1. mRNA創薬パイプライン
既述のとおり、ナノキャリア<4571>はビジネスモデルを変更し、原則として自社での後期臨床試験を行わず、自社が資金拠出する場合は第I相臨床試験の実施による損失は避けることとした。一方、国や他社からの資金援助がある場合は、CRO※を活用して臨床試験を実施する。この方針に基づき、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)から開発資金を得ているRUNX1 mRNA及びTUG1 ASOは、医師主導の第I相臨床試験まで行う。
※Contract Research Organizationの略で、開発業務受託機関のこと。
(1) RUNX1 mRNA(変形膝関節症治療薬)
同社がmRNA医薬として開発を進めているRUNX1 mRNA医薬(膝軟骨再生)は、軟骨誘導性転写因子RUNX1を発現するmRNAを、関節腔内に直接投与し損傷した軟骨の再生を促進する変形性膝関節症の新しいタイプの治療薬である。医師主導第I相臨床試験完了までの開発資金をAMEDから得て、アクセリードと本件開発のための合弁会社PrimRNAを2021年4月に共同設立、事業を開始しており、臨床試験開始のための準備を進めている。アクセリードとの協業は、傘下にある非臨床試験で世界的に実績のある企業との協業や治験薬製造委託先なども含め、本開発の大きな推進力となっている。
(2) 新パイプライン(A~E)
感染症ワクチンだけではなく、免疫疾患を対象とするワクチンも開発している。また、眼科、耳鼻科など、新たな領域でもmRNA医薬の開発が期待される。開発期間が2~3年程度の短期間となっているが、mRNAの構造は低分子と異なり一定しており、ターゲットが決定すれば、構造設計やDDSの選択などは比較的簡単であることによる。
(3) 新パイプライン(F~J)の創出
新パイプラインの創出には、どのような疾患領域や疾病を対象にするかの専門スキルと経験が求められる。このため、外部から積極的にシーズを導入する方針だ。世界の大手企業などとつながりを持つアクセリードの情報からターゲットへの関心度などを探りながらmRNA候補を創出することもでき、mRNA医薬品の研究開発・製造に関する包括的協業関係契約締結の効果も期待できる(詳細は後述)。
2. mRNA以外の開発パイプライン
(1) ENT103(中耳炎)
ENT103(中耳炎)は、セオリアファーマ(株)と共同開発した耳科用抗菌薬である。日本市場において四半世紀ぶりとなる本格的な治験が実施された新規耳科用抗菌点耳薬で、既存薬の代替を目指している。国内における中耳炎を対象とした第III相臨床試験において中耳炎の臨床所見を改善し、2022年4月にセオリアファーマが外耳炎及び中耳炎を対象に国内製造販売承認申請を行った。薬事承認及び薬価収載を経て2023年度前半に販売開始予定である。
(2) TUG1 ASO(膠芽腫)
TUG1 ASO医薬(膠芽腫)は、悪性脳腫瘍である膠芽腫により多く存在するTUG1の働きを抑制するASO(アンチセンスオリゴ)医薬である。膠芽腫は治療法がなく、新たな治療薬の提供が求められている領域である。本件は、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学との共同研究プロジェクトで、AMEDの「革新的がん医療実用化研究事業」に採択されている。現在、治験薬の製造法の確立と非臨床試験を実施しており、2023年度末ごろに臨床試験に入る計画だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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