S&P500月例レポート(2016年10月配信)
S&P 500®
2016年9月: 注目集める中央銀行
9月の金融市場は「中央銀行の動向が注目」されました。ほとんどの中央銀行が金融政策の現状維持を決めたものの、将来的には見直す可能性があることを示唆し、相場は乱高下する展開となりました。また、Deutsche BankとCommerzbankが守勢に回り、米大手銀行のWells Fargoも苦境に陥る等、中央銀行は民間銀行についても懸念する必要性に迫られました。市場関係者は短期的な追加刺激策が早晩打ち出され、米国では12月に利上げが行われると予想していましたが、11月8日の大統領選挙の投開票日が近づくにつれ、新たに米国の政局も市場の関心事となりました。政局を意識した相場展開も確認されましたが、相場の流れ自体が変えられたのかもしれません。また、アルジェリアで開催された石油輸出国機構(OPEC)の非公式会合も材料視されました。この臨時会合で(減産に)合意することで意見の一致がみられたようで、加盟国は11月30日にウィーンで開催される総会での正式合意を目指しています(個人的には合意に至るかを疑問視しています)。重要な点は総会までにサウジアラビアとイランの間での協議が決着し、減産合意が実現するかどうかです。原油の需給バランスの動向を踏まえると、景気指標にその影響が反映されるまでには時間がかかるでしょう。まずは原油価格に減産の影響が織り込まれるのが先決というのが大方の見方となっています。
例年9月は年間で最もパフォーマンスが振るわない月ですが、銀行との取引や原油相場の動きを始終気にかけてはいたくない人々にとって、今年の株式市場の下げは小幅にとどまりました。市場関係者は相場の下落には不満を抱いていますが、大幅に下落するよりはまだましでしょう。月中に発表された経済指標は良好な内容で、成長鈍化が続いているにもかかわらず、住宅関連指標は堅調を維持しています。この9月は米国議会にとっても忙しい月となりました。議会は金融大手のWells Fargoと医薬品大手のMylanに対して極めて珍しい一枚岩の対応を見せ、その追及は次第に厳しさを増しています。さらにインターネット大手のYahoo!に対しても厳しい姿勢で臨む構えを見せています。こうした一致団結した動きは、暫定予算案の審議でも見られました。現行予算の期限となっている9月30日以降も政府機関が機能するように、12月9日までの暫定予算案が(9月30日の数日前に)可決されました。今回成立したつなぎ予算の期限となる12月9日までに改めて暫定予算案の審議を行う必要はありますが、再度期限が延長される可能性が高いと思われます(この頃までには大統領選の結果は判明していますが、新大統領の就任は来年1月の予定です)。大統領に対する強気姿勢を示す最後のパフォーマンスとして、議会はオバマ大統領の拒否権を覆し、2011年の同時多発テロに関連して犠牲者遺族がサウジアラビア政府を提訴することを認める法案を可決しました(この決定は法科大学院の入学志願者の増加を後押しするはずです)。なお、拒否権が覆されたのは、オバマ政権では初めてのことです。
10月の相場は通常、企業が第3四半期の決算発表と通年の業績予想の見直しを行い、さらに来年度の事業計画や業績見通しに関してもより詳細な内容を公表するため、その内容に大きく左右されます。しかしながら今年は、業績発表と大統領選挙に関する記事がマスコミ報道を二分することになるでしょう。相場よりも選挙報道のほうが盛り上がりをみせるかどうかは、誰が大統領選を制すると予想されるか、そして議会の勢力図の行方がその鍵を握っています。現時点では、市場はクリントン候補の勝利を予想しており、議会については上下両院ともに共和党が議席を減らすものの、過半数を維持すると予想しています。また、クリントン氏への支持が強ければ、上院では民主党が過半数を占めるという見方もあります。決算発表が進むことに加え、選挙結果に対する見方が変化すれば資産配分が見直されることから、相場のボラティリティも高まると予想されます。現時点のバリュエーションからみると、決算内容と業績見通しが市場を下支えするか、あるいは株価収益率(PER)を低下させることで、株価に対してこれまで以上に大きな影響を持つと思われます(その結果、市場のほうが政局よりも先行きを見通しやすくなるでしょう)。
