平和憲法と、平和でいられること

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最新投稿日時:2014/09/01 12:18 - 「平和憲法と、平和でいられること」(みんかぶ株式コラム)

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平和憲法と、平和でいられること

著者:矢口 新
投稿:2014/09/01 12:18

最初に断っておくが、私は右翼でも左翼でもない。どの政党や政治団体とも関わりがない。当たり前のように日本を愛しているが、他のどの国の人々も嫌ってはいない。相場に対する見方と同じで、私は自分の価値判断だけでモノを言っている。地球や自然、人を愛し、世界から戦争や紛争がなくならないことに、心を痛めている。

平和でいることは難しい。盲導犬の飼い主は、今後は自分が守ると言ったようだが、それは危険と隣り合わせだ。動物虐待が対人に向かうのは時間の問題だと言う。凶器を持った相手に、盲人が立ち向かうのは危険だ。私は、地域や社会が民度を上げるしかないと思う。国防も最終的には同じかと思う。

盲導犬が刺される

盲導犬がナイフで刺される事件があった。盲人を先導していたが、その人が気付かないうちに刺されたようだ。盲導犬は4、5カ所も刺されていたが、声を出さなかったという。大型犬だが、抵抗も噛みつきもしなかった。商店に入って、店の人が出血に気付いたらしい。命にかかわる怪我でなくてよかった。

襲われたり、いじめられたりするのは、訓練された盲導犬が抵抗しないと知っているからだ。犬だけではない。抵抗できない「平和の象徴」である子供たちが、犯罪や、自分の家庭内での暴力の犠牲になることも多い。命にかかわることもある。日本だけではない。

英国では子供番組の有名キャスターが、米国ではカソリック教会の神父たちや、ボーイスカウトの指導者たちが、長年にわたって子供たちに犯罪行為を繰り返していた。IMFの前のトップ(元仏蔵相)は、フランスで幼女を含む、違法売春組織の経営に関わっていた。これらの国々だけを挙げたのは、フェアで民主主義の代表と見なされている国々だからだ。

日本が戦争を放棄した「平和憲法」は理念としては立派だ。刺されても噛みつかない、吠えない犬、大人を信頼する子供たちのように、非の打ちどころがない。しかし、抵抗しないと分かっているものの方が、手強いと思われているものよりも、暴力の犠牲になりがちなのは、残念ながら現実だ。

平和な国

太平洋戦争後の日本が平和だったことを、平和憲法のおかげだとする人がいる。しかし、古今東西の人類の歴史から見て、自分が宣言するだけで平和でいられるのは、何らかの意味で、最強国だけかと思う。日本の場合では、米国のいわゆる「核の傘」に守られた平和だったということだ。平和憲法と核の傘とが、一繋がりとなって平和を約束するものだとすれば、平和憲法は世界で最も美しい理念の裏に、最も現実的な必要悪を抱えていることになる。

私は、憲法9条を変えろとか、集団的自衛権は正しいとか主張しているのではない。正直に言うと、憲法を含め、法律やルールというものが本当に腑に落ちているわけではない。ルールに従うのは当然なのは分かるが、ルールが180度変わっても、その都度、当たり前のように従い続けることに、もう1つしっくりこないのだ。スポーツや事業でも、ルールは変わる。それに常に従うことが、しっくりと腑に落ちる人は、合法ならば何でもできるという人かもしれない。身分制度や差別、人切り御免などが合法だったのは、それほど遠い過去のことではない。

相場でもそうだが、人は流される。反戦家がいつの間にか翼賛会的になっていた歴史もある。ずっと反戦を貫いたと自慢するところが、他国の事実上のスパイ活動を行っていた例もある。「政治のことなど、俺は知らん」、「私が気に掛けるのは、子供たちのことだけ」という人たちだけが、振り返れば筋を通していたようにも思えてくる。

筋を通す人が少なくなれば、憲法9条などあってもなくても同じだ。ルールはいつでも変えられる。恐らく、日本人以外はそんなことは分かっている。日本をこれまで平和で置いたのは、平和憲法という理念ではなく、現実的には「核の傘」と自衛隊かと思う。

シリアとウクライナ

私が最初に右翼も左翼でもないと断ったのは、ラベル付けすると思考停止に至るからだ。メディアはラベル付けを好む。教科書に色付けやアンダーラインを引くのと同じで、視聴者により分かりやすくするための行為が、他の部分を見え難くしてしまう。

最近、シリアのアサド政権の話題が少なくなった。オバマ米大統領は28日、イスラム過激派「イスラム国は地域全体の脅威」だと語り、これに対応するため「有志連合」を形成する方針を明らかにした。近くにケリー国務長官を中東に派遣する。また、シリア領のイスラム国への空爆を行う場合でも、シリア政府の了解を得る必要はないとした。

イスラム国とはISIS(Islamic State of Iraq and Syria)のことで、すでに空爆されたイラク領内だけでなく、シリア領内にも勢力を張っている。シリアの反政府勢力は、イスラム圏から少女たちを連れてきて義勇軍と称して子供を産ませ、兵士として育てていると報道されている。また、他宗教の女性多数が改宗を強制された上、戦闘員の結婚相手として売り払われているとも言われている。ロイターは先々週、米人ジャーナリストの首を跳ねたビデオを、先週には、イスラム国が捉えたシリア政府軍の捕虜250人を殺害したビデオを公開した。
参照:Years of living dangerously
http://blogs.reuters.com/data-dive/2014/08/20/years-of-living-dangerously/
参照:Islamic State fighters executed scores of Syrian soldiers
http://www.reuters.com/video/2014/08/28/-islamic-state-executes-250-syrian-soldi?videoId=341689108&videoChannel=1

