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八歩さんのブログ

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指輪物語


指輪物語



実話です。


いつも怒った口調で他の入居者や若いヘルパーを叱っているA子さん。

エレベータ前の並び方、新人ヘルパーの口の利き方、部屋に引きこもりがちな入居者には「カビが生えちまうよ」と大声でお節介。

施設のエレベーターのゆれがひどいのも気に入らない。

食事で一緒のテーブルに着く人の食べ方が汚いと、それも気に入らない。

ボランティアの人が、歌や踊りを見せてくれるのも、ぜんぜん楽しくない。


そして、お頭の方は、いたってクリア。




老人ホームの諸費用値上げの運営懇談会には、ご自分が出席して、本社の事業部長に不平を申し立てたほどです。


高齢者が経済的に圧迫されているのに、介護事業をやっている貴方たちが、高齢者からお金をとろうとろうとしては、高齢者の居場所がなくなるではないか。

もし、値上げをのめないとしたら、出て行かせるのか。

ということを、大きな声でまくし立てました。


本社から来ている人はみんな、A子さんを、入居者の家族と思ったそうです。

入居者には、自分の考えを筋道立てて伝えることは難しいようなひとがほとんどですから。


A子さんは、いつも一人でした。

長男のお嫁さんが着替えや差し入れを持ってきても、すぐに帰してしまいます。
一人でいるのに慣れているから、他人に気を使うと疲れちゃう生んだそうです。

施設では、話が合うような人はいないし、折り紙や歌なんて、ボケた人といっしょにやってもおもしろくないのだそうです。


そんな、A子さんは自宅に犬を飼っていました。

A子さんは、大金持ちではないのですが、お金に不自由はしていませんでした。
週に1,2回、タクシーで自宅に帰り、犬の世話をして施設に戻ってきました。

長男のお嫁さんが、毎日世話をしにいってくれているのですが、「あのひとに任せておくと、犬がひどいめにあうかもしれないから、私が目を光らせているの」という、可愛げのない婆様です。

そんな方だから、認知症のひとと一緒に食事や、レクをするのが嫌でなりません。
しかし、この老人ホームにやってきた1年前は、車椅子で、下の世話も食事介助も必要な状態でした。


自宅で転倒し、骨折入院。
退院後は、自宅の独居では無理ということで、川崎市の有料老人ホームに入ったのです。 

子供さんはそう離れていないところに暮らしていましたが、一緒には住んでいませんでした。


退院のときに、長男の嫁が、しばらくうちに来たらいい、といってくれたけど、あれは本心じゃないから、行かないよ、わたしゃ一人の方が気楽なんだと答えたよ、とA子さんが教えてくれました。

A子さんは、施設内で、よくリハビリを行い、杖をついて歩けるようになりました。
半年位かかりました。
歩けるようになると、もう恐いものなしです。 

認知症が進んだほかの入居者の方が、食べこぼせば叱る、部屋に引きこもるひとにも叱る、本社の部長が来ると建物の老朽化を叱る、新人ヘルパーがくると、なにやかにやで叱る。

A子さんは、、、、みんなから嫌われていました。
叱られて、いびられて泣き出した若いヘルパーもいたそうです。

わかいヘルパーは、みんな、高齢者介護に取り組みたいと思う、優しい人です。
とてもナイーブです。

皮肉を言われ、理屈で責められ、わがままに翻弄され、介護職をやめよう、とおもったことは、ヘルパーなら皆経験があると思います。

赤ちゃんと違って、頭のクリアなおとりよりのイジワルな言葉は、ぐさぐさと柔らかなこころを突き刺します。



そんな毎日の日常の繰り返しでふっと気づいたのが、Aさんの薬指と中指にされている指輪でした。

柄も色もサビついていて、美しいとは、うそでも言えない指輪でした。

はっきりいって、これは不潔だな、と思いました。
そう感じたら、すぐに綺麗にしなくてはなりません。

いつものように不機嫌なAさんに聞いてみると、中指の指輪はかろうじて外れるとの事。

歯磨き粉と古い歯ブラシで指輪を磨くと、つる草の模様が出てきました。金地にプラチナの葉っぱがとても素敵な指輪でした。

この指輪は? とA子さんにお聞いたら、急に涙ぐんで、「ダンナの指輪なのよ」と話してくれました。

わたしは、それまで一度もA子さんが人をほめたのをきいたことがなかったのですが、ダンナがどれほどステキな人だったか、A子さんを大切にしてくれたか、子供たちを大切にしたかを、楽しそうに、そして、時々涙ぐんで話してくれました。

その合間合間には、息子や娘のこき下ろし、その結婚相手のこき下ろしがはいりますが、それはもうなれっこです。

薬指の指輪も石鹸を使って外れるかもしれませんでしたが、いやがるのでそのまま磨きました。

とっても素敵な、おそろいの指輪でした。

Aさんは嬉しそうにぴかぴかになった指輪を元の中指にはめて見つめていました。
何十年ぶりかで指輪の色と柄を見たそうです。

そして、ダンナとの思い出話をたくさんしてくれました。

とても優しいご主人様で、怒ったところを見たことがないと話され、私に、

「いつも文句ばかりいって、ごめんね。」
と手を顔で覆い、すこしそこでも泣きました。


A子さんは、それから半年位、この施設にいて、もっと元気になって、タクシーに乗って自宅に帰っていきました。
あれだけ悪くいっていた長男のお嫁さんと、とっても仲よさそうに帰っていきました。


きっと、タクシーの中では、この施設の悪口をいっているにちがいありませんけれど、自宅にもどれてよかったと思います。


おしまい。
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