3. 中期経営計画の進捗
2020年3月期においても、基本方針に基づいて様々なプロジェクトが進捗している。
(1) メディカル物流サービスの新拠点
安田倉庫<9324>は2020年6月に、東京都江東区東雲にメディカル物流サービスの新拠点として、敷地面積約3,300坪、地上4階建て、延べ床面積約6,700坪の「〔仮称〕東雲営業所(東京メディカルロジスティクスセンター)」を開設する予定である。りんかい線東雲駅から徒歩5分で、首都高速道路湾岸線有明ICの至近にあり、東京港や羽田空港へのアクセスに優れる好立地に加え、メディカル物流サービスに定評のある同社の高付加価値サービスを受けられることから、非常に強い引き合いがあるようだ。さらに、同拠点から近い東京都江東区辰巳に、敷地面積約1,600坪、地上7階建て、延べ床面積約5,300坪の物流施設を取得した。一定の改修工事を実施した後、2020年12月にメディカル物流サービス向け倉庫の開設を計画している。新たに開設する予定となった2施設を一体的に運営することで、メディカル物流サービス成長の弾みとなることが期待される。そのほかにも、茨木営業所で特殊医薬品保管配送業務の新規取引を開始、九州営業所では医療機器メンテナンス・病院配送業務の既存取引が拡大するなど、メディカル物流サービスを中心に中期経営計画が順調に進捗していると言える。
(2) 新たなITキッティングサービス
ITキッティングサービスでは、従来の3本柱に加え、新たなキッティングサービスが稼働し始めた。「宅配ロッカーキッティング」業務では、コンビニエンスストアや駅などに設置される宅配ロッカーの入出庫保管とキッティング業務を行う。これは通信販売などの荷物の再配達を抑制する効果が大きいと期待される業務で、既に月間200台程度の作業実績がある。「カード決済端末キッティング」業務は、保険会社向けカード決済端末の設定業務で、既に3ヶ月で12,000台という実績を誇る。「鉄道向け監視カメラキッティング」業務は、エージング(48時間通電検査)やキッティング業務を行っており、車両編成ごとに鉄道会社に納入する。同社は東北新幹線や上越新幹線、東京メトロの一部などを担当しており、通常は車内の異常確認に使われるカメラだが、一部鉄道車両では外向けに取り付けてドライブレコーダーのような使い方もしている。今後、IT機器が様々なモノとつながるIoTの世界が拡がることが予測されているが、それに伴い、同社のIT機器キッティング業務の範囲も拡がっていくことが予想される。
(3) M&Aにより北陸地方を拠点化
倉庫・輸配送ネットワークを全国へ拡大する戦略に従い、2019年11月には大西運輸を、2020年1月にはオオニシ機工を完全子会社化した。ともに石川県金沢市を拠点に北陸3県をカバーしており、堅実な収益を誇る。大西運輸は小型から大型まで300台超の車両を取り揃え、関東や関西、中京地区につながるネットワークを持つ一般貨物自動車運送事業者である。また、オオニシ機工はクレーン作業や建材輸配送を得意とする一般建設業者である。これらのM&Aは、自社所有車両台数の大幅増加による輸送能力の増強、医薬品メーカーの多い北陸の拠点化によるメディカル物流サービスの拡大、北陸路線ができることによる積載効率の向上、オオニシ機工のクレーン車を利用した大型機器の設置、といったシナジー効果が期待できると考えられる。このようなシナジー効果が期待できるM&Aは、今後も一定程度発生する可能性が高いと弊社では見ている。
(4) 本社移転
同社は、2020年12月を目途に本社を移転する計画である。移転先はJR田町駅至近オフィスビルのため、社員のみならず取引先にとっても利便性が格段に向上する。また、関係会社も含め本社機能がワンフロアに集約されることから、効率性が大きく改善することが期待される。
なお、長期発行体格付け(日本格付研究所)がBBB+からA−、格付の見通しがポジティブから安定的へと向上した。成長投資の資金的な担保ができたという理解である。これらはいずれも、収益面及び資金面において、中期経営計画達成に向けての基盤作りの一環と言うことができる。
4. 中期成長イメージ
現状、大規模な不動産の再開発や新規開発が予定されていないことから、不動産事業は当面、既存不動産のメンテナンスが中心となると思われる。したがって、中期経営計画「YASDA Next 100」は、物流サービスがけん引する前提になっていると弊社では想定している。また、物流サービスのなかでも、国内物流サービスはもちろんのこと、メディカル物流サービスやITキッティングサービスといった、ソリューション色の強いサービスが成長をけん引することになると思われる。
特にメディカル物流サービスは、東京都江東区東雲及び辰巳の新物流拠点稼働を前に、医薬品メーカーからの取引要請も少なくないもようで、売上げへの貢献が最も大きくなるジャンルと考えられる。このため、今後も引き続き新たな施設開発が行われることが予想され、同社の実績とノウハウ、受け入れ態勢を考えると、メディカル物流サービスが同社の成長ドライバーとなると思われる。ただし、大手物流企業も参入してきている様子で、同社としても危機感を持って臨むことにもなりそうだ。一方、IT機器キッティングは同社の独自性が強い分野であることから、今後も安定的に伸びると予想される。国内物流サービスでは長く良好な関係を続ける顧客が多いことから、全般的に伸長することが予想される。一方、需要のボラティリティに対しては、物流施設を賃借することで機動的に展開することを検討している。利益面では、長期計画である「長期ビジョン2030」の始まりでもあるため、各分野とも当初は先行的に投資や費用が嵩み、3年目を目途に大きく伸びるというイメージを持っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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