フィリピン新展望‐製造業発展戦略は可能か‐

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最新投稿日時:2015/11/02 11:30 - 「フィリピン新展望‐製造業発展戦略は可能か‐」(みんかぶ株式コラム)

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フィリピン新展望‐製造業発展戦略は可能か‐

著者:叶 芳和
投稿:2015/11/02 11:30

フィリピンはASEAN随一の高成長国になっている。海外出稼ぎ労働者からの送金、生産年齢人口の増加などが要因だ。しかし、それだけいい条件があるのに、なぜ10%成長できないのか。製造業が未発達なことに示されるように、「オランダ病」に陥っているのではないか。
フィリピンは日本の準同盟国になりつつあり、今後の発展が期待されるが、課題は多い。社会改革が必要だ。人口1億人を背景に、海外からの直接投資受入れを促進することが起爆力になろう。10月初旬、フィリピン訪問。

Ⅰ. なぜ10%成長できないのか

1、ASEANの中で一番の高成長

 フィリピン経済は近年、好調である。2012年以降の経済成長率はASEAN諸国の中でも一番高い。表1に示すように、2012年以降、6.7%、7.1%、6.1%、6.0%と推移している。GDPの約1割に達する海外就労者(OFW)の送金に支えられた個人消費が成長の牽引力になっている。

 しかし、1960~80年代の長期停滞の影響で、1人当たりGDPは約3000㌦とまだ低い。タイの半分、マレーシアの3分の1、インドネシアより低い。
 経済指標を他のASEAN諸国と比較すると、フィリピンは輸出額が著しく低い。また、直接投資受入額も少ない(表2)。この両者は表裏一体であるが、フィリピン社会の本質的問題から現象しているとみられる(詳しくは後述)。

★表1 フィリピンの経済成長率

★表2 ASEAN諸国の経済比較

 現地でヒヤリングすると、人口が1億人に達したこと、生産年齢人口の高い伸び率、若い労働力の豊富さが強調される。そして、他のASEAN諸国が成長減速する中で、OFWの送金もあり、フィリピンだけが減速していないことが強調される。しかし、筆者からすれば、そんなにいい条件を持っているのに、なぜ10%成長できないのか、という疑問がある。日本経済は1960年代、10%成長が続いた。中国は2000年代初頭、10%成長が続いた。なぜフィリピンは10%成長できないのか。本稿ではこの疑問に答えを出したい。

2、GDPの1割を占める海外出稼ぎ労働者からの送金

 フィリピン経済の基底には3つの要因があるように思われる。海外出稼ぎ労働者、人口ボーナス、大土地所有制及び財閥支配の3つである。

 表3は、フィリピンの国際収支と在外フィリピン人就労者(Overseas Filipino Workers、OFW)からの送金額である。国際収支表によると、2014年の第2次所得収支は232億㌦の大幅黒字であるが、これはほとんどがOFWからの送金である。GDPの1割近く(8~9%)を占める。

 フィリピンは輸出が少なく、貿易収支は恒常的に赤字であるが、それをサービス収支と所得収支でオフセットし、経常収支は黒字を確保している。中でも第2次所得収支の黒字が貢献している。

★表3 フィリピンの国際収支とOFWからの送金

 フィリピンは、全人口の約1割が海外在住と言われている(ストックベース。半分は海外移住者、半分は海外就労者)。大統領府在外フィリピン人委員会によると、全人口の10.9%に相当する1049万人が国外に居住している(2012年末)。OFWが最も多い国は米国であるが、1970年代以降はオイルマネーに沸く中近東への進出が増え、80年代以降はアジア諸国での就労も増えている。

 フローベースで見ると、2013年に海外で雇用契約を結んだOFWは224万人に達する。これとは別に移民がいるが、これは8万人に過ぎず、海外に渡った人の多くは出稼ぎが目的である。OFWの行先は中東の産油国、シンガポールや香港、マレーシア等アジアの比較的所得水準の高い国である。

