イベントを通じて自らを含む周囲の幸福を実現し、持続的成長を目指す
稲葉利彦氏
セレスポ 代表取締役社長
▲稲葉利彦代表取締役社長と「セレスポの幸福」マンダラ
スポーツ関連をはじめ、セレモニー、プロモーション、フェスティバル、コンベンションなど幅広い分野でのイベントプロデュースを手掛けるセレスポ <9625> [JQ]は、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックを追い風として業容拡大に一段の拍車が掛かりそうだ。今年度スタートした新たな中期経営計画のなかで示した、基本方針の「継続企業の確立」に向けた今後の経営戦略について、2021年以降の展望も含めて稲葉利彦代表取締役社長に聞いた。
――「セレスポの幸福」という経営理念についてお教えください
稲葉 「イベントを通じて自らを含む周囲の幸福を実現し、笑顔のある明るい社会づくりに貢献する」というものです。企業に影響を与えるものの全体観を持ちたくて「セレスポの幸福マンダラ」というものを発想しました。これは、自社の周囲に存在する顧客、株主、取引先、社会、社員をステークホルダーとして設定し、自社が何を目指すかを明確にしながら、それに向かって周りの各ステークホルダーに進んで協力してもらえるような状況を双方の努力で作り出すというものです。
企業というものは、当然のことながら単体で存在することはできず、周囲との関わりのなかで活動していくものです。特に、企業活動というのは、例えば自動車を走らせれば排気ガスや騒音が生じるなど、社会に対して何らかのネガティブな影響を与えかねないケースも出てきます。企業が大きくなればなるほど、周囲のステークホルダーに迷惑を掛けていないかどうか気を配り、逆にプラスのものを提供しようという考え方です。
――この「セレスポの幸福マンダラ」に至るまでの経緯をお聞かせください
稲葉 この発想の根源となっているのは、1991年に私が当時勤務していた伊勢丹から参加した「フォーラム21」という経済界が支援する異業種勉強会で「企業の幸福」と題して研究成果を発表し、数社の経営者から「これは面白い、このフレームでいろいろなことが考えられる」と評価されたことがきっかけです。
さらに、2001年から2007年まで中国で天津伊勢丹の社長を務めました。当時の中国は、反日機運の高まりや、SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザの蔓延など日本からの進出企業にとって強烈な向かい風が吹き荒れていました。そこで、この事態をなんとか改善しようと、「天津伊勢丹の幸福」というマンダラを作成し、「天津市および中国からの信頼とサポートのもと、顧客の支援を勝ち得、本社への貢献を認められるかたちで繁栄、発展すること」と目標を掲げました。こうした、先にゴールを設定して、そのために何が必要かを決める努力を積み重ねた結果、2006年には中国で最も近代的な百貨店を開店することで、期待に応えることができました。
2007年、セレスポに副社長で入社した当時、全国を巡りほぼ社員全員と直接面談することからスタートしました。その面談の内容を全て書き出してみたところ、「セレスポの幸福マンダラ」に記載すべき実感に裏打ちされたフレーズが浮上してきました。当初は、「社員の幸福」が起点となっており、“社内の全てのトイレをウォシュレットにする”、“配偶者の誕生日を有給休暇にする”といったことからスタートしました。「セレスポの幸福マンダラ」で、セレスポが頑張れば頑張るほど周りのステークホルダーも潤うというシステムを構築し、これを愚直に推進する方針を、2008年4月の社長就任時に打ち出しました。
――今年5月末に公表した第4次の中期経営計画の概要をお願いします
稲葉 計画最終年度に当たる2021年3月期業績の数値目標は、売上高160億円(18年3月期実績126億700万円)、営業利益8億円(同5億9300万円)、売上高営業利益率5.0%(同4.7%)、ROE9.5%(同8.0%)としています。さらに、目標達成に向けた基本方針として、(1)継続企業の確立、(2)最大収益の追求、(3)レガシーの獲得――をあげています。一方、株主還元については「安定配当」を基本とし、配当性向30%を目安に利益成長と共に継続的な増配を目指します。また、前期末から株主優待もスタートしています。
――「継続企業の確立」での収益力向上の具体策について
稲葉 継続企業というのは、例えば3年や5年不景気が続いてもびくともしない体制を作ろうということです。そのために大切なのがまず経営理念で、これまでそれに基づいて推進してきて第1次から第3次までの中期経営計画の期間中に、売上高は約60~70%増加、営業利益面ではマイナスから6億円の黒字に浮上してきました。これは、社員が周辺のステークホルダーのメリットを第一に考えて、臆することなく積極的に交流を続けてきたことが奏功しているためです。
