■業績予想
2. 事業戦略
これまで述べてきたように、きっかけはコロナ禍と言えるかもしれないが、5GやIoTの時代へ向けた動きが本格化し、動画配信需要が立ち上がってきた。すそ野も広がりつつあり、5GやIoT、AIなどに関連する技術開発も規模が大きく息が長い。このため「J-Stream Equipmedia」を中心とした配信プラットフォームや「J-Stream CDNext」などの配信ネットワーク、商品・サービス開発力、蓄積されたノウハウなど、Jストリーム<4308>の動画配信に関わる商品・サービスへの需要もますます大きく、息が長くなっていくと見られる。このため、同社は2022年3月期下期以降、中期的に経営ビジョンに基づく事業戦略を強力に展開する考えであるとしている。ただし、すそ野が広がる分、競争はより激しくなっていくことが予想されるため、同社は高品質化など付加価値の高い分野にフォーカスする考えである。一方、動画の活用があらゆるビジネスシーンで急速に広がるなか、動画配信機能だけでは解決できない顧客の課題を、有力なSaaSなどとの連携を通じて解決していくことも同社は考えている。
(1) 高品質化を志向するOTT領域の事業戦略
動画配信が一般化・高速化するにつれ、高品質な配信のニーズも強まっている。2021年7月に、実証実験的な側面もあるが、宝塚歌劇星組舞浜アンフィシアター公演 「REY’S Special Show Time『VERDAD(ヴェルダッド)!!』—真実の音—」を、(株)NTTドコモが開発した世界初の「8Kウルトラズーム」でライブ配信する際、必要となるサーバーからライブディレクションや当日の現場エンコード、CDNなどの仕組みを同社がワンストップで提供した。また電子楽器大手の(株)コルグとコラボレーションし、業界史上最高音質のインターネット動画配信システム「Live Extreme」の提供を2021年9月に開始した。「Live Extreme」と同社のCDNを組み合わせて、最大4Kの高解像度映像とともに、高音質なロスレス・オーディオやより高品位なハイレゾ・オーディオ(最大PCM384kHz/24bit及びDSD5.6MHz)の低遅延で臨場感あふれる高音質・高品位なインターネットライブを配信した。同社は、吉本興業ホールディングス(株)の完全子会社BSよしもと(株)へ第三者割当増資の引受による出資を行った。放送同時配信(サイマル放送)や見逃し配信などの面でBSよしもとのインターネット配信をサポートするほか、制作から配信やマネタイズなどバリューチェーン全体のノウハウを蓄積していく考えである。
(2) デジタル化支援の医薬業界のEVC領域の事業戦略
EVC領域のなかで同社が最も重視しているのが、同社の売上高で大きな割合を占める医薬業界である。医薬業界の中長期的課題は、薬価の引き下げや後発医薬品の普及による国内市場の競争激化、医薬品プロモーションコードの変更による非対面営業の増加である。まさに、コロナ禍の影響でMR※1の対面営業が制限されたことで、ライブ配信、専門誌を活用した非対面営業へとプロモーション戦略を転換する必要性が生じている。Web講演会に関しては、集客やコーディネートを含めたトータル受注へ向けて専任チームの設置などグループの体制を強化している。小規模な講演会ではMRによるセルフ運営が広がっていることもあり、子会社のクロスコで「講演会シンプルオンラインパック」を用意した。今後、イベントのリアルとオンラインのハイブリッド開催の増加が予測されていることから、イベントの準備から参加者管理から来場受付管理まで、イベント運営に必要な機能を備え一元管理できるソリューション「ハイブリッドイベント管理システム」の提供を開始した。さらに、同社は業界のプロモーションコスト構造の見直しにまで踏み込んで、同社は医薬業界のデジタルマーケティングシフト支援を行っている。このため、Web講演会視聴ログを活用することで製薬企業が実施するWeb講演会の実施結果を定量的に振り返り・分析できるDMP※2「WebinarAnalytics」の提供も開始した。
※1 MR(Medical Representatives):医師に自社の薬の成分や使用方法、効能について説明するメーカー側の医薬情報担当者のこと。
※2 DMP(Data Management Platform):個人のWeb閲覧や動画視聴履歴、商品購入、問い合わせといったWeb上の行動をデータとして蓄積するプラットフォーム。これにより、各人に適切な広告を配信するなど企業のマーケティングに役立てることができる。
(3) イベント・セミナー支援を強めるその他の業種のEVC領域の事業戦略
