S&P500月例レポート(22年6月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2022年5月
個人的見解:(今のところ)強気派はまだ退出していない
弱気派はこれまでも ―― そして今もなおドアをノックしています。5月最終週に(1週間の上昇率としては2020年11月以来となる)6.58%の反発をみせたことで、5月のS&P500指数の月間騰落率は(テクニカルに)プラス(0.01%)となりました。S&P500指数は幾度となく弱気相場入りしそうになり、実際に取引時間中に付けた数値で算出した騰落率では弱気相場に突入する場面もありました(2022年1月4日の4818.62から3810.32を付けた5月20日の騰落率はマイナス20.93%)が、終値ベースでは弱気相場入りすることはありませんでした(2020年1月3日の終値4796.56から5月20日の終値3900.79までの騰落率はマイナス18.68%)。1週間の騰落率が連続してマイナスとなる流れも続きましたが、連続記録の更新には至りませんでした。
S&P500指数は7週連続で前週末比で下落しましたが(累積下落率は14.18%)、こうした状況は1928年以降で4回しか起こっていません。直近では2001年3月(15.53%下落)に起こりました。また、これまでに1度限りではありますが、1923年には9週連続の下落を記録しています(なお、当時は土曜日も株式市場では取引が行われていました)。5月の株式市場は20日時点の取引時間中に月初から7.78%下落していましたが、最終週に上昇したおかげで月間騰落率は0.01%のプラスとなりました。しかしながら、年初来の騰落率はマイナス圏に深く沈んだままです(13.30%下落)。ストラテジストはガソリン価格の上昇よりも早いスピードで目標株価を引き下げました。
経済指標も大幅な物価上昇を示しています(4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.3%上昇、卸売物価指数(PPI)は同12.0%上昇、輸入物価は同12.9%上昇)。住宅市場は減速しており(4月の中古住宅販売件数は前年同月比5.9%減、ただし住宅価格は14.8%上昇して過去最高を更新)、小売企業の利益も消費手控えの動きから減少しています。一段と悪化しているのは企業のガイダンスで、企業はコスト増を予想すると同時に、コストの価格への転嫁には「限界」があることを認めています(とはいえ、営業利益率は2022年1-3月期も引き続き高水準を維持しており、過去平均の8.21%に対して11.97%となっています)。また、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、中立金利を超える水準まで金利を引き上げる必要性が生じる可能性があること(とはいえ、おそらくは一時的な措置?)が示されました。
その一方で、いつもながら対照的とも言える明るい材料も同時にあります。インフレのピークアウトの兆候が増しており、その原因の1つとして無駄な抵抗ではなく、景気後退的な抵抗が指摘されています。株式市場には確かに下値抵抗線が存在しているように思われ(この先再び、下値抵抗力の強さが試される展開となるかもしれません)、企業は明らかに(コロナの影響から先送りされていた)設備投資に着手しようとしているようです。(ADP全米雇用統計の月間雇用者数によると)雇用も高水準を維持しており、家計部門のレジャー用品や旅行に対する支出意欲も依然として旺盛です(こうした動きは最終的にはコロナ下での消費低迷からの一時的な反動として再分類される可能性があります)。
S&P500指数は5月に0.01%上昇しました。4月は8.80%下落し、年初来の騰落率は13.30%のマイナスとなっています。消費者のインフレへの警戒感と、投資家の間での企業業績に対する懸念が背景にありました。「我々」は例外なく経済がこの先減速していくことを理解しており、それが現実化したことが相場下落の要因となりました(株価が下落する中、買い手は手仕舞い売りに励んでいます)。S&P500指数が3800を上回る水準に踏みとどまった際の2022年予想株価収益率(PER)が 17.0倍となっていること(現在の予想PERは18.5倍)、さらに2022年の1株当たり利益(EPS)予想は7.5%増が見込まれることは、(ドルコスト平均法によって購入コストがさらに低く抑えられるとの確信から)長期保有を検討している買い手にとっては魅力的です。
現在は、さらなる悪材料が控えています(インフレ、金利、現在の供給不足、そしてこの先中国で都市封鎖が解除された後の供給の反発)。こうした問題は買い手の資金力を試すほか、さらにはインフレ/供給問題が解消したか、もしくは解消されつつあり、2023年にはまた日が昇る(そして株価も高値を更新する)というストーリーを売り込む強気派の手腕も試されることになると思われます。おそらく当面は、「株式投資」を検討している人には流動性とボラティリティの上昇(そして潜在的な損失の拡大)を乗り切れる能力が求められます。リスクとリターンの新たなトレードオフに関しては、これまでは配当株が標準的なインカム重視の投資家以外の市場参加者にも選好され、(相対的に)買われてきましたが、こうした新参の投資家はおそらくは長期投資を志向しておらず、相場の風向きが成長株にシフトした時には、彼らが売りを膨らませるかもしれません。
過去の実績を見ると、5月は58.5%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.13%、下落した月の平均下落率は4.68%、全体の平均騰落率は0.11%の下落となっています。2022年5月のS&P500指数は、0.01%の上昇となりました。
6月は56.4%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.85%、下落した月の平均下落率は3.17%、全体の平均騰落率は0.78%の上昇となっています。
今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2022年6月14日-15日、7月26日-27日、9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日となっています。
S&P500指数は5月に0.01%上昇して4132.15で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス0.18%)。4月は4131.93で終え、8.80%の下落(同マイナス8.72%)、3月は4530.41で終え、3.58%の上昇(同プラス3.71%)でした。過去3ヵ月では5.53%下落(同マイナス5.16%)、年初来では13.30%の下落(同マイナス12.76%)、過去1年間では1.71%下落(同マイナス0.30%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは22.03%上昇(同プラス26.52%)して月を終えました。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は、0.04%上昇の3万2990.12ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス0.33%)。4月は3万2977.21ドルで終え、4.91%の下落(同マイナス4.82%)、3月は3万4678.35ドルで終え、2.32%の上昇でした(同プラス2.49%)。過去3ヵ月では2.66%下落(同マイナス2.14%)、年初来では9.59%の下落(同マイナス8.43%)、過去1年間では4.46%下落(同マイナス2.65%)しました。