企業力の増強については、収益力や成長力が上向きはじめてきた勢いをさらに伸ばしていきます。人材については、働き方改革などの流れを踏まえながら積極的に対応します。また、ESP(イベント・ソリューションズ・パートナー)の実現を目指します。ESPは、すべての業務を束ねあげるような立場で、顧客の傍にいつも居て、顧客から信頼され、企画の早い段階から共に作業し、あらゆる段階での顧客の課題を解決して、イベントに期待される効果を実現することです。
――「最大収益の追求」でのラグビーW杯や東京五輪の位置づけは
稲葉 今回の中期経営計画は2020年を含む3ヵ年計画ですから、東京オリンピック・パラリンピックの開催は、当然極めて大きなビジネスチャンスと捉えており、積極的に利益獲得を目指します。ただ、ここで重要なことは、顧客や来場者、従業員を含めて“安全”と“健康”の担保に厳格に留意することです。繁忙期間については、場合によっては、選別受注的な対応も必要になってくるのではないでしょうか。
――「レガシーの獲得」での2021年以降を見据えた戦略について
稲葉 東京オリンピック・パラリンピックイヤーの2020年を“オン”として、その前の期間を“ビフォアー”、2021年以降を“アフター”とそれぞれ位置づけています。レガシーというのは、後世に伝えていく資産のことです。このビフォアーからオンの期間は、大手広告代理店やスポーツ関連の中央競技団体など優良顧客に対して、仕事の手際の良さを示すことにより、よりパイプを太くすることや、接点の増加も期待できます。また、東京オリンピック・パラリンピックを控えてのテストイベントやプレ大会など国際大会の開催も目白押しとなります。これを機会に通常では手掛けられないようなイベントのプロデュースに携わることで、運営面での付加価値の高いスキルが身につきます。2021年以降のセレスポは、優良顧客と付加価値の高いスキルを自分のものとし、これがその後のレガシーの獲得につながります。
――2024年に目指すセレスポの企業ビジョンについて
稲葉 単なる事業規模の拡大だけではなくて、名実ともに“総合イベント企業”になることで、強みを発揮することができると思います。具体的には、業容面においてさまざまな分野での主要なイベントをプロデュースし、企業としては専門性の高い子会社群をホールディングス会社で運営してグループ戦略の効果を最大化します。それに伴って企業としての実力が備わることで、東証1・2部市場への指定替えなども自ずから機が熟してくるのではないかと思っています。人材面では“メイク・ネクスト”を掲げ、次世代の人材育成に努めます。求めているのは、ただひたすら真面目に言われたことをこなすだけではなく、時には反対意見を表明したり、イレギュラーなことに手を出しても、5回やって2回は成功させるような、いい意味で狩猟型の人材が育てばいいなと思っています。
――今後中期的に見て成長性期待の高い分野は何ですか
稲葉 引き続きスポーツ分野の成長が期待されます。一般社団法人のJACE(日本イベント産業振興協会)の調べによると、昨年の国内イベント消費の市場規模は16兆6490億円となっています。一方、名目GDP(国内総生産)600兆円に向けて、政府が立案した成長戦略「日本再興戦略2016」によると、スポーツ関連産業の市場規模は2015年の5兆5000億円から2025年には約3倍に相当する15兆円(2020年には10兆円)に拡大すると予想されています。スポーツ関連企業としてこの市場規模の拡大に対しては、冷静な判断に基づきながらも果敢に挑戦したいと思います。
(聞き手・冨田康夫)
◇稲葉利彦(いなば・としひこ)
1954年、福井県福井市にて生まれる。1976年慶應義塾大学経済学部卒業後、伊勢丹に入社、婦人ファッション部門に所属。以降、営業およびマーケティングの分野を中心に取り組み、顧客開発室長、新立川店準備室担当部長、本店婦人服飾雑貨部商品部長を歴任。2001年、天津伊勢丹社長就任、新店開業の指揮を執る。2005年、伊勢丹中国北地区統括部長就任。2007年セレスポ入社、同年取締役副社長就任。2008年、同社代表取締役社長に就任、現在に至る。現在、スポーツおよびイベントの観点から業界内外の連携を強めるため、(一社)日本イベント産業振興協会理事、(一社)日本経済団体連合会 オリンピック・パラリンピック等推進委員会委員を務める。
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