中央銀行については、ポーカーゲームのディール時点で役が決まっているかのように、サプライズは見られませんでした。欧州中央銀行(ECB)は金利を据え置き、追加緩和策を発動することもありませんでした。とはいえ、債券買い入れプログラムを2017年3月以降も継続する可能性には含みを残し、何らかの追加緩和策が打ち出されるとの見方もあります。欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)間でのギリシャの債務問題に対する意見の相違は続いています。従来から両者は金融支援と緊縮プログラムについて異なる見解を持っていました。イングランド銀行は金利を据え置いたものの、近い将来の利下げの可能性を示唆しました。日銀も金融政策決定会合を開催し、現状0.1%のマイナス金利を維持し、より積極的な緩和策に対するコミットメントとして、新たにイールドカーブ・コントロールを導入し、マイナス金利の深化も可能との見解も示しました。オーストラリア準備銀行も金融政策委員会で金利据え置きを決定し、経済成長を支えるために来年まで利上げを行わないことを示唆しました。連邦公開市場委員会(FOMC)も2日間に及ぶ会合を終え、利上げ見送りを決定し、利上げ時期に対する見方にも変わりはないとしています。しかし、投票権を持つ10名のFOMCメンバーのうち、3名が利上げを主張して反対票を投じました。連邦準備制度理事会(FRB)は米国経済の改善は続いており、雇用創出も堅調、家計支出も拡大しているとしています。懸念事項として、インフレの低迷とその原因がエネルギー価格の低下にある点を指摘し、低調な設備投資が続いていることも認めています。全体として、利上げの根拠は強まっていると主張してはいるものの、利上げには動きませんでした。イエレン議長は上院で半期に一度の議会証言を行い、規制当局は中小銀行の負担軽減のために規制を緩和する必要があると述べ、またFRBが一部の大手銀行に対して資本要件を厳格化することを計画していることを明らかにしました。中央銀行にとって民間銀行の問題も深刻化しています。ドイツ政府はDeutsche Bankに対して公的支援は行わないことを明言しましたが、市場では支援が行われるとの憶測がまだ消えてはいません。Commerzbankは配当停止と9,600人の人員削減を発表しましたが、社内手続きのデジタル化対応のために新たに2,300人を採用しています。なお、両行とも金利の見直しは行っていません。ロシア連邦中央銀行は予想通り政策金利を0.5%引き下げて10.00%としました。また、スイス国立銀行は現行マイナス0.75%の政策金利の据え置きを決定しました。
世界経済に関するニュースでは、ユーロ圏の第2四半期の国内総生産(GDP)成長率は0.3%と、第1四半期の0.5%から減速しました。英国では8月のインフレ率が前月から横ばいの0.5%となり、第2四半期のGDP確報値は0.7%と改定値の0.6%から上方修正されました。ドイツのIFO企業景況感指数は2014年5月以来の高水準となる109.5に上昇しました。中国の8月の輸入(米ドル建て)は1.5%増と、2年ぶりに前年同期比でプラスとなりました。輸出は2.8%減となり、7月の4.4%減から改善しました。中国の8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比1.3%上昇と、7月の1.8%上昇から低下しました。また8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比0.8%低下となりました(7月は1.8%低下)。
米国経済関連では、8月の自動車販売台数が4.2%減となりました。ディーラーが販売奨励金を増やすなか、販売台数は過去最高水準に留まっているものの減少しました。第2四半期の非農業部門労働生産性は予想通り0.6%低下し、単位労働コストは4.3%上昇となり、予想(2.1%上昇)を上回りました。第2四半期のGDP確報値は1.4%増と改定値の1.1%増から上昇しました(予想は1.3%増)。8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は52.0と7月の52.9から低下し、8月のサプライ管理協会(ISM)製造業景況指数は49.4(予想は52.2)となりました。8月のISM非製造業景況指数は51.4と6年ぶりの低水準で予想(55.0)を大幅に下回り(7月は55.5)、8月のサービス業PMIは51.0と(予想は51.2)、7月の51.4を若干下回りました。8月のPPIは前月比、前年同月比ともに横ばいとなり、食品とエネルギーを除くコアのPPIは前月比で0.1%上昇、前年同月比で1.0%上昇となりました。またCPIは0.2%上昇(予想は0.1%上昇)、前年同月比では1.1%上昇となり、コアCPIは前月比0.3%(予想は0.2%上昇)、前年同月比では2.3%上昇とFRBにとって好ましい結果となりました。7月の建設支出 は横ばい(予想は0.6%増)となり、6月の数値は0.6%減から0.9%増に上方修正されました。7月の製造業受注は1.9%増(予想は2.0%)となり、6月は当初発表の1.5%減から1.8%減に下方修正されました。8月の耐久財受注は前月比で1.9%減と予想されていましたが横ばい、そして前年同月比では1.3%減となりました。9月の消費者信頼感指数は104.1と、前月の101.8を下回るという事前予想(98.8)を大きく上回りました。8月の小売売上高は前月比横ばいとの予想を下回り、0.3%減となりました。7月の貿易統計で、輸出は1.9 %増、輸入は0.8%減となりました。米国の8月の輸入物価は前月比0.2%低下、前年同月比2.2%低下となり、輸出物価は前月比0.8%低下、前年同月比では2.4%低下でした。FRBのベージュブック(地区連銀経済報告)によると、米国経済は「緩やか」または「緩慢」なペースで拡大しました。労働市場が引き締まったとする地区が増え、消費支出は底堅く推移した一方、過去最高に迫っていた自動車販売台数は減少に転じました。8月の個人所得は予想通り0.2%増となり、個人消費支出は横ばいで予想(0.2%増)に届きませんでした。また8月のPCE価格指数は前年同月比1.0%上昇し、コアのPCE価格指数は同1.7%上昇しました。