主なポイント
○5月に入っても株式市場の下落基調は続き、市場の下落率は弱気相場と定義される20%の下落に迫りました。しかし、その後、最終週に入って株価は力強く反発しました。インフレにピークアウトの兆候が見られたことから、予想以上に早く消費行動が持ち直してくることに投資家が関心を向けるようになって買いが入った結果、5月の市場の騰落率はプラスとなりました(そして、弱気相場入りを回避しました)。
⇒4月に8.80%下落した株式市場は、5月は0.01%上昇しました。また、7週連続で前週末比で株価が下落しました。
⇒5月20日までの市場の下落の根底には、物価上昇により消費者が支出ペースを鈍化させていることを示す小売業者のデータと、米連邦準備制度理事会(FRB)が予想よりも早いペースで利上げを進めるとの確信が強まったことがありました。FRBの利上げペースに関しては、それまでの0.50%、場合によっては0.75%の利上げもあり得るとの見方に代わって、0.75%の利上げ、なかには1.00%に言及する声も聞かれました。5月20日を過ぎると、市場は反発に転じました。インフレは恐らくピークアウトし、経済の基調は依然として力強く(そして豊かで)、支出(そして収益性)を十分に後押しするものだとする証左が増えてきたことが背景にあります。
⇒S&P500指数の日々のボラティリティは、大幅に上昇しました。日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の平均値は2.41%(2020年3月の5.34%以来の高水準)となりました。4月は1.81%、3月は1.70%、2月は1.87%(2021年は0.97%)でした。年初来では平均1.96%となっています。
⇒S&P 500指数の5月の騰落率は0.01%の上昇となりました(配当込みトータルリターンはプラス0.18%)。4月は8.80%下落(同マイナス8.72%)、3月は3.58%上昇(同プラス3.71%)、2月は3.14%下落(同マイナス2.99%)、1月は5.26%下落(同マイナス5.17%)でした。過去3ヵ月では5.53%下落(同マイナス5.16%)、年初来では13.30%下落(同マイナス12.76%)となりました。弱気相場入り(直近高値から20%下落)に近づいたものの、調整局面(10%下落)で踏みとどまりました。
⇒コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは22.03%上昇し(同プラス26.52%)、その期間に終値ベースで90回、最高値を更新しました。
⇒バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は22.65%上昇(同プラス25.55%)しました(2021年1月20日のバイデン大統領就任後に69回、最高値を更新しています)。
⇒2020年3月23日の底値からの強気相場では84.69%上昇しています(同プラス91.09%)。
⇒同指数は、2022年1月3日に付けた終値での最高値である4796.56から13.31%下落して月を終えました。
○時価総額で97%超に相当する489社が2022年第1四半期決算を終え、377銘柄(77.1%)で営業利益が予想を上回り、97銘柄が予想を下回り、15銘柄は予想通りでした。売上高は488銘柄中352銘柄(72.1%)で予想を上回りました。2022年第1四半期のEPSは、過去最高となった2021年第4四半期から12.7%減益、2021年第1四半期からは4.4%増益が予想されています。
利回り、金利、コモディティ
○米国10年国債利回りは、4月末の2.93%から(3.21%に上昇した後)2.85%で月末を迎えました(2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは、4月末の3.00%から3.06%に上昇して取引を終えました(同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは3月末の1ポンド=1.2576ドルから1.2602ドルに上昇し(同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは4月末の1ユーロ=1.0550ドルから1.0732ドルに上昇しました(同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は4月末の1ドル=129.85円から128.73円に上昇し(同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は4月末の1ドル=6.6085元から6.6725元に下落しました(同6.3599元、同6.5330元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
○5月末時点の原油価格は1バレル=115.12ドル(今年に入ってから一時同130.50ドルまで上昇)、年初来の上昇率は52.7%(2021年末は同75.40ドル)となりました。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は年初来で40.1%上昇しました(2021年末の1ガロン=3.375ドルから2022年5月末には同4.727ドルに上昇)。2020年末から原油価格は138%上昇し(2020年末は同48.42ドル)、ガソリン価格は103%上昇しました(2020年末は同2.330ドル)。EIAは2021年のガソリン価格の内訳について、53.6%が原油、16.4%が連邦税および州税、15.6%が販売・マーケティング費、そして14.4%が精製コストと利益だと説明しています。
○金価格は4月末の1トロイオンス=1896.40ドルから下落して1840.60ドルで月の取引を終えました(同1829.80ドル、同1901.60ドル、同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は4月末の33.40から26.19に下落して月を終えました。月中の最高は36.64、最低は24.94でした(同17.22、同22.75、同13.78、同16.12、同11.05)。
⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。
⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。
ウクライナ情勢と市場
○200年近く、軍事的中立の立場を取ってきたフィンランドとスウェーデンが、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月24日)を理由に、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請する意向を示しました。
○ロシアはフィンランドへの天然ガスの供給を停止しました。
○EU各国首脳は、ウクライナ侵攻に対する制裁措置の一環として、ロシア産原油の輸入を一部禁止することで合意しました。禁輸は、加盟27ヵ国の承認を経て6ヵ月後に発効し、海上輸送による輸入が対象とされ、パイプライン経由の原油は暫定的に禁輸の対象外となります。
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