―水不足は半導体製造にも影響及ぼす、高い技術力持つ日本企業は世界にアドバンテージ―
アメリカ南西部が現在、「メガドラウト」と呼ばれる長く続く大規模な干ばつに見舞われている。また、フランスやスペイン、ポルトガルなどでも降雨量の減少から干ばつへの警戒が強まっており、農作物の生育などへの影響が懸念されている。
干ばつのような気候変動の激化だけではなく、人口の増大や長期的な経済発展などにより世界で水不足が問題になりつつあり、その解消に寄与する水ビジネスの市場はグローバルな拡大が見込まれる分野だ。日本には「水ビジネス」で世界に誇る技術を持つ企業が多くあり、これまで以上に関心を集めそうだ。
●世界で高まる「水」需要
世界の「水」に対する需要は年々増加している。OECD(経済協力開発機構)によると、世界の水需要は世界的な人口増加や経済発展を背景に、2050年には2000年比で約55%増えると予想されている。
一方、国連では30年までに世界の水資源の不足は必要量の40%に達するとみており、その対策は世界的に大きな課題となっている。国連が採択した「SDGs」(持続可能な開発目標)でも、目標6として「安全な水とトイレを世界中に」を掲げている。
経済産業省の「水ビジネス海外展開施策の10年の振り返りと今後の展開の方向性に関する調査」(21年3月)資料によると、世界の水ビジネスの市場規模は、19年は約72兆円だったが、30年には約117兆円に拡大することが予測されている。巨大市場のなかで、日本企業も以前の政府開発援助(ODA)を通じた事業から、近年では相手国やその国の自治体から、直接受注あるいは現地企業と共同で受注するケースが増えており、活躍の場を大きく広げている。
●中国の水ビジネス市場は30年に30兆円超へ
特に注目されているのは、上下水道インフラ整備や産業用水など、水の需要が高い中国や東南アジアだ。特に中国政府は、国を挙げて水環境整備を推進する方針を打ち出しており、農村部の生活環境改善に向けた5ヵ年計画には、農村部で衛生的なトイレを増やす「農村トイレ革命」の推進が明記されている。前述の経産省の資料によると、中国の水ビジネス市場は30年に30兆円を超え、20年比で倍増し、欧州を抜いて世界首位の北米(35兆円強)に次ぐ規模になる見通しだ。
日本企業もこの巨大市場への関心を高めており、住友商事 <8053> [東証P]は昨年12月、中国の水インフラ事業大手である北京キャピタルと連携を強化し、従来から共同運営している下水処理場3ヵ所に加えて、北京キャピタルが保有する29ヵ所を合わせて計32ヵ所の下水処理場を運営すると発表した。処理能力は1日約130万トンになる。同社では今後も下水処理場の案件開発を進め、30年までに処理能力を2倍の260万トンまで拡大する方針だ。
●工業分野でも水不足への対策が急務
また、水不足は工業分野へも大きな影響を与えかねない。前述のOECDの予想では、製造業の工業用水が00年から50年で400%増加するとみており、水需要増大の最大の牽引役になると見込む。
特に水不足の影響を不安視しているのは、半導体製造の分野だろう。半導体の生産工程では、ウエハーの清掃や洗浄に大量の水が使われるため、水不足は大きな影響を与えかねない。実際、昨年は世界の半導体生産能力の過半を占める台湾で、干ばつによる水不足から半導体製造の現場への影響が懸念される事態が起こった。昨年は影響が回避されたものの、同様の危機はまた起こる可能性があり、企業は排水の再利用などへの対応が急務となっている。
●水ビジネスの関連銘柄
日本にはいわゆる「水メジャー」のように水プラントのEPC(設計・調達・建設)から運用・保守まで一貫して提供する企業はないものの上水、下水、産業用水・その他、 海水淡水化など水ビジネスに関する各分野で世界トップレベルの技術を持つ企業が多くあり、注目はそうした企業になろう。
東レ <3402> [東証P]は、海水処理、廃水再利用など向けRO(逆浸透)膜の大手。今年1月には中国広東省の水処理膜の新工場で生産を開始し、中国におけるRO膜のシェア拡大を狙う。また、今年5月10日には、アラブ首長国連邦の世界最大の海水淡水化プラント向けにRO膜を受注したと発表した。中東では同様の海水淡水化プラントの設立計画が予定されており、同社も受注獲得に向けて攻勢をかけている。
野村マイクロ・サイエンス <6254> [東証P]は、電子機器や医薬品の生産に不可欠な「超純水」分野に特化した水処理装置専業メーカー。足もとでは旺盛な半導体設備投資を背景に韓国、中国・台湾の半導体関連企業からの受注が増加しており、22年3月期末の受注残高は174億円(前年同期比2.2倍)に増加。23年3月期も受注高460億円(前期比11.0%増)を見込む。
クボタ <6326> [東証P]は、22年12月期第1四半期(1-3月)で水・環境部門の売上高が875億円に上り全体の約15%を占めている。ダクタイル鉄管から水処理システムまで幅広い製品を手掛けているが、近年では米国の下水処理市場の開拓に力を入れており、昨年7月には米ジョージア州の水再生処理施設から下水処理システムを受注した。米国では自治体が処理水の水質改善に向けて設備更新を進めるところが多く、米国市場でシェア拡大を狙う。
酉島製作所 <6363> [東証P]は、海水淡水化プラントにおいて海水を汲み上げ、その海水を超高圧でろ過膜に送るといった工程を担うポンプを製造している。足もとは中東及び北アフリカでの海水淡水化や大規模灌漑案件が寄与し、22年3月期の受注高は679億円(前の期比38.3%増)に増加した。なお、23年3月期は前期に大型案件が相次いだ反動もあり、同570億円を見込む。
オルガノ <6368> [東証P]は、超純水から排水、プラントから小型水処理装置までを手掛ける総合水処理エンジニアリングの大手。22年3月期は国内、台湾に続き中国、米国で半導体関連の大型プロジェクトを受注し、受注高は1356億円(前の期比43.5%増)に膨らんだ。前期に国内外で大型案件が集中した反動で23年3月期の受注高は1250億円とやや減少を見込むも、引き続き高水準の受注を予想している。
栗田工業 <6370> [東証P]は、超純水製造装置やろ過装置、排水処理装置、海水淡水化装置などに加え、水処理薬品を手掛ける総合水処理の大手。22年3月期は、中国、韓国、台湾などでの電子産業向け受注が増加し、水処理装置事業の受注高は1968億円(前の期比23.9%増)に増加。23年3月期は前期に大型案件を受注した反動で同1930億円と伸び悩むが引き続き高水準の受注を予想する。
日東電工 <6988> [東証P]は東レ、東洋紡 <3101> [東証P]などと並ぶRO膜大手で、18年にはシンガポール初となる海水と貯水池の2種類を水源とする水処理プラント向けにRO膜を受注した。同国は国土が狭く、雨水を貯めにくいため、排水再利用、海水淡水化の割合を増加させることで水資源確保を強化しているが、他の新興国でも同様に工場などからの排水を再利用する動きが強まっている。同社ではこれに対応するため、滋賀事業所(滋賀県草津市)で排水・廃液を製造工程に再利用する取り組みを行っており、新興国などでの新たな商機につなげる方針だ。
このほか、ポンプ総合メーカーの荏原 <6361> [東証P]や海水淡水化プラント建設で実績を多く持つ日立造船 <7004> [東証P]、海水淡水化装置の専門メーカーであるササクラ <6303> [東証S]などにも注目したい。
株探ニュース
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