「J-Stream Equipmedia」に関して機能向上など常にバージョンアップが重ねられているが、今後も企業ユーザーの利用拡大や多数の視聴が見込まれる企業の大規模イベントニーズに対応していく。大量配信や費用負担に配慮した従来3つのプラン(Startup、Business、Expert)より上位となる新プラン「Enterpriseエディション」を投入した。「J-Stream Equipmedia」以外にも、ZoomやMicrosoft Teams、Google Meetなど小規模ウェビナー向けセミナーパッケージ「講演会シンプルオンラインパック」を導入した。また、社内情報共有の大規模化が進む大企業ではCDNの社内需要が広がっており、「Kollective SD ECDN」の大口成約が増加傾向にある。ほかにも、BtoBオンラインイベントの運営・管理を支援するイベント管理システムである(株)スプラシア製「EXPOLINE」と「J-Stream Equipmedia」の連携を開始するほか、ライブ配信イベントの高品質化ニーズに対して正確で低遅延の字幕を提供する(株)フジミック製「リアルタイム字幕挿入サービス」と連携し、社内作成の動画をレベルアップしたいというニーズに対して、コンテンツの企画・制作からイベント現場での撮影までを技術的にサポートする「オンラインイベント演出パッケージ」を投入するなど、積極的に事業展開している。
時代に先行する強力な商品サービス開発力により中長期成長を期待
3. 中期成長イメージ
以上のとおり同社は常に時代に先行した商品・サービスを提供し、付加価値の高い「J-Stream Equipmedia」や「J-Stream CDNext」の販売に結びつけてきた。今後もそうした事業戦略に変わりはないが、足元で「5G+MEC※1」や「CDNキャッシュのAI活用※2」といった次世代技術に、前者は各通信キャリア、後者は総務省とともに取り組んでいる。常に将来をにらんだ同社らしい積極的な取り組みと言える。一方、動画配信市場の拡大に伴うコモディティ化による競争激化、無料配信というビジネスモデルの可能性、一般企業による動画制作の内製化、医薬など特定の業界への高い依存度といったリスクが将来的に予想される。しかし同社には「J-Stream Equipmedia」「J-Stream CDNext」「ライブ配信サービス」といった強みに加え、そうした時代に先行する強力な商品サービスの開発力をはじめとする最新技術や高機能化への対応力、経験豊富な運用サポート・現場対応力を含めたワンストップソリューションなど、長年積み上げてきた優位性がある。このため、同社にとって動画配信市場の拡大は、リスクの広まり以上に同社への追い風になることが予想される。加えて人員の増強やM&Aの効果も見込まれることから、同社には中長期的な高成長を期待したい。
※1 MEC(Multi-access Edge Computing):エリアごとにサーバーの代わりをするコンピューターを置くことで端末へのレスポンスを早くしようという技法。5Gモバイル端末のみならず、IoT機器やWi-Fi端末からもアクセスが可能。
※2 CDNキャッシュのAI活用:注目度が低くCDNのキャッシュ効率が低いニッチコンテンツ(ロングテール)のキャッシュ効率をAIによって改善する取り組み。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
<EY>
2. 事業戦略
これまで述べてきたように、きっかけはコロナ禍と言えるかもしれないが、5GやIoTの時代へ向けた動きが本格化し、動画配信需要が立ち上がってきた。すそ野も広がりつつあり、5GやIoT、AIなどに関連する技術開発も規模が大きく息が長い。このため「J-Stream Equipmedia」を中心とした配信プラットフォームや「J-Stream CDNext」などの配信ネットワーク、商品・サービス開発力、蓄積されたノウハウなど、Jストリーム<4308>の動画配信に関わる商品・サービスへの需要もますます大きく、息が長くなっていくと見られる。このため、同社は2022年3月期下期以降、中期的に経営ビジョンに基づく事業戦略を強力に展開する考えであるとしている。ただし、すそ野が広がる分、競争はより激しくなっていくことが予想されるため、同社は高品質化など付加価値の高い分野にフォーカスする考えである。一方、動画の活用があらゆるビジネスシーンで急速に広がるなか、動画配信機能だけでは解決できない顧客の課題を、有力なSaaSなどとの連携を通じて解決していくことも同社は考えている。
(1) 高品質化を志向するOTT領域の事業戦略
動画配信が一般化・高速化するにつれ、高品質な配信のニーズも強まっている。2021年7月に、実証実験的な側面もあるが、宝塚歌劇星組舞浜アンフィシアター公演 「REY’S Special Show Time『VERDAD(ヴェルダッド)!!』—真実の音—」を、(株)NTTドコモが開発した世界初の「8Kウルトラズーム」でライブ配信する際、必要となるサーバーからライブディレクションや当日の現場エンコード、CDNなどの仕組みを同社がワンストップで提供した。また電子楽器大手の(株)コルグとコラボレーションし、業界史上最高音質のインターネット動画配信システム「Live Extreme」の提供を2021年9月に開始した。「Live Extreme」と同社のCDNを組み合わせて、最大4Kの高解像度映像とともに、高音質なロスレス・オーディオやより高品位なハイレゾ・オーディオ(最大PCM384kHz/24bit及びDSD5.6MHz)の低遅延で臨場感あふれる高音質・高品位なインターネットライブを配信した。同社は、吉本興業ホールディングス(株)の完全子会社BSよしもと(株)へ第三者割当増資の引受による出資を行った。放送同時配信(サイマル放送)や見逃し配信などの面でBSよしもとのインターネット配信をサポートするほか、制作から配信やマネタイズなどバリューチェーン全体のノウハウを蓄積していく考えである。
