マイナス金利政策によるデフレスパイラル

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最新投稿日時:2016/05/16 13:21 - 「マイナス金利政策によるデフレスパイラル」(みんかぶ株式コラム)

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マイナス金利政策によるデフレスパイラル

著者:矢口 新
投稿:2016/05/16 13:21

私は主要各国によるデフレ対策としての超低金利政策が、かえってデフレを進展させていると睨んでいる。また、主要国で最も強い経済の米国が超低金利政策を採り続けていることが、欧州主要国、そして日本にマイナス金利政策を強いることになっていると見なしている。日欧がデフレスパイラルから抜け出すには、「減税」しかないと、私は見ている。

米国の金融緩和政策が最も効果を持っていた時期は、緩和開始後4年経った2011年9月までだった。その後は、雇用市場が引き続き改善している一方で、インフレ率はむしろ低下してきている。
参照図01:米金融緩和の最大効果時期は2009年5月から2011年9月

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実は、米連銀は2011年中にも利上げすると見込まれていた。ところが、慎重にもう少し様子を見てからとしているうちに、インフレ率が低下し始め、商品市場や中国市場も懸念材料となってきたために、利上げ時期を遅らせ続けてきた。2015年12月になって、やっと8年3カ月ぶりに金融政策の方向を転換したものの、2016年3月には、イエレン米連銀議長から「状況次第ではマイナス金利政策もあり得る」と、緩和方向に再び戻る可能性を示唆する発言が飛びだした。
参照図02:米の利上げは4年以上ずれ込んだ

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米連銀が、慎重にもう少し様子を見てからとしているうちに、米景気の拡大期は7年目に突入した。第二次世界大戦後の平均拡大期が4年10カ月なので、どこかで息切れする懸念が出てきている。このことで利上げがますますし難くなったが、これが8年目、9年目と伸びていくと、利上げはさらにし難くなる。つまり、米連銀は自らが利上げを躊躇し過ぎたためのジレンマを抱えている。
参照図03:米景気の拡大期は7年目に突入する

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驚く人は少ないとは思うが、米経済の拡大ペースは主要国のなかで最も大きい。近年は中国やインドのペースが上回っているが、先進主要国の中では最も強い。

ちなみに、中国の政策金利は「1年物の貸出基準金利」で、2016年4月時点で4.35%、インドの政策金利「レポレート」は6.50%だ。

一方、米国の政策金利である「FFレート」は現在0.25%、2015年12月までは6年11カ月間0%だった。米1年国債の利回りを見ると、5月13日時点で0.52%となっている。

最も強い経済の政策金利がゼロ近辺に長期間張り付いていると、そこより弱い経済の政策金利はどうなるか? 欧州中銀や日銀のマイナス金利政策は、こうした事情を鑑みれば、「仕方がなかった」という理解もできなくはない。
参照図04:強い経済のほぼゼロ金利が、他国の政策金利をマイナスに追い込んだ

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世界の主要中銀の資金供給量はリーマンショック後に急拡大。以降は同時期の経済成長の7~8倍のペースで増えている。世界は空前のカネ余りとなっている。

金融緩和政策は英語で Easy Money Policy と呼ぶ。つまり、簡単に安く資金調達ができるようにする政策だ。金融機関はカネ余りで融資先を探し、低利での低収入を量で補おうとする。その結果、これまで融資先として不適格と見なしていた所にも貸出すようになる。同時に、信用力のない企業の債券発行ラッシュが起こり、米企業債全体の格付けをジャンク級(投資不適格)に引き下げた。
参照図05:ジャンク債の急増が、全体をジャンク級に引き下げた

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イージーマネーは過剰設備、過剰生産でデフレ環境を産んだ。例えば、米テキサス州では、2009年に天然ガス井が67井、原油井が40井あったが、2013年にはそれぞれ2400井、2500井、以上に急増した。もっとも、2014年後半以降リグ数は急減したが、コストの安い大油井を増産したために、生産量は高水準を維持したままだ。

また、競争力のない企業や、支援なしでは存続できないいわゆるゾンビ企業が生き残ることで、デフレ環境を助長した。

例えば、世界最大の船会社A.P.モラー・マースクの社長は、マイナス金利は船舶産業に必要不可欠な統合の動きを遅らせることで、業界に悪影響を与えていると述べた。現状の金融政策下では「統合はなかなか進まない。なぜなら、銀行は沈みかけの船会社を浮かせておけるからだ」と述べた。

また、デンマーク4月の消費者物価指数は前月比+0.1%、前年比横ばいと、2カ月連続で前年比の伸びがゼロとなった。マイナス金利政策を導入して約4年。金利を下げれば物価が上昇するという逆相関が完全に壊れ、むしろデフレを進展させる状況となっている。

サブプライムショックと、それに続くリーマンショックは、未曽有の金融危機と呼ばれたほどの大きな危機だった。米連銀は即座に対応し、空前規模の資金供給と、史上初めてのゼロ金利政策を導入した。しかし、明確な出口戦略を現在に至るも持たず、自国と世界の金融市場を極めて不安定にしている。

欧州中銀と日銀は対応が遅かったことを取り戻すためか、金融市場の機能を否定するマイナス金利政策を導入した。それにも関わらず、共に財政は引き締め気味で、経済成長を望んでいるのか、減速させたいのか、整合性が保てない状態だ。マイナス金利と増税は、共にデフレを助長する政策なので、インフレ目標は為替レートだけに頼ることになっている。

また、マイナス金利政策では、金融市場と金融機関の安定は望めず、金融機関は過剰なリスクを取り始めている。金融機関のリスクで、ゾンビ企業が生き永らえ、健全な企業のシェアと利益を奪っている。そうしながら、米企業債全体の格付けがジャンク級に低下したように、世界的に経済全体が傷んできている。個人所得は伸びず、失業率は高い。

そのことを世界中の人々が匂い始めている。私には、安倍政権への支持も、米大統領選を戦っているトランプ氏への支持も、根は余り変わらないと見ている。他への失望が強すぎて、「まだまし」的な支持なのだ。世界経済は深刻な危機の一歩手前まで来ている。余っているはずのカネの偏在が著し過ぎるのだ。

日本政府が、次の危機を未然に防ぐには、減税によって、個人消費拡大に賭けてみるしかないと、私は見ている。

配信元: みんかぶ株式コラム

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