 なお、似ているが、フィリピンはBPO(Business Process Outsourcing)によるサービス輸出が強い。国民の英語能力が高く、大学卒業生も多く、加えて先進国に比べ人件費が安いため、コールセンターなどBPOのアウトソース先として有望視されている。このBPOがサービス収支の黒字を支える一要因になっている。海外に出稼ぎに行くのではなく、国内雇用であるが、モノの輸出ではなくして外貨を稼いでいる点、OFWの送金に似ている。

◇頭脳流出
 OFWのもう一つの傾向は、高学歴化と専門化である。医師、看護師、エンジニア、船員、秘書など専門技術を持つ高給取り職種が増えている。230億㌦のOFW送金の半分以上は専門職が多いと思われる米国やカナダからの送金である。

 このOFWからの送金は、主に食料・衣服などの生活必需品や家電・耐久財の購入や教育費、医療費などに使われている。フィリピン経済は、リーマンショック後も景気が底堅い動きを示しているが、それはOFWに支えられた個人消費が堅調だったからである。

 しかし、功罪はある。高学歴人材の海外流出は、フィリピン国内の人的資本の蓄積を妨げている。高収入を求めて海外へ出られると、国内のハイテク産業で働く専門家の不足や、医師・看護師の流出は医療サービスに支障が出るというデメリットも懸念される。

3、ペソ高と製造業の輸出競争力の抑制(オランダ病)

 巨額のOFW送金のもう一つの問題は、ペソ高の誘因になっていることであろう。表3に示したように、OFWからの送金のお陰で、フィリピンの国際収支は大幅黒字が続いている。その結果、表4に示すように、フィリピン・ペソは上昇が続いている。実質実効為替レートの推移で見ると(BIS推計)、フィリピン・ペソはこの10年間で49%も上昇した。ASEAN5の中では一番の通貨上昇である。ちなみに、主要国の中で一番通貨上昇した国は中国(10年で56%上昇)、一番通貨安の国は日本である(33%安)。

★表4 実質実効為替レートの推移

 もちろん、ペソ高は物価の安定に寄与し、消費拡大に寄与するなど良い効果をもたらしている。しかし、一方で、この為替レートは製造業の輸出とは無関係に決まっている。先に述べたように、フィリピンは輸出が少なく貿易収支は赤字であるが、OFWの送金で経常収支の大幅黒字が続いている。その結果としてのペソ高である。

 産業構造を見ると、製造業の未発達がフィリピンの特徴である。GDPに占める製造業の割合は、タイ28%、マレーシア24%、インドネシア24%、フィリピンは20%である(表5)。就業者ベースで見ると、フィリピンの場合、製造業の割合はわずか8%である。この点、アジアの新興成長国家の中で、フィリピンは異彩を放っている。これは、製造業の多くのセクターが輸出できない高い水準に為替相場が決まっているため、輸出による成長が抑制されているからではないか。

 製造業の生産性が低いから輸出できないのではない。表5に示すように、フィリピンの製造業の比較生産性は高い。全産業平均の2.5倍も高く、他のASEAN諸国よりも製造業の比較生産性は高い。にもかかわらず、輸出が出来ないのは為替レートが割高になっているからではないか。フィリピンにおいて製造業は比較優位であっても、一部の生産性が著しく高い製造業しか輸出できない。一種の「オランダ病」である。

 オランダ病とは、天然資源の輸出により製造業が衰退し失業率が高まる現象を云う。天然資源の輸出で大きな貿易黒字を得ると自国の通貨高を招き、工業製品の輸出は国際競争力を失う。そのため製造業が衰退し、そこで働いていた人々は失業者になっていく。オランダは1970年代にこの現象に見舞われた。1960年頃から天然ガスを産出するようになっていたが、1973年の石油危機に伴うエネルギー価格高騰で天然ガス売却収入が増大し、通貨ギルダーが上昇、工業製品の国際競争力が急速に落ちたことから経済が悪化した。

★表5 産業構造の比較


◇割高な為替レートは60年代の輸入代替発展戦略の失敗に相似
 フィリピンは、天然資源の輸出ではないが、人的資源の輸出(OFW送金及びBPOサービス)で通貨ペソが上昇し、製造業の輸出競争力が抑制されている側面がある。一種のオランダ病と見なしていいのではないか。

