安倍政権は、アベノミクス3本の矢の他にも、消費増税先送り、原発再稼働、集団自衛権、国家安全保障など、多くの特色を打ち出している政権だ。「焦点がない」、「大義がない」などとんでもない。ここら辺りで、国民に信任を問う必要があったかと思う。
・日本財政再建策の謎
巷に溢れる赤字家計の再建アドバイスとして、基本中の基本は支出管理、いかに節約することかと思う。これは国家財政も同様で、どの国でも歳出削減が基本となる。
もっとも、景気が悪い時に歳出削減をすると、更に景気が悪化し、歳入が減る可能性がある。その時、歳入減が歳出減を上回ると、財政赤字がさらに増えることにもなるので、安易な歳出減には注意が必要だ。しかし、経済成長にあまり関係がないような歳出ならば、削っても歳入減にはならないこともある。
赤字からの脱却に、もっと大きな効果が期待できるのが、収入増だ。「稼ぎに追いつく貧乏なし」という言葉もある。景気が回復すれば財政赤字は減少する。金融危機以降の米国の例では、2009年の約1.4兆ドル(GDP比9.8%)から、2014年の0.48兆ドル(GDP比2.8%)へと3分の1に激減した。
増税とは、政府の取り分を増やすことだが、景気回復ではパイそのものが大きくなる。つまり、個人消費100のパイからの取り分を5から8に引き上げれば、3増えるが、日本経済最大のエンジンのパワーが、95から92に減少する。一方で、パイが110になれば、5%でも取り分は5.5と、0.5増える。他に所得税収や法人税収も増える。
それだけではない。今後は92のパワーしかないエンジンと、104.5のパワーのエンジンとの競争になるのだ。つまり、増税によるブレーキ効果は年を追って重荷となってくる。
また、今年度5兆円分の増税+5兆円の景気対策では、ブレークイーブンにならない。なぜなら、個人消費という最大のエンジンにブレーキをかけながら、公共投資など比較的に小さなエンジンのアクセルを踏むからだ。そして、このブレーキ効果は年度毎に減速の度合いを深めていくことになる。
日本財政再建策の謎は、増税しながら、歳出増となり、史上最大規模の財政となっていることだ。これでは財政再建は謳えない。「官に任せれば、すべて上手くいく」ということを、財政赤字をつくった官が主張するという、おかしなことになっている。
・裁量権
消費税再引き上げが先送りになったことで、「低年金の補助が減る」、「少子化対策がおろそかになる」などと、脅す政治家がいる。
政治は優先順位だ。すでに史上最大規模の財政を扱っている政府が、将来の増税収入を見込んで「低年金の補助」や、「少子化対策」を考えていたとすれば、その政治家たちにとっては、こういった社会保障費の優先順位は下の下だったことになる。彼らにとっての、そんな些末案件をあえて「困るのはあなたたちですよ」と強調するのは、脅し以外の何物でもない。
こういった政治家たちが、大きな政府を望み、自分たちの裁量権を大きくしようと考えているのだから、増税には疑問符がいっぱい付くのだ。
私は、日本経済最大のエンジンのパワーを高めるには、消費減税が最も効果的だと考えている。資金を官がいったん吸い上げて、大きな財政に優先順位をつけるよりも、民が自分たちの事情や意欲に応じて消費することが、より大きな経済成長につながることは明白かと思う。
・アベノミクスの評価
安倍政権は、アベノミクス3本の矢の他にも、消費増税先送り、原発再稼働、集団自衛権、国家安全保障など、多くの特色を打ち出している政権だ。「焦点がない」、「大義がない」などとんでもない。ここら辺りで、国民に信任を問う必要があったかと思う。
逆に、ここまで信任を問わずに大きなことを進めてきたので、どこをどう取り上げて、評価すればいいのかが難しいくらいだ。私自身、上記に挙げたものだけでも、大賛成、大反対と分かれていて、それでいての総合評価を迫られている。
経済政策的には、私は減税+歳出削減の小さな政府が、最も経済成長に貢献すると見ているので、当初の大きな政府志向の安倍政権には懐疑的だった。とはいえ、アベノミクス3本の矢の、少なくとも「志し」は高く評価している。そこに、政権内外の抵抗勢力を押し切っての消費増税先送りで、大きな政府の構築よりも景気優先だと分かり、「信任」となった。
総合評価「信任」なので、あえて減点項目には目を瞑り、他の特筆すべき加点項目を挙げる。
まずは雇用市場の急改善だ。内定率を含め、失われた20年を取り戻す勢いで急回復している。私は主要因を円安。円安の主要因を貿易赤字に見ているが、それを止めないどころか、アベノミクスで後押しした功績は大きい。
次に外遊の多さだ。私は常に英米メディアの情報に親しんでいるので、政治家の情報バランスの悪さが気になっていた。いや、政治家には独自のルートでの情報があると言われても、担当大臣が「川内原発」を誤読するような情報音痴では、その情報すら怪しいと考えていた。
英米メディアに接するだけでも、英米政府の偏りが分かる。しかし、日本のメディアは英米政府の報道官の偏りのまま報道することが多い。
安倍首相のできるだけ多くの国々の首長と、直接に対話するという姿勢は素晴らしい。相手の事情を知ることができる上に、こちらの立場の説明もできるからだ。おそらく、消費増税の先送りも、そんななかから大丈夫だとの感触を得たものかと思う。国内に閉じ籠もり、側近の意見だけを聞いていたなら、抵抗勢力に押し切られた可能性があったかと思う。
・タペストリー・プライスアクション理論で世の中の動きが分かる
私がずっと米ドル高、米株高、円安、日本株高になると言い続けてきたのはご存じかと思う。これは、私の相場の見方、タペストリー・プライスアクション理論から導き出されたものだ。その見方では、少なくともまだ2年はこのトレンドが続く。
私は少なからずの著書を書いたが、そのどれもがすべて、タペストリー・プライスアクション理論を下敷きとしている。この理論では相場はもとより、世界の動きの多くが説明できるのだ。
参照:矢口新の著書
http://aratayaguchi.web.fc2.com/
書物では時に難解な理論を、より分かりやすく、楽しみながら学べるように、ネット上でのドリルにして貰った。何点取れるか、試して頂きたい。
■なぜ株価は値上がるのか?
https://www.bookdrill.jp/books/D0000072
■矢口新のトレードセンス養成ドリル Lesson1
https://www.bookdrill.jp/books/D0000073
■矢口新のトレードセンス養成ドリル Lesson2
https://www.bookdrill.jp/books/D0000074
■矢口新の相場力アップドリル 為替編
https://www.bookdrill.jp/books/D0000075
■矢口新の相場力アップドリル 株式編
https://www.bookdrill.jp/books/D0000076
■5段階で評価するテクニカル指標の成績表
https://www.bookdrill.jp/books/D0000071
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