住宅関連では、全米住宅産業協会(NAHB)が発表した9月NAHB住宅市場指数は8月の59から、2005年以来の高水準となる65に上昇し、事前予想の60を大幅に上回りました。8月の住宅着工件数は年率換算で114万戸と、予想(119万戸)を下回りました。許可件数も114万戸となり予想(117万戸)を下回りました。8月の中古住宅販売件数は年率換算で533万戸と、前年同月比で1.6%の減少となりました(2カ月連続で予想を下回りました)。8月の新築住宅販売件数は年率換算で60万9,000戸と、予想(59万8,000戸)を上回りました。7月の数値は当初発表の65万4,000戸から65万9,000戸に上方修正されました。また7月のS&Pケース・シラー住宅価格指数は前年同月比5.0%上昇と堅調だったものの、6月の5.1%上昇からは減速しました。
雇用面では、8月の雇用統計の非農業部門就業者数は15万1,000人と予想の17万5,000人を下回る一方、失業率は4.9%で横ばい、労働参加率も62.8%で同じく横ばいでした。平均週間労働時間は前月の34.5時間から34.3時間に減少と、懸念される(そして注意が必要な)結果となりました。時間当たり平均賃金は0.1%増加しました(7月の25.69ドルから25.72ドルに増加)。7月の米求人労働移動調査(JOLTS)の求人数は、6月の562万人から564万人に小幅増加が予想されていましたが、587万人と予想を上回り、過去最高水準となりました。別の角度から雇用を見ると、建設機械大手のCaterpillar(CAT、9月は1.2%高)は2018年末までに全世界で1万人を削減するという計画に加え、ベルギーでさらに2,000人の従業員を削減する可能性があると発表しました。小売大手のWal-Mart(WMT、同1.2%高)は事務職7,000人を削減すると発表しました。スウェーデンの携帯電話および通信機器メーカーEricsson(ERIC、同2.7%高)は国内最後の工場の閉鎖に伴い1,300人を削減すると発表しました。ネットワーク機器大手のCisco(CSCO、同1.2%高)はメキシコでの生産拡大のため2018年末までに40億ドルを投じる計画を明らかにしました。ドイツの民間銀行Commerzbank AG(CRZBY、同12.1%安)は9,600人の人員を削減する一方、社内業務のデジタル化のために新たに2,300人を雇用すると発表しました。
M&A関連では、ドイツのヘルスケア・農業大手Bayer(BAYRY、同1.2%高)がMonsanto(MON、同4.0%安)に対する買収提示額を660億ドルに引き上げ、Monsantoがそれを受け入れることで合意しました。カナダのパイプライン運営会社Enbridge(ENB、同11.8%高)は、同業のSpectra Energy(SE、同20.0%高はS&P500構成銘柄で最高のパフォーマンス)を全額株式交換方式により総額280億ドルで買収すると発表しました。ドイツの自動車大手Volkswagen(VLKAY、0.3%安)は、トラックメーカーのNavistar(NAV、同63.0%高、数十年前も前の旧社名はInternational HarvesterでS&P500の当初からの指数構成銘柄)の株式16.7%を取得することを明らかにしました。Volkswagenは一部の設備をNavistarに売却し、またNavistarの取締役2名の指名権を得る見通しです。General Electric(GE、同5.2%安)は、3Dプリンターを手掛ける2社(ドイツ企業とスウェーデン企業)を総額14億ドルで買収することを発表しました。石油探査のEOG Resources(EOG、9.3%高)は、同業のYates Petroleumを23億ドルで買収することで合意しました。産業機器メーカーのDanaher(DHR、同3.7%安)は、分子診断機器・試薬を手掛けるCepheid(CPHD、同53.5%高)を現金40億ドルで買収すると発表しました。Bill Ackerman氏が率いるヘッジファンド、Pershing Square Capital Managementは、メキシコ料理ファストフードチェーンを展開するChipotle Mexican Grill(CMG、同2.4%高)の株式9.9%を取得したことを明らかにしました。