Q:これまで今年の相場を引っ張ってきた銀行株ですが、銀行株が今まで買われてきた要因についてはどう思われますか? またその要因について、今後は期待できないのでしょうか。
また、矢口先生は超インフレの懸念についてお話されていますが、超インフレになれば金融株はどうなってしまうのでしょうか? 資産を守るために株高に乗っていくには金融以外の株にするべきでしょうか?
メガバンク等は配当も良く優良株で、長期ホールドして信用の担保に当てている方も多いと思いますが、実は将来に大きなリスクを抱えている業種ということになるのでしょうか。
A:2014年末の世界のミューチュアルファンドの残高は約31兆3800億ドルとなりました。円貨にするには約120倍かけて下さい。うち株式ファンドが44%。国別では米国が総額の半分15兆8520億ドルを占めます。米国経済だけでなく、米国人投資家の動向が世界の株式市場に大きな影響を与えるのはそのためです。
参照:投資信託の世界統計
2014年第4四半期(10月~12月)
https://www.toushin.or.jp/statistics/world/
2012年第4四半期以降、米国ファンド内では概ね債券から株式への資金移動が見られるのですが、このところは株式ファンド内で、米株から他国株への資金移動が見られています。なかでも日本株は有望投資先の1つと見られています。
ここで、円安が進むと、日本企業への業績期待だけでなく、ドル建てでの円株比率が下がるため、買い増し予定額を増やすことになります。こういった個別要因を超えた日本買いに、時価総額の大きなメガバンクは外せません。インフレ政策で日本株全体が上げる時に、メガバンクが逆行することは考え難いのです。郵政の上場で頭を押さえられることがあっても、この点に関しては、今後もメガバンクは有望だと思います。
量的緩和のリスクを3つあげるとすれば、国の信用失墜のリスク、通貨の大量供給によるハイパーインフレ・リスク、市場を歪めるリスクかと思います。
ハイパーインフレとは、モノやサービスの値段が異常に上がることなのですが、生産力、供給力の強いものより、不足しがちなものが上がると考えるのが自然です。通常、緩和政策はモノやサービスの生産・供給力を高めますし、モノは海外からも供給されるので、日本一国の需要が満たせない懸念は小さいと思います。一方、日本株を供給できるのは日本市場に上場している企業だけです。ハイパーインフレになるのは、株価だけかもしれません。私が量的緩和というインフレ政策時に株式投資が最も有効なインフレヘッジの1つになると考えるのはそのためです。
つまり、信用失墜による円安、通貨の大量供給によるインフレになって困るのは、円のままで持っている人たちなので、外貨資産や株式でヘッジする必要があると考えています。市場を歪めるリスクが市場参加者に与える影響を小さいとは言いませんが、ここでは触れないでおきます。
銀行に関すると、アベノミクス、量的緩和のおかげで、メガバンクを含む銀行貸出がようやく増加基調となってきました。ところが、まだ一貫して預金量の増加の方が多いのです。つまり、カネ余りで貸出は増えてはいるものの、銀行内で眠っている資金はもっと増えています。しかも、貸出金利は異常に低利で、利ザヤはほとんど取れません。融資に次ぐ重要な運用先である債券投資は、インフレ政策の導入後に残高を減少させており、キャッシュが積み上がる状況となっています。これで大きなコストを支払い、それなりの利益を上げているのですから、良くも悪くもとんでもない業界です。
ここに、国の信用失墜のリスクと、通貨の大量供給によるハイパーインフレが起きればどうでしょうか? このリスクは所詮、当局の政策判断によるリスクでしかありません。ギリシャのように、八方ふさがりになる訳ではありません。多少の円安や、資産インフレが起きても、日本から大量の資金が流出するような危機となる可能性は低いと思います。つまり、インフレに対応して金利が上昇するというのが、現実的なリスクでしょう。
インフレリスクを背負うのは預金者で、銀行ではありません。銀行が量的緩和による国債価格の上昇、高止まりを一時的なものと見て、金利上昇に備え、国債投資を減らしているのは理に叶った運用方針です。銀行の本業は調達金利、運用金利の差額を取る利ザヤ・ビジネスです。長期固定の銀行融資では銀行の利益は減りますが、前述の通り、キャッシュを大量に抱えています。そこに市場金利が上昇すれば、新規貸出の利ザヤが拡大しますので、業績は上向くと考えていいでしょう。また、銀行は内外企業の大株主となっていますので、保有株式の上昇は、大きく収益増に貢献します。
超低金利は運用難の時代です。一難去ってまた一難。困難が続くとすれば、次に来るものは、調達難かもしれません。とんでもない業界である銀行は、これまでが最悪期で、それを脱しつつあるという見方も可能です。
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