 製造業の雇用が伸びないので、雇用環境が改善しない。国内に雇用の場がないので、海外に出稼ぎに行く。その出稼ぎ収入の送金がぺソ高をもたらし、それが製造業の輸出を抑えてしまう。悪循環である。

 経済発展の“ドライビングフォース”は製造業である。アジア諸国を見ても、発展途上国から中進国に発展する過程では、ほとんどの国で製造業の輸出が経済発展の駆動力であり、牽引力になっている。フィリピンはそれがないのである。10%成長の軌道に乗れないのは、OFW送金に由来する通貨ペソの割高な為替レートに要因があるのではないか。
 ペソ高が製造業の輸出を抑制しており、経済発展のドライビングフォースの形成を妨げている。これが10%成長を妨げているのではないか。これが筆者の仮説である。

 通貨ペソの割高な為替相場が経済発展の足を引っ張っていると考えたとき、筆者は1960年代の「輸入代替工業化戦略」の失敗を思い出す。輸入品を国産化することで工業化を図ったが、部品や設備を日本等からの輸入に依存していたため、部品・原材料を安く入手するため割高な為替レートを設定した。その結果、今度は輸出が打撃を受け、国際収支が赤字になり、経済が悪化し、80年代は「アジアの病人」と揶揄されるようになった(もちろん、輸入工業化戦略は輸入抑制が大前提であり、その失敗は割高な為替レート以外の要因もある)。(注)

(注)第2次大戦の直後、フィリピンはアジアの「先進国」と言われた。戦前は米国の植民地下で議会制民主主義の導入があり、またプランテーション方式の商業的農業(輸出向け)が発達し富を蓄積したので、1950年代は日本より所得水準が高かった。しかし、発展戦略の失敗(輸入代替工業化戦略)、それに続くマルコス政権の腐敗で経済が停滞し、80年代は「アジアの病人」と揶揄された。
 「アジアの先進国」から、「アジアの病人」へ急転落である。表1の下段に示すように、1960年代~80年代の1人当たり実質GDPの伸び率は小さい。しかし、90年代中葉から、再び高成長が始まった。ラモス政権(1992~98年)の時代に市場活用型の経済政策に転換し、外資導入や民営化が経済成長を創り出した。(拙著『走るアジア遅れる日本』第6章、日本評論社2001年参照)。

4、人口ボーナスは発現しているか?

◇人口ボーナスの定義
 フィリピンは、生産年齢人口の伸び率が高い。15~64歳人口は2010年から2050にかけて1.7倍になる。ASEAN随一の増加率である(表6参照)。人口1億、そして若い労働力が豊富であるから、工業発展、経済発展が期待できるとされる。現地でヒヤリングすると、「人口ボーナス」としてこの点が強調される。

 確かに、表7に見るように、生産年齢人口は、タイは早くもピークアウトし、ベトナムやミャンマーの増加率も緩やかである。これに対し、フィリピンの生産年齢人口は増加を続け、2050年には9878万人に達し、労働力の豊富さではインドネシアに次ぐ存在だ。日本の労働力の約2倍の規模である。

 しかし、「人口ボーナス」と言う概念は、少し違うのではないか。通常、「人口ボーナス」とは、生産年齢人口(15~64歳)が多く、被扶養人口(子供+老人)が少ない人口構成の状態を指す。子供の扶養が減り、高齢人口の割合が高い水準に達する前、つまり、労働力資源が豊富で扶養負担が軽く、そして貯蓄率が高まる、経済発展に有利な時期を言う。(ちなみに、0~14歳+65歳以上を「従属人口」という)。しかし、フィリピンは出生率が高く、まだ子供の扶養が多い。

 通常、人口ボーナスは一国の出生率が急速に低下し高齢化が進む過程で現われる(ただし高齢人口の割合が高い水準に達する前)。そして、生産年齢人口がそれ以外の人口(従属人口)の2倍以上になる状態を指す(従属人口指数の逆数で2.0以上、つまり従属人口指数が50を切った期間を人口ボーナス期と言う)。(注、従属人口指数が低下し始めた時点を人口ボーナス期の始点とする議論もある)。