投資顧問会社Starboard Valueは、アイルランドの製薬会社Perrigo(PRGO、同1.5%高)の株式4.6%を取得した上で、非中核資産を売却して別の選択肢を検討するよう提案しました。顧客情報管理(CRM)ソフトウエアを手掛けるSalesforce.com(CRM、同4.0%安)は、ソーシャルメディア企業Twitter(TWTR、同20.0%高)への買収提案を検討していると報じられました。その後、テーマパークを運営するWalt Disney(DIS、同1.7%安)とソフトウエア大手Microsoft(MSFT、同0.2%高)もTwitter買収を検討しているとして名乗りを挙げました。ドイツの化学・ゴムメーカーLanxess AGは、同業のChemtura(CHMT、同9.0%高)を27億ドルで買収する計画を明らかにしました。先物取引所を運営するCBOE Holding(CME、同3.5%安)は、証券取引所を運営するBats Global Marketsを現金と株式により、総額32億ドルで買収すると発表しました。デジタル通信を手掛けるQualcomm(QCOM、同8.6%高)は、同業のNXP Semiconductors NV(NXPI、同15.9%高)の買収に向けて協議に入っていると報じられました。メディア大手のViacom(VIAB、同5.6%安)とCBS(CBS、同7.3%高)は10年前に分離しましたが、両社の筆頭株主であるRedstone一族が両社の再統合を提案しています。一方、合意しなかったM&A案件としては、パイプライン大手のEnterprise Products Partners(EPD、同4.2%高)は同業のWilliams Companies(WMB、同10.0%高)に対して買収を提案していましたが、Williams側が交渉に消極的だったために断念したことを明らかにしました。Carl Icahn氏は、Chesapeake Energy(CHK,同1.3%安)の持ち分を9.4%から4.6%に減らしました。同氏は売却の理由について、税金対策のためとしています。Viacom(VIA、同1.2%安)は、暫定最高経営責任者(CEO)の退任、50%の減配、Paramount Picturesの少数持ち分の売却断念を発表しました。ヘルスケア大手のPfizer(PFE、同2.7%安)は、事業分割を見送ることを明らかにしました。
個別銘柄のニュースとしては、通信会社Verizon(VZ、同0.7%安)に中核資産を48億ドルで売却することで合意していたインターネット検索大手のYahoo!(YHOO、同0.8%高)は、ネットワークへの不正侵入により5億件のユーザーアカウント情報が流出したことを明らかにしました。Yahoo側は「国家の後ろ盾を得たハッカーの仕業」だとみています。ソーシャルメディア大手のFacebook(FB、同1.7%高)は、過去2年間にわたり動画広告の視聴時間を過度に測定していたことを明らかにしました。ソニー(SNE、同3.3%高)は、家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)4」の新機種として、薄型化モデルと高性能モデルの2製品を発表しました。Microsoft(MSFT、同0.2%高)は、増配と400億ドルの自社株買い戻しプログラムを発表しました(同社は2016年6月までの1年間に160億ドル、5年間では481億ドルを自社株買い戻しに充てました)。インターネット通販大手Amazon.com(AMZN、同8.9%高)は上場来初めて株価が800ドルを上回り(9月の終値は837ドル)、時価総額が世界第4位となりました(Apple、Google、Microsoftに次ぐ)。銀行のWells Fargo(WFC、同12.8%安)では、架空口座問題で解雇された元行員が同行に対して総額26億ドルの損害賠償を求める集団訴訟を起こしました。携帯電話メーカーのBlackberry(BBRY、同5.2%高)は、端末の自社製造から撤退すると発表しました。
その他のニュースとしては、ドイツで行われた地方選挙でメルケル首相率いる与党が敗北し、同国の政治的変化が続いていることが示唆されました。州議会選挙で与党が敗北したのはこの2カ月で2回目となりました。サウジアラビア政府は、石油収入への圧力が続いていることを受け、総額690億ドルに上る投資プロジェクトを見直して200億ドルの削減を検討していると報じられました。米国議会では多くのCEOが公聴会で証言しました。Wells Fargo(WFC、同12.8%安)のCEOは顧客に無断で口座を開設した問題で厳しく非難され(元行員が同社に対して26億ドルの損害賠償をめぐる集団訴訟を起こしています)、Mylan(MYL、同10.0%高)のCEOもEpiPenの価格設定をめぐり追求を受けました。米司法省はDeutsche Bank(DB、同11.3%安)に対し、モーゲージ担保証券(MBS)をめぐる140億ドルの和解金を求めています(ドイツ政府は同行への支援を行わないと表明しました)。