一方、合意しなかったM&A案件として、祭壇で待つ花嫁の元に花婿が現れないという珍事が起こりました。花嫁はソーシャルメディア大手のTwitter(TWTR、同22.2%安)で、予想されていた花婿はソフトウェア大手のSalesforce.com(CRM、同5.4%高)です。通信会社Verizon(VZ、同7.5%安)はインターネット検索大手のYahoo!(YHOO、同3.6%高)の中核資産の買収について、ハッキングによりYahooの5億件のユーザーアカウント情報が流出したことを受け、買収額を48億ドルから10億ドル引き下げる意向であると報じられました。
個別銘柄のニュースとしては、メッセージアプリSnapchatを運営するSnapが、時価総額250億ドル規模の新規株式公開(IPO)を目指していると報じられました。建設機械大手のCaterpillar(CAT、同6.0%安)は、最高経営責任者(CEO)が2016年末で退任すると発表しました。同社はここ数年、現CEOの元で拡大・成長してきましたが、機器の売上高は落ち込んでいます。動画配信大手のNetflix(NFLX、同26.7%高)は予想を上回る決算を発表しました。海外の契約者数が予想以上に伸びていることで成長が見込まれます。コーヒーチェーン大手のStarbucks(SBUX、同2.0%安)は、中国で今後5年間に新たに5,000店舗を出店する計画を明らかにしました。電気自動車メーカーのTesla Motors(TSLA、同3.1%安)は、自動運転に必要なハードウェアを全ての自社製品に搭載する方針を明らかにしました。カリフォルニア州の司法当局は、Wells Fargo(WFC、同3.9%高)による架空口座開設問題に関する調査に乗り出しました。John Stumpf CEOは同社のCEO職に加え、Chevron(CVX、同1.8%高)とTarget(TGT、同0.1%高)の取締役も辞任しました。インターネット通販大手Amazon(AMZN、同5.7%安)は、地元密着型のコンビニエンスストアを導入することで食品・日用品事業を拡大する計画や、年末商戦時には12万人を臨時に雇用することを明らかにしました(決算発表は予想を下回りました)。製薬会社のMylan NV(MYL、同4.2%安)は、EpiPenの価格設定問題をめぐり、4億6,500万ドルを支払うことで米司法省と和解しました。同日に、同社の時価総額は16億ドルに増加しました。韓国のSamsung Electronicsは、GALAXY Note 7の生産と販売の無期限中止を決めました。製薬会社のBristol-Myers Squibb(BMY、同5.6%安)は、新たな肺がん治療に関するCheckmate-026臨床試験で効果が見られず、株価が下落しました。
政治面では、投票日を1週間後に控え、現時点において市場はクリントン候補(民主党)が勝利し、下院は共和党が辛うじて過半数を維持すると予想しています。上院も共和党の過半数が続くとの見方が主流ですが、互角の議席数、あるいは少数ですが民主党の過半数獲得を予測する向きも一部に見られます。こうした市場予想に変化があれば、ヘルスケアや貿易関連銘柄を中心に資産配分の大幅な見直しが起こると予想され、万が一トランプ候補が勝利した場合には、資産配分の大転換となり、投票日翌日の9日の寄付きは注文の不均衡が生じる可能性があります。
業績関連では、10月は決算が大きな株価変動要因となりました。10月末現在、時価総額の70.2%に相当する306社が決算発表を終えており、過去平均の67%を上回る73%の企業で利益が予想を上回っています。売上高も力強く、55%の企業が予想を上回り、活発な個人消費が見込まれます。第2四半期と同様に利益と売上高の両方に回復が見られ、現在のバリュエーションを下支えしています。ただし、下支えと株価押し上げは別物です。
