9日の米株式市場でNYダウは112.24ドル安(-0.30%)と3日ぶりに反落。10月生産者物価指数(PPI)が引き続き高い伸びを示したため、インフレ警戒感に伴う売りから下落スタート。さらに、史上最高値付近からの利益確定売りも強まり、終日軟調に推移した。債券の売り方の買い戻しにより米10年国債利回りは1.4%台前半へと一段と低下したが、ハイテク株も利益確定売りに押され、ナスダック総合指数は12日ぶりに反落、記録的な高値更新劇は途絶えた。なお、電気自動車テスラは、最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏による保有株売却懸念から11%安と急落した。
米株安を受けて、日経平均は76.40円安の29209.06円でスタート。前日までの下落による値ごろ感もあって、朝方に付けた29155.80円(129.66円安)をこの日の安値に下げ渋ると、その後は一時前日比プラス圏に浮上する場面もあったが、戻り待ちの売りも根強く、再び軟調な動きが続いた。
個別では、営業利益予想の上方修正値が市場予想に届かず、下期が上期比で大きく鈍化する見通しとなった東邦亜鉛<5707>が急落し、東証1部下落率上位に顔を出している。オークネット<3964>は好決算が続いたが、高進捗率ながら通期計画が据え置かれたため急落。新電元工業<6844>も上期好決算も通期計画据え置きで失望売りを誘った。
また、業績予想を下方修正した三井住友建設<1821>やエレコム<6750>のほか、決算関連のリリースをきっかけに、住友ゴム<5110>、ビジョン<9416>、クレディセゾン<8253>、セイコーHD<8050>、シップHD<3360>、三菱マテリアル<5711>、三井金<5706>、キリンHD<2503>などが下落率上位に並んでいる。そのほか、1部売買代金上位では、ソフトバンクG<9984>、レーザーテック<6920>、マネックスG<8698>が急落しており、東エレク<8035>、JFE<5411>、ベイカレント<6532>、レノバ<9519>、ホンダ<7267>なども大幅に下落している。
一方、7-9月期好決算で通期計画を市場予想以上の水準に上方修正した日産自<7201>
が急伸、同様に好決算など業績関連のリリースを手掛かりにデジタルハーツHD<3676>、ケイアイスター不動産<3465>、ウィルグループ<6089>、芝浦機械<6104>、ネクソン
<3659>、鈴木<6785>などが1部上昇率上位に並んでいる。そのほか、一部メディアの報道を手掛かりに大有機化<4187>が、証券会社によるカバレッジ開始で三井ハイテク<6966>なども大幅に上昇している。1部売買代金上位では、日本郵船<9101>、川崎汽船<9107>などの大手海運株が上昇、そのほか、任天堂<7974>、トヨタ<7203>、エムスリー<2413>、OLC<4661>なども買われており、8日に好決算を発表したTOWA<6315>が改めて本日急伸している。
セクターではゴム製品、空運業、非鉄金属などが下落率上位となっている一方、海運業、鉱業、パルプ・紙などが上昇率上位となっている。東証1部の値下がり銘柄は全体の49%、対して値上がり銘柄は45%となっている。
前場の日経平均は前日終値水準でのもみ合い。前週末5日から前日までの間に500円超下げており、心理的な節目の29000円も近づいているだけに、さすがに今日は下げ渋っている。ただ、日足チャートでは、前日までに4日連続で陰線を形成しているうえ、今日までを含めると、上値と下値もじりじりと切り下がってきている。7-9月期決算も今週で一巡するが、今後さらに手掛かり材料に欠けると想定されるこのタイミングで、こうした弱い動きが続いている様子を見ると、日本株を取り巻く環境は芳しいとは言えないだろう。
国内外の機関投資家が日本株を積極的に買ってくる動きが見られないなか、国内の個人投資家による保有も多いとみられる米テスラ株の急落が、個人投資家の含み損益の悪化を通じて、日本株の上値抑制要因ともなりそうで、気掛かりだ。
さて、米国のインフレ動向に目を向けると、9日、米10年国債利回りは1.44%(前日比-0.05%)と低下した一方、期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率は2.63%(同+0.01%)と上昇した。11月に入ってから米長期金利が低下傾向を示す一方、米BEIは上昇を続けている。名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利の低下は株式市場には追い風で、実際がこうした背景が、8日までの歴史的な米国株の高値更新劇を演出していたとも考えられる。
しかし、前日に発表された10月米PPIは総合で前月比+0.6%と、9月の+0.5%から伸びが加速。変動の大きい食品とエネルギーを除くコアでも前月比+0.4%と、9月の+0.2%を上回った。ともに市場予想範囲内に収まっているものの、インフレ沈静化の兆しは未だに見られない。
足元の米金利(短中期~長期)の低下は、直近、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が利上げに慎重な姿勢を示したことや、英イングランド銀行が予想に反して利上げを先延ばしにしたことで、金利上昇を見込んでいた債券の売り方が急速に買い戻していることが大きな要因として考えられる。しかし、4日に一時1バレル=78ドル台まで急落したWTI原油先物価格は9日、再び1バレル=84ドル台にまで急上昇してきている。また、上述したように、金利低下が進むなかでも、米BEIは再び上昇しはじめてきている。足元の金利低下はあくまで需給要因によるもので、市場のインフレ懸念が後退したわけではない。
各国の金融政策関係者は、すでに供給制約に伴うインフレ高進は、来年まで続くとの見方を示しているため、足元の物価指標の結果が市場をかく乱する可能性は低いだろう。しかし、どの時点で、「インフレは一時的」とする政策関係者の考えや、これに基づく市場関係者の見方が修正を迫られるかは不透明だ。
こうした中、今晩は、10月米消費者物価指数(CPI)の発表が控えている。手掛かり材料に欠けるなか、結果を見極めたいとの思惑から、引き続き東京市場では積極的な押し目買いは手控えられそうだ。中国株や香港株も軟調ななか、後場の日経平均は引き続きもみ合い、弱含みでの推移とみておきたい。
<AK>
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