その後の情報では、司法省は当初報道の半分以下の金額で和解に応じたとみられています。シリアでは米国とロシアが仲介した停戦合意が発効し、さまざまな結果が現れています。国際エネルギー機関(IEA)は月次報告で世界石油需要見通しを下方修正し、2016年は日量10万バレル引き下げて前年比同130万バレル増に、2017年についても同20万バレル引き下げて同120万バレル増(2016年を下回る)としました。米国の2015年の家計所得は前年比で2007年以来の上昇となる5.2%増となりましたが、中央値(5万6,500ドル)は依然として2007年実績(インフレ調整後)を1.6%下回っています。宅配大手FedEx(FDX、同9.8%高)は、航空貨物運賃を平均3.9%、陸上運賃を4.9%値上げすると発表しました。同業のUPS(UPS、同5.9%高)も4.9%の運賃値上げを発表しています。イタリアは、「政治の安定」を目的とした憲法改正を問う国民投票が12月4日にが12月4日に実施されることが決まりましたが、レンツィ首相は国民投票で否決されたら辞任すると表明しました。米国大統領選挙では、3回行われる討論会の1回目(2回目は10月9日、3回目は10月19日、副大統領候補者による討論会は10月4日、投票日は11月8日)が行われ、民主党のクリントン候補と共和党のトランプ候補が対決しましたが、これまでのアプローチと大きな変化はなく、互いの攻撃やデータが示すものとは異なる事実の応酬が行われ、自分こそが国民を救うことができるとの信念の訴えが繰り広げられました。米議会では12月9日までの政府予算を確保する暫定予算案が可決されましたが、期限後の予算については11月8日の選挙で選出される新たな議会で審議されることになります。米国議会はまた、2011年の9.11同時多発テロに関連して犠牲者遺族がサウジアラビア政府を提訴することを認める法案を可決しました。本法案では、オバマ政権下で大統領の拒否権が初めて覆されました。9月28日には、世界の産油量の40%を占めるOPECが減産する見通しであるとの報道を受け、石油およびエネルギー関連銘柄の株価が急騰(いずれも4%以上上昇)しました。しかし、今回の合意は、原油価格を下支えする方法について11月の次回OPEC会合で協議することで合意したにすぎません。それまでに、サウジアラビアとイランは生産量をめぐっての交渉をまとめる必要があります。Harvard University基金は2016年6月までの1年間で2.0%減(2009年以来の低パフォーマンス)の357億ドルとなり、同期間のS&P500のトータルリターンである4.0%を大きく下回りました。それでも、2.0%減は大学基金の平均(2.7%減)よりは高いパフォーマンスですが、大学以外の人材を招く潮時ではないでしょうか。
利回り、金利、コモディティは引き続き活発な動きを見せました。米国10年国債の利回りは8月末の1.58%から上昇(価格は下落)して1.60%で9月の取引を終えました(2015年末は2.27%、2014年末は2.17%)。30年国債の利回りは2.32%と、8月末の2.23%から上昇しました(同3.02%、同2.75%)。外国為替市場は活発な動きを見せ、ユーロは8月末の1ユーロ=1.1159ドルから1.1240ドルに上昇して9月を終えました(2015年末は1.0861ドル)。英ポンドは8月末の1ポンド=1.3143ドルから9月末は1.2976ドルに下落しました(同1.4776ドル)。円はドルに対して8月末の103.31円から上昇して101.34円で月を終えました(同120.66円)。人民元は1ドルに対して8月末の6.6791元から9月末は6.6711元に上昇しました(同6.4931元)。金価格は8月末の1,312.00ドルから9月末は1,318.80ドルに上昇しました(2015年末は1,060.50ドル、2014年末は1,183.20ドル)。原油価格は足元の需給状況やOPECによる増産凍結観測を受けて大きく変動しましたが、最終的には8月末の1バレル44.82ドルから48.05ドルに上昇して9月を終えました(同37.04ドル、同53.27ドル)。米国内のガソリン価格はわずかに下落し、8月末の1ガロン2.237ドルから9月末は2.224ドルに下落して月の取引を終えました(同2.034ドル、同2.299ドル)。VIX恐怖指数は8月末の13.42から9月末は13.29に低下しました(2015年末は18.21)。
9月は年間で最もパフォーマンスが低調な月ですが、今年のS&P500は経済面、金融面、政治面でのイベントの影響で激しく変動しました。しかし、少なくともVIX指数を見る限り「市場に恐怖感はなく」、同指数は月内に一時18.14まで上昇しましたが、最終的には8月末の13.42からわずかに低下して13.29で9月を終え、月間平均でも14.18でした。投資家が乱高下に慣れたのか、それとも夏の薄商いから目が覚めていないだけなのかは分かりませんが、いずれにしても、市場は10月の「惨敗相場」を前に9月を乗り切りました。