その他のニュースとしては、英国のメイ首相がEU離脱の正式通知を2017年3月までに行うことを表明しました。離脱時期は2019年を目指しています。この発言を受け、英ポンドは31年ぶりの安値となる1ポンド=1.24ドルまで下落しました。ブレグジットの投票直前は1.50ドルでした。ドイツのメルケル首相は英国との交渉に対しては強硬姿勢で臨むとし、フランスのオランド大統領も英国はEUを離脱する際には代償を払わねばならないと発言しました。コロンビア政府が左翼のマルクス主義者と交わした和平合意は、事前の世論調査では和平協定が発効されると予想されていたにもかかわらず、同国の有権者は反対の意思を示し、その賛否を問う国民投票で否決されました。英国のブレグジットに関する投票が事前予想に反する結果となったことに続き、世論調査の信頼度は低下しています。トルコ政府は2016年7月に発生したクーデター未遂事件への対応が継続していることを理由に、非常事態宣言の3カ月の延長を決定しました。米国はロシア側が履行義務を果たしていないとして、シリア停戦協議の中断を決めました。サウジアラビア政府は国際市場で同国としては過去最大となる国債発行を実施しました。発行額は175億ドルで、発行利回りは5年物が2.58%、10年物が3.40%、30年物が4.62%となりました。インターネット関連事業も手掛ける通信サービス大手ソフトバンクは、サウジアラビアの政府系ファンドと共同で、テクノロジー分野に投資する資産規模1,000億ドルのファンドを設立しました。
利回り、金利、コモディティは引き続き活発な動きを見せました。米国10年国債の利回りは9月末の1.60%から上昇(価格は下落)して1.84%で10月の取引を終えました(2015年末は2.27%、2014年末は2.17%)。30年国債の利回りは2.59%と、9月末の2.32%から上昇しました(同3.02%、同2.75%)。外国為替市場は活発な動きを見せ、ユーロは9月末の1ユーロ=1.1240ドルから1.0982ドルに下落して10月を終えました(2015年末は1.0861ドル)。英ポンドは9月末の1ポンド=1.2976ドルから10月末は1.2244ドルに下落しました(同1.4776ドル)。円はドルに対して9月末の101.34円から下落して104.81円で10月を終えました(同120.66円)。人民元は1ドルに対して9月末の6.6711元から10月末は6.7716元に下落しました(同6.4931元)。金価格は9月末の1,318.80ドルから10月末は1,278.90ドルに下落しました(2015年末は1,060.50ドル、2014年末は1,183.20ドル)。原油価格はOPECによる増産凍結観測を受けて大きく変動しましたが、最終的には9月末の1バレル48.05ドルから46.70ドルに下落して10月を終えました(2015年末は37.04ドル)。米国内のガソリン価格はわずかに値上がりし、9月末の1ガロン2.224ドルから10月末は2.243ドルに上昇して月の取引を終えました(2015年末は2.034ドル、2014年末は2.299ドル)。VIX恐怖指数は9月末の13.29から10月末は17.06に上昇しました(2015年末は18.21)。
S&P500は10月に1.94%下落し、これで5カ月上昇が続いたのち、3カ月連続での下落となりました。1.94%という下落率は2016年1月につけた5.09%の下落以来最大で、S&P500はその後2016年2月11日までに年初来で10.5%下落しました。10月末時点のS&P500は年初来では4.02%の上昇(配当込みのトータルリターンはプラス5.87%)、年率換算では4.83%の上昇(同7.06%)となっています。10月の終値である2,126.15は、9月末の2,168.27や8月末の2,170.95を下回ったものの、2015年末の2,043.94は上回りました。同指数は2016年8月15日に付けた終値での史上最高値2,190.15を2.92%下回る水準にあり、選挙結果が判明して政策の不透明感がある程度払拭されれば、企業活動の拡大につながるとの期待が市場で広がっています。
10月は11セクター(9月に不動産セクターが11番目のセクターとして追加されました)の中で月間騰落率がプラスとなったのは2セクターで、9月の3セクター、8月の4セクターを下回りました。10月は金融セクターが2.16%と大きく上昇し、これは10月に5.59%下落した不動産セクターを9月に分離したことが寄与しました。12月のFOMCでの利上げ観測が金融銘柄の支援材料となりましたが、この点も負債比率の高い不動産銘柄には逆風となりました。年初来で見ると、金融セクターは1.87%の上昇(9月16日の分離以前は不動産銘柄を含む)、不動産セクターは試算ベースで0.33%の下落となっています。8月に2.95%上昇して月間騰落率がトップだったエネルギーセクターは、原油価格が一時15カ月ぶりの高値まで上昇したものの10月末は前月比2.8%下落したことを背景に、2.97%の下落となりました。