また、イスラム国は捕虜の扱いを定めたジュネーブ条約を認めず、拷問や性的虐待を行っている。
参照:ISIS’s Brutal Treatment of Prisoners Includes Waterboarding, Sex Slavery
http://nymag.com/daily/intelligencer/2014/08/more-details-brutal-treatment-of-isis-prisoners.html?mid=google


イスラム国はシリアの反政府勢力で、昨年までは反アサドで、欧米と利害が一致していた勢力だ。当時はアサド大統領は独裁者で、国民の支持も受けず、化学兵器で自国民を大量虐殺したと報道されていた。それを理由とした米仏によるシリアへの軍事行動に、頑強に反対し続けたのがロシアと中国だった。

その後、アサド大統領が国民投票で再選されたことで、オバマ政権とメディアの関心はイスラム国に移ったようだ。

私は以前、アサド政権が自国民を化学兵器などで虐殺する理由は見当たらず、反政府勢力(おそらくISIS)の仕業だと書いた。
参照:「シリアの地政学的リスク」
http://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-11604904872.html

メディアの報道を鵜呑みしていると、世界も相場も分からない。ウクライナ情勢も同様だ。ウクライナも自国民であるロシア人捕虜の扱いでジュネーブ条約に違反した。

あまりウクライナのことを繰り返しを書くと、親ロシア反米のラベルを貼られそうなので、簡単な事実だけに留めておく。

冷戦時代は米ソが敵対していた。それぞれが軍事同盟を持ち、米はNATO、旧ソ連はワルシャワ機構を主導していた。冷戦終了でワルシャワ機構は消滅したが、NATOは健在だ。軍事同盟なので、敵対する仮想敵国が存在する。それはロシア以外にはない。

冷戦が終わったにも関わらず、NATOは拡大基調だ。東欧や旧ソ連の国々が参加している。そして、ロシアと共に旧ソ連を支えていたウクライナでは、親ソ的な前政権が武力で倒され、新政権は西側の援助を受けてNATO入りの意向を表明している。

ロシアを敵国とみなす軍事同盟NATOの拡大という構図で見てみると、ロシア軍の基地があり、ロシア人住民が大半なクリミアを、ウクライナから「返還」させる、あるいは「奪還」したとしても当然の成り行きかと思う。

事実は、ロシア系住民を中心に、自らロシアへの帰属を望んだ。ウクライナは他国の援助がなければ立ち行かない。ウクライナ政府は、自立よりも他国からの援助を当てにしている。どちらを選ぶと聞かれて、ロシアを選ぶ方が自然だ。また、クリミアのロシア人たちは、ウクライナの少数民族にはなりたくなかったのだ。

武力で政権を奪い、捕虜の扱いでも無法を通すウクライナに、現在も居住している多くのロシア人を、プーチン大統領が見捨てるわけにもいかないのは、内政的にも理解できる。それでも、武力で東部ウクライナを併合することは、メリットより、デメリットの方がはるかに大きいので躊躇する。しかし、現状のような状態でも制裁が強化されるのなら、すでにデメリットが先に来て大きいので、メリットを追求し始めるかもしれない。

一方で、それらをNATOが、プーチン大統領によるソ連復古を望む行為だと喧伝するのも理解できる。つまり、我々が目にするウクライナ情勢は、(ロシアと構造的に敵対する)NATO側の一方的な見方なのだ。

もし、ロシアがなくなれば、シリアを含む、他の反米政権はすべて潰される可能性が高い。忘れてはならない事実は、拡大しているのはNATOという軍事同盟と、オバマ大統領の言う「有志軍事連合」で、現在、対抗する軍事同盟はどこにも存在しないのだ。

地政学的リスク

上記参照のブログ「シリアの地政学的リスク」にも書いたが、私がここで言う地政学的リスクとは、先進国の証券市場における価格の上げ下げに関するリスクだ。

1年前に書いた上記ブログでは、「総合的にみて、北アフリカから中東にかけての、米国の戦略が破たんしているとは思えない。むしろ、エジプト、シリアなど、米国の思惑通りに事が進んでいるようにさえ思える」と述べた。その後、思惑通りに行かなかったのは、ロシアなどの反対と、シリア国民の支持で、アサド政権を潰せなかったこと。また、支援してきた反アサド政権勢力が、反米だったことだ。

一方、ウクライナ情勢は、基本的には内戦なので、地政学的リスクは大きくないと述べてきた。実際に、米株は先週も史上最高値を更新し、欧州主要国の国債価格も史上最高値を更新した。株価も最高値圏にある。

今後の最悪の事態を想定するとすれば、プーチン大統領の暗殺だ。そうなると、アラブ諸国に見られるように、ロシアにも内戦が起きる可能性がでてくる。あれ程の政治家が何人もいるとは思えないからだ。

そして、ロシアの崩壊は、NATOが仮想敵国を探し続けるという悪夢に繋がる。「有志軍事連合」のメンバーは、仮想敵国次第でその都度変わる。そうなると、地政学的リスクどころではなくなってくる。

しかし、それは最悪の事態の想定で、可能性はかなり低いと思う。なぜなら、エクソンモービルや電力会社といった、米国のエネルギー産業が、対ロシア制裁に加わらず、取引を拡大しているからだ。航空宇宙や軍需産業も、反ロシアではない。彼らから見れば、暴走しているのはオバマ政権とNATOだ。米国は多様性の国だ。どこかでバランスが保たれるかと思う。

平和でいることは難しい。盲導犬の飼い主は、今後は自分が守ると言ったようだが、それは危険と隣り合わせだ。動物虐待が対人に向かうのは時間の問題だと言う。狂気を持った相手に、盲人が立ち向かうのは危険だ。私は、地域や社会が民度を上げるしかないと思う。国防も最終的には同じかと思う。

配信元: みんかぶ株式コラム

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