9月のS&P500は0.1234%下落し、5カ月続いた上昇(累計で12.49%上昇)から8月の0.1219%下落に続いて2カ月連続の下落となりました(配当込みのトータルリターンはプラス0.2%)。年初来では6.08%(同7.84%)、年換算では8.18%(同10.57%)上昇となっており、足元のリターンに市場は概ね満足していると思われます(第4四半期を残すのみと考えるとなおさらです)。同指数は8月末の2,170.95ポイント、7月末の2,173.30ポイントから下落して2,168.27ポイントで9月の取引を終えましたが、昨年末の2,043.94ポイントは依然として上回っています。これは、8月15日に付けた終値での過去最高値2,190.15ポイントを1.00%下回る水準です(ウォール街は夢の街なのです)。
9月は、11セクター中(9月に不動産セクターが11番目のセクターとして追加されました)で月間騰落率がプラスとなったのはわずか3セクターにとどまり、8月の4セクター、7月の7セクターを下回りました。エネルギーセクターは2.95%上昇して月間騰落率がトップとなりました。9月末にアルジェリアで開かれたOPEC会合で、11月のウィーンでの次回会合で最終合意をまとめることで合意したことが減産への第一歩と捉えられました。同セクターの年初来リターンは16.04%で、これも全セクターの中で最高のパフォーマンスですが、2014年末の終値と比べると依然として11.25%安の水準にあり、セクターとして最も低いパフォーマンスです。情報技術セクターも好調で、9月は2.40%上昇、第3四半期ではS&P500の3.31%上昇に対して12.44%という力強い上昇となりました。年初来リターンは11.12%となりました。8月の月間騰落率が3.57%でトップだった金融セクターは、世界的な銀行問題が浮上したことで9月は2.87%下落し、最も低いセクターパフォーマンスとなりました。年初来リターンはマイナス0.28%となり、セクターとしては唯一のマイナスとなりました。新たに設定された不動産セクターは9月に1.18%下落しましたが、年初来では5.57%とプラスのリターンを維持しています。
9月は値上がり銘柄より値下がり銘柄の方が多く(8月に続き)、S&P500構成企業のうち、値上がりは233銘柄(平均上昇率は3.61%)と8月の243銘柄から減少し、一方で値下がり銘柄は270銘柄(平均下落率は3.35%)と8月の262銘柄から増加しました。10%以上上昇した銘柄が12銘柄だった一方(平均上昇率は15.40%、8月は31銘柄)、10銘柄が10%以上下落しました(平均下落率は13.52%、8月は19銘柄)。また、2銘柄が25%以上の上昇を記録した一方(8月は1銘柄)、25%以上下落した銘柄はありませんでした(7月と8月もゼロ)。年初来でみると、差は縮小していますが、依然として値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回っています。値上りした銘柄は341銘柄で(8月は355銘柄)、229銘柄が10%以上上昇している一方(同242銘柄)、値下がりした銘柄は162銘柄(同148銘柄)、うち70銘柄が10%以上下落しています(同64銘柄から増加)。
9月に続き10月もイベントが多く、S&P500構成企業の70%以上が第3四半期決算、第4四半期の最新見通し、2017年に向けた事業計画(および業績予想)の概要を発表する見通しです。さらに政治も盛り上がりに花を添え、11月8日の投票日を前に選挙キャンペーンは最高潮に達するでしょう。選挙では大統領だけでなく、下院議員と一部の上院議員も選出されます。選挙見通しが変われば市場は即座に反応し、投資先の見直しが行われるとみられます。
S&Pダウ・ジョーンズは9月にS&P500構成銘柄を6銘柄変更しました。美容製品メーカーのCoty(COTY)、医療用レンズを手掛けるCooper Companies(COO)、精密医療機器を製造するMettler-Toled○International(MTD)を組み入れた一方で、海洋掘削企業のDiamond Offshore Drilling(DO)、ビル管理システム大手のJohnson Controls(JCI、旧Johnson ControlsはTyc○International(TYC)に買収され、Johnson Controlsが新社名となった)、ホテルチェーン大手のStarwood Hotels & Resorts Worldwide(HOT)を同指数から除外しました。
投資家が押さえておくべきポイント
9月の重要なポイントは以下の通りです。
→各国中央銀行によるポーカーゲームが続きましたが、今月は大半の中央銀行がドローしませんでした(すなわち、政策を変更しませんでした)。