ただし、年初来では12.59%の上昇と、パフォーマンスが最も高いセクターとなっています(2014年終値からは依然として13.93%の下落)。原油価格とエネルギーセクターはともに、11月30日のOPEC総会を控えて不安定な値動きが見込まれます。情報技術セクターは月間での上昇に手が届きかけたものの、0.33%の下落で取引を終え、年初来では10.97%の上昇となっています。ヘルスケアセクターは、薬価政策に引き続き注目が集まったことに加え、医療保険制度改革法(オバマケア)による保険料が2017年に平均25%値上がりするとの見通しが発表されたことを受けて引き続き下落圧力にさらされ、6.60%下落しました。年初来では6.54%の下落と、パフォーマンスが最も低いセクターとなっています。
10月も値下がりした銘柄数が値上がりした銘柄数を上回りました。値上がりした銘柄数は163銘柄と(平均上昇率は4.36%)、前月の233銘柄から減少した一方、値下がりした銘柄数は341銘柄と(平均下落率は5.87%)、前月の270銘柄から増加しました。10月は、13銘柄が10%以上上昇した一方(平均上昇率は16.34%)、54銘柄が10%以上下落しました(平均下落率は13.92%)。また、2銘柄が25%以上上昇した一方(9月も2銘柄)、1銘柄が25%以上下落しました(9月と8月はゼロ)。年初来では、差がさらに縮まったものの、依然として値上がりした銘柄数が上回っており、316銘柄が上昇し(9月は341銘柄)、187銘柄が10%以上上昇している一方(同229銘柄)、値下がりした銘柄数は187銘柄で(同162銘柄)、87銘柄が10%以上下落しています(9月の70銘柄から増加)。10月の出来高は9月から5%減少し(9月は前月から12%増加)、1年間の平均月間出来高を11%下回りました。月中の高値と安値の差で見た変動率は2.60%と9月の3.24%から低下し、1年間の平均である5.44%の約半分の水準となりました。
11月は重要なイベントとともにスタートします。第1週には、日銀、イングランド銀行に加えて米国ではFOMCの会合が開催されますが、いずれも政策の変更は行われず、将来の政策見通しに関して更なる言及や示唆がなされることが予想されます。さらに、4日には米国の雇用統計も発表されます。何といっても8日に行われる米国の選挙がメインイベントとなり、選挙では新大統領の他、上下両院の議会構成も決定されることになります。11月は小売企業の決算発表が始まり、年末商戦に関する予測も示されます。
S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは10月にS&P500の銘柄変更を行いませんでした。
投資家が押さえておくべきポイント
10月の重要ポイントは以下の通りです。
→S&P 500は10月に1.94%下落し、2,126.15で取引を終えました。年初来ではなお4.02%の上昇となっていますが(配当込みのトータルリターンはプラス5.87%)、2016年8月15日の史上最高値からは2.92%の下落となっています(同マイナス2.55%)。
○原油価格は9月の48.05ドルから2.8%下落し、46.70ドルで取引を終えました。
○金価格は9月の1,318.80ドルから3.0%下落し、1,278.90ドルで取引を終えました。
○英ポンドは対ドルで9月の1.2976ドル(国民投票前は1.5ドル)から1.2244ドルに5.6%下落しました。ユーロは対ドルで9月の1.1240ドルから1.0982ドルに2.3%下落しました。
○米国10年国債利回りは11月のFOMCを控え、9月の1.60%(2015年末は2.27%)から1.83%に上昇しました。ただし、11月のFOMCでは政策の変更はないと予想されています。
○VIX恐怖指数は9月終値の13.29から28.4%上昇し17.06で10月を終えました。
○S&P500構成銘柄の時価総額の70%に相当する企業が第3四半期の決算発表を終えた段階で、利益、売上高ともに市場予想をしっかりと上回る結果となっています。第4四半期のEPS予想も従来の水準が維持されており、第4四半期は過去最高益が見込まれます(予想が達成されればの話ですが)。
→大統領選の第2回、第3回討論会では勝者がはっきりとしました。ただし、それは皆さんが話している人次第ですが、米国の有権者が勝者でないことは間違いありません。
