1. 新中期経営計画「マスタープラン2022」を策定
精工技研<6834>が2016年4月に策定した「マスタープラン2016」(2017年3月期~2022年3月期)では、米中貿易摩擦・コロナ禍などの外部環境の悪化による業績減速、新製品リリースや新規顧客開拓の遅れなどにより、経営目標は未達となるなど、課題を残した。達成できなかった課題の解決とさらなる50年先の持続的成長のために、2022年5月に新中期経営計画「マスタープラン2022」(2023年3月期~2027年3月期)を発表した。
新中期経営計画の「顧客接点の活性化」「新製品・新技術開発の加速」「ものづくり力の強化」「経営基盤の強化」を基本戦略に、同社は今後進化・発展が期待される「情報通信」「自動車」「医療・バイオ」の分野に注力し、企業成長を目指す。そして「マスタープラン2016」で達成できなかった経営目標値の達成に再挑戦する。経営目標は、2027年3月期に売上高25,000百万円、営業利益2,500百万円以上、営業利益率10%以上とすることを掲げている。精機関連事業の売上高は11,500百万円、光製品関連事業の売上高は13,500百万円としている。
2. 基本戦略
(1) 顧客接点の活性化
同社の事業領域において、情報通信・エレクトロニクス関連市場における5Gの商用化やAI・IoTの活用によるDXの市場拡大に加えて、自動車関連市場におけるCASEによる加速的な技術革新が広がりつつある。こうした「Change(=環境の変化)」を「Growth(=成長の機会)」と捉え、他社に先駆けて対応策を実行していく。具体的な施策として、1)顧客との濃密で質の高いコミュニケーションを通じ、市場のニーズと同社グループの技術や製品の接点を把握すること、2)既存顧客との取引シェアをさらに拡大するため、顧客の経営課題や技術課題を共有すること、3)新規顧客開拓のため、展示会への出展、新聞・雑誌等へのプレスリリース、ホームページの活用などにより、同社グループの技術や製品の積極的な広報に注力、を挙げている。これにより市場での認知度を高めていく戦略である。
「マスタープラン2022」の初年度となる2023年3月期は、光関連の専門展示会で国内最大級である「OPIE’2022(OPTICS PHOTONICS International Exhibition 2022)」への初出展を含め国内外の展示会に10回出展した。また同社ホームページの活用などを通じて新しい顧客と出会う機会を作り、商談数を増やすことに注力した。2024年3月期以降も継続して行う予定である。
また2023年6月に、不二電子工業がインドのRADIANT POLYMERS Private Limited(以下、Radiant)に資本出資し、技術面・販売面で協業することを決定した。Radiantはインドの有力な自動車部品メーカーである。同社のねらいは、日本・欧州・北米・南米・アジアの自動車メーカーやTier1※を顧客基盤に持つRadiantとの協業によりインドの自動車市場への参入を図り、新たな顧客接点を創出することである。今回の出資を足掛かりにインドへの事業展開を本格化する意向を示している。
※Tier2、Tier3と異なり上位の部品サプライヤーを指し、自動車メーカーに直接部品やシステムを供給する。
(2) 新製品・新技術開発の加速
同社は新製品や新サービスを通じて顧客の成長を支援し、社会の維持継続や社会の進歩発展に貢献し、企業成長へつなげる考えである。その施策が次の3点である。1)顧客とのコミュニケーションを通じて、市場の情報を捉え製品開発自体が社会に役立つ姿を検証する、2)新製品や新技術の開発状況を社内共有することで開発期間のマネジメントを強化する、3)各開発案件の目的やターゲット市場、想定される業績に与えるインパクトを共有し、開発担当者の意識向上を促進する。そして、2027年3月期には連結売上高に占める新製品比率を30%以上とする目標を掲げている。より幅広い領域での社会貢献を可能とするために技術力の研鑽や市場ニーズに合った製品開発を続けていく。
2023年3月期の新製品・新技術開発における主な成果として、「30GHz 帯アナログ光ファイバリンクシステム」「型内塗装技術」がある。「30GHz 帯アナログ光ファイバリンクシステム」は、2023年1月に国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)発のスタートアップ企業である7Gaa(セブンジーツーエー)(株)とローカル5G関連ビジネスに関する業務提携を行った成果である。共同で販売を開始した。ローカル5Gは通信キャリアに依存しないことから、外部環境に左右されることなく、超高速・大容量、超低遅延、多数同時接続を特徴とする通信環境を安定的に確保できることに加え、セキュリティ面でも強いことから、多くの国内外企業や自治体が導入を検討している。同システムは超小型・軽量・低消費電力・低損失などの特長があり、ローカル5Gを容易に導入するツールとして、今後の販売拡大が期待される。
「型内塗装技術」は、小型部品向けの新しい塗装技術である。(株)東海理化との共同で新開発したことを2023年2月に発表した。「型内塗装技術」は、金型内部で成形から塗装までを一貫して行うことにより、従来の工法にある塗装工程や乾燥工程を削減することができる。これにより自動車部品の製造においては生産効率が向上するのみならず、CO2排出量を約60%削減し、工場スペースを約80%縮小することができた。将来的には様々な業界で使用される樹脂成形品の金型などに応用が可能で、同社が同技術に寄せる期待は大きい。
(3) ものづくり力の強化
同社は、1)AI、自動化などによる生産効率の向上、2)安くて良い部材の安定調達、3)顧客要求に応える品質の維持、の3つの戦略を軸にものづくり力を高め、自社の製造・生産能力の増強に努めていく。
日本の労働環境は、少子高齢化により生産人口が減少している。中国においては経済成長に伴い労働者への賃金が上昇を続けている。同社はこうした状況に対応するため、省人化や生産効率の向上並びに収益の向上を目的に、成形品や光コネクタなどの自動製造装置の自社開発を推進している。これまでに、車載用成形品のバリ取り工程や検査工程の自動機や、新型光コネクタ「Intelli-Cross Pro」の組立から検査・梱包までを一貫して行う自動組立装置を開発した。今後はAIやIoTの活用も視野に、自動製造装置の機能向上に取り組んでいく。
足元では半導体や樹脂材料の供給不足、コロナ禍やウクライナ情勢など、外部環境の変化により、物流の混乱や資源価格の高騰が発生している。同社は安くて良い部材の安定調達が可能となるよう取引先との良好な関係を維持し、物流においても高効率なサプライチェーンの構築に取り組む方針である。
さらに日本と中国の生産拠点における品質の統一性の確保や維持・向上を目的に、2020年3月期よりグローバル品質会議を開催している。顧客が求める仕様を満たす商品を安定的に供給できる品質管理体制への取り組みは、外部のマイナス影響にも揺さぶられない体制づくりにもつながるとして今後期待される。
同社は、2023年3月に新たな製造拠点として、タイに連結子会社SEIKOH GIKEN (Thailand)を設立した。光通信用部品の量産体制の強化、ASEAN周辺諸国への拡販体制の強化、ASEAN周辺諸国における優良サプライヤーの開拓などが主な目的である。2025年3月期より本格的な量産体制に入る予定で、これにより量産可能な拠点は中国・日本・タイの3ヶ国となる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)
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