○ECB、イングランド銀行(利下げを示唆)、日銀(政策金利をマイナス0.1%に据え置き)、オーストラリア準備銀行(年内の政策据え置きを示唆)、スイス国立銀行(政策金利をマイナス0.75%に据え置き)、FRB(FOMCは利上げに向けた態勢にあるようですが、引き金を引くことはありませんでした)は政策を据え置きました。
○ロシア連邦中央銀行は政策金利を0.5%引き下げ、10.00%としました。
○FRBのイエレン議長は議会証言で、中小の金融機関の規制負担を軽減する必要があると述べる一方、FRBは一部の大手銀行に対する資本要件の強化を計画していることを明らかにしました。
○中央銀行にとって、銀行の問題が深刻化しています。
●ドイツ政府はDeutsche Bankに対して公的支援は行わないことを明言しましたが、支援が行われるとの憶測は消えておらず、リーマン・ブラザーズとの比較が取り沙汰されています。
●Commerzbankは配当を停止し、9,600人の人員削減を発表する一方で、社内業務のデジタル化のために新たに2,300人を雇用すると発表しました。
→住宅市場は概ね緩やかな拡大が続き、引き続き米国景気の主な原動力となっています。
○9月のNAHB住宅市場指数は予想を大幅に上回り、2015年以来の高水準を付けました。S&Pケース・シラー住宅価格指数は前年同月比5.0%上昇したものの、前月の同5.1%上昇から伸びが鈍化した一方、新築住宅販売件数は力強い内容となりました。
○しかし、中古住宅販売件数(前年同月比1.6%増)、住宅着工件数、着工許可件数は予想を下回りました。
→不正関連のニュース(またの名を「あなた方国民にはあまり話したくありません.永遠に」)としては、
○Facebook が、過去2年間にわたり動画広告の視聴時間を「誤って」過度に測定していたことを明らかにしました。Wells Farg○は顧客口座の不正開設が明らかとなり、米議会公聴会に証言のため召喚されました。同様に、アナフィラキシー補助治療薬エピペンを製造するMylanも米議会に召喚されています。また、YAHOO!がハッカー攻撃を受けたことが明らかになっており、同様に議会で説明を求められる可能性があります。
→ワシントンでは、次のような出来事もありました。
○クリントン氏、トランプ氏ともに自らの主張を曲げず、第1回のテレビ討論会が両者の間で更なる議論の応酬を生んでいます。 市場では依然としてクリントン氏の勝利が予想されているため、資産配分見直しの動きは生じていません。
○米議会は12月9日までの政府機関の予算を確保する暫定予算案を可決しましたが、その時点で、11月8日の選挙結果を受けて新たな構成とな議会を踏まえての審議が必要となります(従って、問題はまだ何も解決していません)。
○議会はオバマ大統領の拒否権を覆し、2011年の同時多発テロに関連して犠牲者遺族がサウジアラビア政府を提訴することを認める法案を可決しました(この決定は法科大学院の入学志願者の増加を後押しするはずです)。なお、拒否権が覆されたのは、オバマ政権では初めてのことです。
→S&P500は9月に0.12%下落し(配当を含めたトータルリターンはプラス0.02%)、過去3カ月では3.31%の上昇(同プラス3.85%)、年初来では6.08%の上昇(同プラス7.84%)、過去1年間では12.93%の上昇(同プラス15.43%)となっています。
○情報技術セクターのパフォーマンスが好調です。同セクターは第3四半期に12.44%上昇し、年初来では11.12%の上昇となっています。
●第3四半期にAppleは18.3%(年初来では7.4%)、Alphabetは14.3%(同3.3%)、Intelは15.1%(同9.6%)、Microsoftは12.6%(同3.8%)、それぞれ上昇しています。
→M&Aが活発化し(MonsantoとBayer、EnbridgeとSpectra Energy)、M&Aにつながる可能性のある動きや(Bill Ackerman氏がMexican Grilの株式を取得)やM&Aを検討し始める企業(Salesforce.com、Disney、MicrosoftがTwitterの買収を検討)も増えています。また、ViacomとCBSの間では、かつての親会社であるViacomがかつての子会社のCBSに吸収される形で10年ぶりに再統合される可能性が浮上しています。
→石油銘柄とエネルギー銘柄は9月28日に、OPEC(世界の原油生産の40%を占める)が減産を行う見通しであるとの報道を受けて、ともに4%以上の急騰を演じました。しかし、今回の合意は原油価格を下支えする方法について11月の次回OPEC会合で協議することに合意したに過ぎません。それまでにサウジアラビアとイランは生産量をめぐる交渉をまとめる必要があります。
○IEAは月次報告で世界の石油需要見通しを下方修正し、2016年は日量10万バレル引き下げて前年比130万バレル増、2017年についても同20万バレル引き下げて(2016年の伸びを下回る)同120万バレル増としました。