○選挙まであと一週間となった現時点でも、市場は依然としてクリントン候補(民主党)の勝利を予想しています。また、下院では共和党が過半数を維持するものの議席を減らすと予想されており、上院も共和党による過半数維持との見方が大勢となっていますが、両党の議席数が互角、あるいは民主党が過半数を獲得すると予想する向きもあります。
●WikiLeaksによる情報公開やクリントン候補の私用メールをめぐる問題で新たなメールが浮上したことにより、選挙の行方には依然として大きな不透明感があります。
●市場の見方に変化が生じた場合、急速な資産配分見直しの動きが生じる可能性があり、特にヘルスケア関連と貿易関連銘柄では大きな動きが予想されます。
●トランプ候補が予想外の勝利を収めた場合にも急速な資産配分見直しの動きが見込まれ、11月9日の寄り付きでは注文の不均衡が生じる可能性があります。
○11月9日、誰かは「大統領再選委員会」のメンバーに登録されることになるでしょう。
○個人的には次のようなことを考えています。
●「どうしたって、私たちは道に迷うことになる。ジョー・ディマジオ、君はどこへ行ってしまったんだ?国中があなたに目を向けている・・・」(サイモン&ガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」の一節)
●人事部への問い合わせ:11月9日は体調不良で会社を休みそうなのですが、その場合、疾病休暇の扱いになりますか、それとも有給休暇の消化でしょうか?
→英国のメイ首相は2017年3月末までにEU離脱を正式に通告し、2019年の離脱完了を目指す方針を発表しました。
○EUとのゲームが開始され、ドイツのメルケル首相やフランスのオランド大統領が交渉に関して強硬な発言を行っています。
→政治を除けば(それが現実の世界のものであれ、「Saturday Night Live」のようなコメディ上のものであれ、大差はないようですが)、企業決算が大きな材料となりました。これまでに(10月31日の日中時点)決算発表を終えたS&P500構成企業306社のうち利益が予想を上回った割合は73%と、過去平均の67%を上回っています。売上高も予想よりも好調で、55%の企業で予想を上回っており、活発な個人消費が期待されています。
○利益と売上高の両方に回復が見られ、現在のバリュエーションの下支え要因となっています。
○バリュエーションという点では、動画配信大手のNetflix(NFLX)の株価は、決算が予想を上回ったことに加え、より重要な点として、海外の契約者数が大幅に伸びた点が好感され、10月は26.7%上昇しました(337倍という株価収益率(PER)はほとんど無視されました)。
→多くの中央銀行が将来の政策措置に言及しました。
○インド準備銀行は主要政策金利を0.25%ポイント引き下げて6.25%とし、利下げの理由として経済成長の鈍化を挙げました。ロシア連邦中央銀行は政策金利を10.00%に0.5%ポイント引き下げました。
○FOMCメンバーから12月13-14日の会合での利上げを支持する発言が相次ぐ一方、11月1-2日の会合では政策の据え置きが予想されています。
●日銀は11月1日に金融政策決定会合を、イングランド銀行は11月3日に金融政策委員会を開催します。
○ECBは量的緩和プログラム(現時点では来年3月末に終了予定)の対象となる債券の不足について触れ、政策金利は据え置きました。
○IMFは、世界経済の予想成長率について、2016年の3.1%から2017年は3.4%に加速するとの見通しを発表しました。国別では、米国と英国の成長率予想を下方修正し、ドイツ、日本、インドの成長率予想は上方修正しました。
→10月のM&A総額は、大型案件があったことから5000億ドルに達しました。
○10月は選挙を直前に控え不透明感が漂う状況下でも、企業はM&Aに多額の資金を投じました。
→成立した案件もあれば、合意に達しなかった案件もありました。
○通信企業のAT&T(T、10月は9.4%安)がメディア企業のTime-Warner(TWX、同11.8%高)を現金と株式合計854億ドルで買収することを目指す案件では、審査期間がスタートしましたが、審査の期間は長期に及ぶ見通しです。
○British American Tobacco(BT、同10.0%安)は同業のReynolds American(RAI、同16.8%高)の未保有の株式58%を470億ドルで取得する提案を行いました。
