電力供給の維持と安全確保のはざま?

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最新投稿日時:2015/05/11 10:58 - 「電力供給の維持と安全確保のはざま?」(みんかぶ株式コラム)

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電力供給の維持と安全確保のはざま?

著者:矢口 新
投稿:2015/05/11 10:58

・2030年度の電源構成

経産省は先日、2030年度の電源構成の原案を提出、再生可能エネルギーの導入比率を22~24%とし、うち太陽光を7%程度、風力を1.7%程度とした。地熱は1%程度、バイオマスは4%程度、水力は9%程度としている。また、原発依存度は20~22%程度、石炭は26%程度、LNG比率は27%程度とした。

経産省による2030年度の発電コストの試算では、大規模太陽光発電を1キロワット時当たり2011年試算の12.1~26.4円から12.7~15.5円に、陸上風力を8.8~17.3円から13.9~21.9円に変更した。

原子力は8.9円以上から10.1円以上に引き上げた。事故リスク対応費用が今後増える可能性があるとの判断から、原子力は前回と同様に、下限を示す形で試算を示した。福島第1原発の事故を受けて安全対策費用が増えたが、対策強化で事故の発生リスクが下がると見込んでコストに反映した。

これで上昇幅は小幅となり、他の電源と比較しても価格優位性を維持するとした。石炭火力は10.3円から12.9円に、LNG火力は10.9円から13.4円に、一般水力は10.6円から11.0円に、それぞれ前回試算より上昇させた。

経産省は15年後、再生エネの導入拡大に伴う電気代への上乗せ総額が3兆円を超え、4兆円に迫る可能性があるとみている。

原案では太陽光をある程度抑える一方、原子力の比率を20~22%とすることなどで発電や再生エネの安定受け入れなどに必要な費用の総額を今より2%以上減らし、電気料金の抑制につなげる考えだと言う。

参照:「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(案)」
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/008/pdf/008_06.pdf

・原発再稼働は電気料金の抑制につながるのか?

とはいえ、原子力の比率を20~22%とすることが、電気料金の抑制につながるという保証は全くない。だからこそ、原子力発電のコストを最低10.1円としながらも、上限は無限としている。

先日、政府は東京電力福島第一原子力発電所事故の賠償費用などの増加に伴って、同社に6348億円の資金援助を行うなどとする総合特別事業計画(再建計画)の見直しを認定した。見直しは7回目となる。

出荷制限や風評被害などの賠償や除染費用が膨らんで、昨年8月時点で約5兆4214億円だった賠償額の見通しが約6兆1252億円に増えた。東電に対する政府の資金援助の総額は約5兆9362億円となる。つまり、経産省による15年後の予測、「再生エネの導入拡大に伴う電気代への上乗せ総額が3兆円を超え、4兆円に迫る可能性があるとみている」というコスト増を、原発導入で2%以上抑制どころか、現時点で2倍近く上回っている。

(参考:東京電力が4月28日発表した2015年3月期の連結業績は、経常利益が前年比2倍の2080億円、当期利益が2.9%増の4515億円だった。最大の費用項目である燃料費が5年ぶりに減少したことなどで、2年連続の黒字を確保した。)

また、LNGは米国のシェール革命により、世界的な供給過剰が明らかとなっている。LNGの世界需要に対する供給は、これまで5割近くをロシアのガスプロムが握っていた(次いでイラン国営石油が2割弱)。私などは、LNGの欧州市場を米国がロシアから奪うことが、ウクライナ問題の背景にあると見ている。地政学的問題の善悪判断は立場によって大きく違い、どちらの言い分が正しいか分かり難いが、合理的に損得を見れば、それが最も説得力のある解であることが多い。

この状況で2030年時点でのLNGによる発電コスト上昇を見込むのは、余程の円安を見込んでいるというより、原子力よりコスト高に見せたい、結論ありきの試算に思える。とはいえ、原子力のコストは上限なしとされているので、これでは本来、計画が立てられないはずだ。

原子力発電は、設置時点での地域へのばら撒きなど見えないコストや事故補償コストだけでなく、原則40年に定められている稼働期間後の廃炉コストも大きい。また、安全コストも事実上どれだけ見積もればいいのか分からない状態だ。安全コストにはテロ対策も含まれる。
参照:原発が狙われたらどうなる?
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150427/280450/?n_cid=nbpnbo_mlt


・電力供給の維持と安全確保のはざま?