→FedExは航空貨物運賃を3.9%、陸上運賃を4.9%値上げすると発表し、同業のUPSも4.9%の運賃値上げを発表しています。
○Amazon.comは配送事業で両社に対抗する動きに出ています。
○小売店はAmazon(そして、Amazon Prime)とのオンライン販売での競争に伴い無料配送に取り組んでおり、コストを吸収することを強いられる可能性があります。
→9月の市場では「世界に関心が向けられました」。すなわち、米国にはあまり関心が向けられませんでした。
○世界の株式市場は9月月初来で(1営業日を残して)0.39%上昇しています。米国市場は0.78%下落しており、米国を除けば世界の株式市場は1.63%上昇したことになります。
●しかし、市場の基調は1カ月だけでは判断できません(FRBのイエレン議長が、「1つの経済指標から利上げは判断できない」と言っているように)。過去1年間では米国市場の11.66%の上昇がS&Pグローバル総合指数の上昇率を9.88%に押し上げており、米国を除けば同期間のS&Pグローバル総合指数の上昇率は8.03%となっています。
→S&P Dow Jones Indicesは不動産銘柄を金融セクターから分離して新たに不動産セクターとし、世界産業分類基準(GICS)に基づく11番目のセクターを創設しました。
○S&P500不動産セクター28銘柄の配当利回りは3.2%ですが、どの銘柄の配当もキャピタルゲイン税と同じ税率が課される適格配当ではありません。金利が上昇した場合、不動産銘柄は高い債務比率を背景にコストが増加することになります。一方、残された64銘柄からなる金融セクターの配当利回りは2.2%から2.0%に低下しましたが、大半の銘柄で配当は適格配当とされています。また、金利の上昇から大きな恩恵を受ける位置にあり、金利が上昇した場合には利益率の上昇が見込まれます。
→その他の注目材料は以下の通りです。
○2016年第2四半期のS&P500指数構成企業による自社株買い戻しは前期比21%減少しましたが、これは第1四半期の株価の下支えを目的とした、企業による自社株買い戻しの拡大からの反動であるとみられます。
○第2四半期にS&P500資本財・サービスセクター銘柄(旧態依然とした企業)の現金および現金同等物は、前四半期に記録した1兆3,480億ドルの過去最高を更新し、1兆3,740億ドルとなっています。
○8月の米自動車販売台数は前年同月比4.2%減となり、ディーラーへの販売奨励金が増加しました。販売台数は歴史的に見て依然として高水準にあるものの、減少傾向となっています。
○8月の非農業部門雇用者数は予想を下回り(予想の17万5,000人増に対して15万1,000人増)、週平均労働時間も前月から減少しました。ただし、7月のJOLTSでは求人件数が587万件と過去最高を記録しています。マイナス材料として、Caterpillarがさらにベルギーで2,000人の人員削減を検討していることを明らかにし(これで同社の予定人員削減数は合計1万2,000人となりました)、Wal-Martは事務職で7,000人の人員削減を行う計画を発表しました。また、Ericssonはスェーデン国内最後の工場の閉鎖に伴い1,300人の人員を削減すると発表し、Ciscoはメキシコでの生産拡大のため、2018年末までに40億ドルの投資を行うことを明らかにしました(米国での雇用に悪影響が出ます)。
○FRBの会合:11月1-2日、12月13-14日※(米国大統領選挙の投票日は11月8日)、2017年1月31日-2月1日、3月14-15日※、5月2-3日、6月13-14日※、7月25-26日、9月19-20日※、10月31日-11月1日、12月12-13日※、2018年1月30-31日。※議長の記者会見が通常、米東部時間午後2時30分に行われます。また、四半期毎の経済見通しの改定が2時に発表されます。
→そして、決算発表シーズンが近づいています。米企業の決算スケジュールは、木曜日に決算が集中する従来の伝統に変わりはないようです。最近の決算シーズンでは全決算発表の38%が木曜日に行われたことが示されています。今年の第3四半期決算は36%が木曜日に予定されており、そのうち23%が取引開始前、13%が取引終了後に行われる予定となっています(いわゆる「花金」に新しい意味が生まれています)。
10月のフューチャー・ショック:
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・
インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
本翻訳は、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。
SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはこちらをご参照ください。
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