○General Electric(GE、同1.8%安)は自社の石油・ガス事業とBaker Hughes(BHI、同9.8%高)を統合させる計画を明らかにしました。General ElectricはBaker Hughesの既存株主に1株当たり17.40ドル(総額74億ドル)の特別配当を実施する予定です。
○通信企業のCenturyLink(CTL、同3.1%安)は同業のLevel 3(LVLT、同21.1%高)を250億ドルで買収すると発表しました。
○一方で、積極的に提案を持ち掛けられていたソーシャルメディア大手Twitter(TWTR、同22.1%安)の買収は、Salesforce.com(CRM、同5.4%高)が現在買収に関心を持っていないと表明し、実現には至りませんでした。
○未決着の案件として、通信企業のVerizon(VZ、同7.5%安)はYahoo!(YHOO、同3.6%安)のネット事業買収に関して、48億ドルの買収提示額を再交渉する意向であることを明らかにしました。
→OPECの発表によれば、9月の加盟国の産油量は日量3,364万バレル(前月比同16万バレル増)と過去最高を記録しました。ロシアが減産への支持を表明する中、11月30日のOPEC総会での減産への期待が続きました。
○原油価格は月中に15カ月ぶりの高値となる1バレル51.57ドルをつけたのち、46.70ドルと9月の48.05ドルから2.8%下落して月を終えました。
→住宅関連指標は他の経済統計や指標と比べて引き続き好調でした。
●中古住宅販売件数、中古住宅販売仮契約指数、建設許可件数は上昇した一方、住宅着工件数は予想を下回りました。また、S&P/ケースシラー住宅価格指数は前年同月比5.1%上昇と前月から伸びは鈍化したものの、依然として堅調な伸びを示しました。
●一方、9月の新車販売台数は前月から減少し、購入促進のための販売奨励金は増加しました。
→9月の雇用統計では、非農業部門雇用者数は15万6,000人増と予想の16万8,000人増を下回りました。失業率は8月の4.9%から5.0%に上昇し、労働参加率は8月の62.8%から62.9%に若干上昇しました。平均時給は8月の25.73ドルから25.79ドルに0.2%増加し(前年同月比では2.6%増)、週平均労働時間は8月の34.3時間から34.4時間に増加しました。求人労働移動調査(JOLTS)の求人件数は、7月の583万1,000件から8月は544万3,000件に減少しました。
→2016年第3四半期のGDP成長率(速報値)は前期比年率2.9%と予想の同2.6%を上回り、第2四半期の同1.4%から加速しました。
→時価総額が2,376億ドルを上回る上場企業は世界でわずか10社しかありませんが(全て米国企業、スイスのNestleは13位)、Appleは現金及び現金同等物だけでこの額を保有しています。
→S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは10月にS&P500不動産セクターの銘柄変更を行いませんでした(セクターの変更に追われた9月からまだ2カ月目です)。
→そのほか、興味深い点として、ノーベル文学者を受賞したボブ・ディランが歌っているように「時代は変わりつつある」ようです。
○WikiLeaksが公開した電子メールによると、クリントン候補はAppleのティム・クック最高経営責任者(CEO)を副大統領候補として検討していたようです。ちなみに、米国のシークレットサービスもここ数年オバマ大統領に同じようなことをさせようとしてきました。つまり、ブラックベリーの携帯端末からアイフォーンに乗り換えさせようとしていました(ボブ・ディランの歌にあるように「気にするな、大丈夫さ」といったところです)。
11月のフューチャー・ショック
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・
インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
本翻訳は、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。
SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはこちらをご参照ください。
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