厚労省が5年に1度の公的年金の財政検証の一環として提出した試算によれば、夫婦が同年齢の専業主婦世帯の標準ケースで、1949年生まれの今年65歳になる2人の世帯は月21.8万円を受け取る。現役世代の手取り収入の62.7%にあたる。
一方、1984年生まれの今30歳の2人の世帯が65歳到達時に受け取る年金額は、経済が0.9%成長した場合でも、月29.9万円。表面上の金額は増えるが、物価や賃金の上昇を考えると、現役収入の51%と実質的な受取額は減る。経済が0.4%成長する標準シナリオでは月26.3万円と、現役収入の50.6%にとどまる。0.2%のマイナス成長となる低成長シナリオでは月21.1万円で、44.7%と現役収入の半分以下になる。年齢が上がるにつれ、現役収入比の年金額はさらに減る。
図:65歳時の年金額
経済条件で成長率と物価上昇率、それを常に上回る賃金上昇率との関係に疑問がないわけではないが、図右端の高成長、標準のシナリオは、女性や高齢者を中心に約600万人の働き手が増えるのが前提のようだ。30代の子育て期に働く女性が減る「M字カーブ」がなくなるほか、60代後半の男性が働く比率が今の49%から67%に上がることを想定しているという。経済構造がそこまで変わるとみる見方は少ないので、20代、30代の現役世代が将来もらえる年金は現役世代の半分以下という図左寄りのシナリオがより現実性が高い。
参照:揺らぐ年金、世代格差鮮明 40歳以下は半分割れも
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2703G_X20C14A6EA2000/?dg=1
これを日経新聞は「世代間格差」と呼び、給付抑制を先送りにしてきたツケを現役世代が保険料率、年0.354%ずつの上昇で払っている点を取り上げ、その原因として、高齢世代の「もらいすぎ」放置を挙げている。
この見方は政府の年金給付削減の狙いを受けたものだ。年金制度の維持のためには、収入となる保険料率を引き上げて、支出となる年金給付を下げるというのが、政府の考えだ。
ところが、いま給付抑制を行って、30歳の人が65歳到達時に給付増を行わなければ、給付抑制は今の現役世代にそのまま跳ね返る。これでは世代間格差が縮小するどころか、実のところはますます拡大する。
問題の根っこは、労働人口の減少だ。(1-特ー12図に見られるように)労働力人口は1998年にピークの6793万人をつけ、2013年には6577万人へと216万人減少した。就業率に至っては、1968年の65.1%から56.9%に下げている。男性が81.2%から67.5%に、女性が50.1%から47.1%に下げた。この間、失業率は1.2%から4.0%に上げている。
図:就業状況の変化
少子高齢化が進むなかで、労働人口の減少に歯止めをかける方法は、女性や高齢者の就業率を上げることだけではない。失業率を下げることで、働き盛りの就業率を上げればいいのだ。(1-特ー17図に見られるように)男女ともに完全失業者の絶対数が最も多いのは、20歳代、30歳代だ。本来ならば年金制度を長く、確実に支えることができる世代の多くが、制度の外にいる。完全失業者の総数は2013年時点で265万人。15年間の労働力人口減少数の216万人よりも多いのだ。ちなみに失業者とは、求職活動をしているにもかかわらず、就職できない人たちだ。
図:年齢階級別労働力率の就業形態別内訳
一方、雇用者に占める非正規雇用の割合は、女性において高く、男女共に増加中だ。また、20歳代は定年以降の世代と並んで、非正規雇用の割合が高い(1-特ー18図)。企業が事業を推進するために、外部環境の良し悪しに関わらず支払う固定コストが正規雇用、環境の変化に応じて上げ下げできる変動コストが非正規雇用だ。企業の側から見れば、事業の継続、発展には欠かせないとされる人件費の柔軟さが、従業員の側から見れば、雇用の安定も、収入の安定も見込めない柔軟なものとなっている。つまり、女性と若者に犠牲を強いることで、経営の安定を図る企業が増えているのだ。
図:雇用形態別に見た雇用者数の変化と特徴
犠牲という言葉に抵抗を感じる人がいるとは思うが、そのことが少子化につながってしまっていることを表しているのが、(1-特ー3図)の表だ。図aでは、親がかりといえる自営業主・家族従業者の20歳代前半を除き、男性ではどの年代でも未婚者の割合が高いのが、完全失業者、次いで非正規雇用者で、どちらも他のカテゴリーに比べて群を抜いて高い。雇用の安定、収入の安定が見込めなければ未婚、つまり、結婚できないということだ。
図:未婚者の割合と特徴
(1-特ー3図)の図bでは、学歴を問わず生涯未婚率が上昇しているのが見て取れるが、男性の場合はより高学歴の方が「結婚できる」。これは(1-特ー21図)bの所得の減少幅の大きさとは無関係ではなさそうだ。もともと給与水準の高くない中学卒男性雇用者がさらに大きな所得減となることで、生涯未婚率が急上昇していると推測できるのだ。また、(1-特ー21図)aでは、60歳代を除き、すべての世代で雇用の安定が揺らいでいることが分かる。
図:平均勤続年数及び平均所定内給与額の変化
政府の年金制度改革から抜け落ちているのは、リスクを取らねば、リターンもないというところだ。制度がこれまで維持できて来たのは、労働人口の減少が穏やかだったこともあるが、バブル期までの蓄えも大きい。私はこの蓄えは、冷戦構造下の特別ボーナスの部分が大きいと見ている。ソ連邦崩壊と日本国バブル崩壊とは無縁ではないのだ。
これまでの見方はともかく、今後はリスクを取らねば、リターンはない。年金の保険料率を引き上げて、年金給付を下げても、年金を支える世代が弱ってしまえば、年金制度どころか、日本という国家そのものの存亡危機となる。若年層の失業、非正規雇用の拡大は、少子高齢化を加速させ、日本という国家そのものを危うくさせる。あるいは国家は残っても、その国民は幸福の追求どころか、あきらめばかりの人生を送らねばならない。
円安、アベノミクスにより、ここ1年の雇用市場の改善には目を見張るものがある。やはり、国の政策の根幹は経済政策かと思う。経済政策も、年金の運用も、リスクを取ることで、リターンが見込めるようになるのだ。
参照:男女共同参画白書 平成26年版
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h26/zentai/index.html
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