 フィリピンは、学会で使われている「人口ボーナス期」に達しているだろうか。表6に見るように、従属人口指数が50を切ったとき、あるいは逆に人口ボーナス指数が2倍以上になったときと言う定義からすれば、まだ人口ボーナスは発現していない。従属人口指数は57.6(50を切っていない)、人口ボーナス指数は1.7倍(2倍になっていない)の段階である。ただし、従属人口指数が低下し始めたときとすれば、入り口に達していると言えよう(従属人口指数は2000年71.6、2010年60.7、2015年57.6と低下)

★表6 フィリピンの人口構造

★表7 生産年齢人口(15~64歳)の将来推移(各国比較)

 フィリピンは出生率が高い。アジア諸国は出生率が急速に低下しているが、フィリピンの合計特殊出生率は2010~15年でも3.04の高さにある。そのため、14歳未満の被扶養人口が多いのが特徴である。労働力人口よりも、養われる人口の方が多い(従属人口指数は2015年現在57.6の高い水準にある)。働く人より、消費する人の方が多いのである。貯蓄率が高まる状況になく、資本蓄積に限界があるのではないか。これでは高成長は出来ない。

 そもそも、生産年齢人口の増加がASEAN随一であるにもかかわらず、「人口ボーナス」はまだ本格化していないのである。

◇東アジアの成長要因は人口ボーナスより直接投資
 筆者は、もともと、人口ボーナス論そのものに批判的である(注)。東アジア諸国の雁行形態的テイクオフは、繊維の東レ、帝人、電機の松下、三洋、日立、東芝、日本電気、自動車のトヨタ、日産、本田技研、等々、日本の企業が資本も技術もマネージメント能力も束ねて現地に経営資源を移転(直接投資)した成果である。「直接投資+輸出」が東アジア型経済成長のメカニズムであり、アジア新興諸国は直接投資受入れが起爆剤となって成長してきた。
 直接投資の呼び込みに成功した国が次々とテイクオフしたわけであるが、直接投資はHuman capital(人的資本)の蓄積が厚い国に来る。人口ボーナス期を迎えているかどうかに関係なく、治安が安定し、ヒューマン・キャピタルが豊富にあれば、外資が直接投資で進出した。現地生産は輸出に向けられ、輸出主導型の経済成長が始まったのである。
(注)拙稿「ミャンマーの人的資源の展望」『日本経済大学大学院紀要』Vol2,No2(2014年3月)参照。

Ⅱ.社会改革と製造業発展戦略

1、新段階の内需志向型工業化シナリオ

◇人口の変化 1960年2600万人⇒2015年1億人

 フィリピンは、人口が1億人を突破した。これは豊富な労働力の存在を意味するだけではなく、消費市場の巨大さを物語っている。輸入代替、国産化による工業化戦略の誘惑が出てくる。しかし、ASEANは市場統合に向かっている。共通市場になれば、ペソ高の下、消費財は近隣諸国から流れ込んでくる。ASEAN の市場統合とペソ高は、フィリピンの製造業にとって前門の虎、後門の狼であり、内需志向型工業化も、輸出志向型工業化も、壁がある。1960年代の輸入代替工業化戦略の失敗の二の舞は避けたい。

 しかし、60年代との違いがある。国内市場の大きさが決定的に違う。人口規模は1960年2627万人、65年3091万人である。現在は1億人である(2015年)。人口3000万程度では量産型の近代産業は成立困難であるが、1億人になれば技術的には容易になる。

 一方、1人当たり実質国民所得も1960年に比べ、約2倍に上昇している。つまり、1960年に比べ、人口3倍、所得水準2倍であるから、消費市場は6倍に拡大し、しかも巨大である。60年代の工業化模索の時代とは大きな違いがある。もちろん、ASEAN市場統合という国産化マイナス要因はあるが、これだけ大きなマーケットが存在すると、「消費地立地」志向型の直接投資が出てくる可能性は大きい。