以下は原発先進国フランスの例だ。

(引用1)
ドイツ、スイス国境に近いフランス東部にある国内最古のフッセンハイム原発で不具合が頻発する一方で、オランド大統領が公約とした廃炉の見通しが立たず、3カ国の周辺住民と環境団体などが26日、早期の廃炉を求めてデモを行った。フランスでは北西部に建設中の最新鋭原発もトラブル続きで完成が遅れており、電力供給の維持と安全確保のはざまでフランス政府も頭を悩ませている。
参照:フランス:老朽原発、廃炉に暗雲
http://mainichi.jp/select/news/20150427k0000m030068000c.html

電力供給の維持と安全確保のはざまというのは正確ではない。日本でも2011年度以降の原発依存度がほぼゼロであったように、電力供給の維持は他の電源でも可能だからだ。むしろ、原子力の保有と安全確保のはざまというのが正しい。

私は、事故につながった福島第一原発の大参事しか知らなかったが、福島第二原発もあわや大惨事という状況だったようだ。

(引用2)
増田尚宏所長(当時)と400人の作業員は、絶えず目の前の現実が変化する中、作業の優先順位を確認しながら、何とか電源ケーブルを敷設することに成功し、3月15日午前7時15分、1号機から4号機のすべての冷温停止を達成。それは原子炉内の最大圧力が基準値を超えると予測されていた、わずか2時間前のことだった。
 「これは、危機的状況をリーダーとチームの力で乗り切った素晴らしい事例だ」
参照:福島第二原発を救った日本人のリーダーシップ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150415/279969/

(引用3)
それは、やはり増田さんをリーダーとして信頼していたからですよ。危機的な状況で「私にもこの後どうなるか分かりません。皆さんはどうするのが正しいと思いますか。私と一緒に打開策を見つけましょう」と言える人はそうそういないのです。増してや、増田さんは第二原発を知り尽くした人なのですから、なおさら説得力があります。
参照:ハーバードはなぜ「福島第二」の事例を教えるのか
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150415/279973/

福島第一原発の大参事は「不運」ではなかったのだ。2つある原発のうち、1つが救われ、1つが破綻したという5割の確率だったのだ。あるいは、ハーバードでリスク管理の授業が成立するように、増田尚宏所長(当時)のリーダーシップをもってしても、危機一髪で食い止めることができたほどの「幸運」だったのだ。

高浜原発、川内原発の再稼働をめぐり、司法の判断が真っ二つに分かれた。川内原発の再稼働を認めることで、安全面でのリスクがないとした鹿児島地裁は、建前の理論を優先したことになる。しかし、原発の理論的な安全性は世界各地で既に破綻している。

大事故を経験し、安全面でのリスクを十分に学習したはずの福島第一原発でさえ、その後も初歩的なミスが連発し、汚染水が海に流れ続けている。現場が一生懸命にやっているのは分かるが、いたずらに時間と経費とを消費するだけで、国民に安心感を与えてくれるものは何一つ提供できないでいる。

金融市場でもリスク管理に精通しているはずのトップランナーたちがしばしば破綻する。理論的には限りなく100%近く安全だとされるプランを、いとも簡単に破綻させるものは「欲と恐怖」だ。

マイナーなものを含めると、世界各地で原発事故は頻発している。安全宣言は楽観的な仮説の積み重ねでしかないとすら思える。核保有は「欲と恐怖の塊」だ。仮に、理論的には限りなく100%近く安全だとされるものでも、電源は万一の事故が起きた時に、致命的な損害を与えないものにするべきだ。もっとも、政府は福島当地の被害を致命的なものだとは見なしていないのかもしれないが。

配信元: みんかぶ株式コラム

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