 「人口1億人」という新時代が、企業家のビジョンを刺激する。筆者は内需志向型起業の可能性を予測したい。1億人の巨大市場をすべて外から供給することは「現地生産、現地消費」の潮流に合わない。市場規模が小さい時、ASEANの一角で生産しフィリピンに輸出していた企業の中から、「人口1億人市場」に着目して、フィリピン国内生産を目指す企業が出てくるであろう。

◇外資の消費地立地への転換可能性

 フィリピンは外資の進出が少ない。表8に示すように、対内直接投資が著しく少ない。ストックで見ると、工業化で先行するタイ、マレーシアはGDP100㌦当たり40~50㌦の直接投資があるが、フィリピンは20ドルに過ぎない。人口1人当たりで見ても、わずか576㌦に過ぎず、極めて低い。ベトナムより少ない。多くの先発ASEAN諸国が外資を呼び込んで経済発展を遂げたのであるが、フィリピンはその点、遅れている。特に製造業への直接投資が少ない。

★表8 対内直接投資の比較

 直接投資は経済成長の一番の源泉である。したがって、各国が直接投資の受け入れを競っているのであるが、フィリピンはその競争に敗れてきたのだ。政治の不安定、汚職や治安の悪さから、投資先としての評価が低かったからだ(フィリピン自身が資本自由化を十分に進めていないこともある)。しかし、この数年、フィリピンの政治に対する評価が好転しており、それを背景に、フローベースで見ると直接投資が増加傾向にある。

 このまま政治の安定が続き、一方、人口1億人の巨大市場に外資が着目するとき、消費地立地型の直接投資が増える可能性がある。もちろん、その大前提は外資に対する規制緩和が必要だ。

 経済成長のドライビングフォースは製造業である。高い失業率を改善するのも雇用吸収力の大きい製造業の発展である。つまり、賢明な国家指導者なら、製造業を発展させる道を考えるだろう。

2、自由化をテコにした社会改革

 フィリピンでは、財閥や大土地所有者が支配層を形成し、大企業を所有しているのも彼らである。彼らは外資を歓迎しない。外資が新規参入すれば、自らの独占を脅かされるからである。そうであるなら、上述のシナリオは実現しない。

 しかし、世界の流れは、経済の国境を破る方向に動いている。TPP然り、中国が参加するRCEP然りである。国内の既得権益層の思い通りにはいかない方向に世界の潮流はある。

 自由化が進み、外資が入ってくれば、国内の既存企業と競争する。通常、外資は保護貿易で守られてきた国内の独占企業より効率的で競争力があるから、既成勢力の力を削減していく。この経済メカニズムで財閥・大土地所有層による支配からの脱却の道が開けてくるのではないか。富の分配が修正されれば、所得格差が是正に向かい、庶民はもう少し豊かになろう。工業化のための消費市場を用意することになる。

  自由化・規制緩和→直接投資(FDI)外資参入→既成勢力の力削減∥経済メカニズムによる社会改革(富の分配変更)→国民の豊かさ向上→消費市場拡大→消費地立地型外資進出∥製造業発展→雇用創出→成長による貧困減少→消費市場拡大→外資参入→既成勢力の競争相手→・・・という良循環が生まれる。

 実はこの社会改革シナリオは、筆者が17年前、アジア通貨危機の直後(1998年)、フィリピンを訪問した時に描いたものである(注)。今回は10月初旬、TPP大筋合意がニュースになっていたとき訪問した。米国に近いはずのフィリピンがTPPに参加していないことに気付き、Why?と思ったものである。しかし、その瞬間、財閥や大土地所有者などの既成勢力が反対しているに違いないと思った(実際、そういう事らしい)。そこで、17年前の改革シナリオを思い出したのである(詳しくは拙著[2001年]参照)。
(注)拙著『走るアジア遅れる日本』日本評論社2001年、第6章参照。なお、本稿の初出は『日本経済研究センター会報 1999年1月15日号』、『貿易と関税』2000年4月号pp60~67である。

(つづく)

配信元: みんかぶ株式コラム

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