(2) デジタル化支援の医薬業界のEVC領域の事業戦略
EVC領域のなかで同社が最も重視しているのが、同社の売上高で大きな割合を占める医薬業界である。医薬業界の中長期的課題は、薬価の引き下げや後発医薬品の普及による国内市場の競争激化、医薬品プロモーションコードの変更による非対面営業の増加である。まさに、コロナ禍の影響でMR※1の対面営業が制限されたことで、ライブ配信、専門誌を活用した非対面営業へとプロモーション戦略を転換する必要性が生じている。Web講演会に関しては、集客やコーディネートを含めたトータル受注へ向けて専任チームの設置などグループの体制を強化している。小規模な講演会ではMRによるセルフ運営が広がっていることもあり、子会社のクロスコで「講演会シンプルオンラインパック」を用意した。今後、イベントのリアルとオンラインのハイブリッド開催の増加が予測されていることから、イベントの準備から参加者管理から来場受付管理まで、イベント運営に必要な機能を備え一元管理できるソリューション「ハイブリッドイベント管理システム」の提供を開始した。さらに、同社は業界のプロモーションコスト構造の見直しにまで踏み込んで、同社は医薬業界のデジタルマーケティングシフト支援を行っている。このため、Web講演会視聴ログを活用することで製薬企業が実施するWeb講演会の実施結果を定量的に振り返り・分析できるDMP※2「WebinarAnalytics」の提供も開始した。
※1 MR(Medical Representatives):医師に自社の薬の成分や使用方法、効能について説明するメーカー側の医薬情報担当者のこと。
※2 DMP(Data Management Platform):個人のWeb閲覧や動画視聴履歴、商品購入、問い合わせといったWeb上の行動をデータとして蓄積するプラットフォーム。これにより、各人に適切な広告を配信するなど企業のマーケティングに役立てることができる。
(3) イベント・セミナー支援を強めるその他の業種のEVC領域の事業戦略
「J-Stream Equipmedia」に関して機能向上など常にバージョンアップが重ねられているが、今後も企業ユーザーの利用拡大や多数の視聴が見込まれる企業の大規模イベントニーズに対応していく。大量配信や費用負担に配慮した従来3つのプラン(Startup、Business、Expert)より上位となる新プラン「Enterpriseエディション」を投入した。「J-Stream Equipmedia」以外にも、ZoomやMicrosoft Teams、Google Meetなど小規模ウェビナー向けセミナーパッケージ「講演会シンプルオンラインパック」を導入した。また、社内情報共有の大規模化が進む大企業ではCDNの社内需要が広がっており、「Kollective SD ECDN」の大口成約が増加傾向にある。ほかにも、BtoBオンラインイベントの運営・管理を支援するイベント管理システムである(株)スプラシア製「EXPOLINE」と「J-Stream Equipmedia」の連携を開始するほか、ライブ配信イベントの高品質化ニーズに対して正確で低遅延の字幕を提供する(株)フジミック製「リアルタイム字幕挿入サービス」と連携し、社内作成の動画をレベルアップしたいというニーズに対して、コンテンツの企画・制作からイベント現場での撮影までを技術的にサポートする「オンラインイベント演出パッケージ」を投入するなど、積極的に事業展開している。
時代に先行する強力な商品サービス開発力により中長期成長を期待
3. 中期成長イメージ
以上のとおり同社は常に時代に先行した商品・サービスを提供し、付加価値の高い「J-Stream Equipmedia」や「J-Stream CDNext」の販売に結びつけてきた。今後もそうした事業戦略に変わりはないが、足元で「5G+MEC※1」や「CDNキャッシュのAI活用※2」といった次世代技術に、前者は各通信キャリア、後者は総務省とともに取り組んでいる。常に将来をにらんだ同社らしい積極的な取り組みと言える。一方、動画配信市場の拡大に伴うコモディティ化による競争激化、無料配信というビジネスモデルの可能性、一般企業による動画制作の内製化、医薬など特定の業界への高い依存度といったリスクが将来的に予想される。しかし同社には「J-Stream Equipmedia」「J-Stream CDNext」「ライブ配信サービス」といった強みに加え、そうした時代に先行する強力な商品サービスの開発力をはじめとする最新技術や高機能化への対応力、経験豊富な運用サポート・現場対応力を含めたワンストップソリューションなど、長年積み上げてきた優位性がある。このため、同社にとって動画配信市場の拡大は、リスクの広まり以上に同社への追い風になることが予想される。加えて人員の増強やM&Aの効果も見込まれることから、同社には中長期的な高成長を期待したい。
※1 MEC(Multi-access Edge Computing):エリアごとにサーバーの代わりをするコンピューターを置くことで端末へのレスポンスを早くしようという技法。5Gモバイル端末のみならず、IoT機器やWi-Fi端末からもアクセスが可能。
※2 CDNキャッシュのAI活用:注目度が低くCDNのキャッシュ効率が低いニッチコンテンツ(ロングテール)のキャッシュ効率をAIによって改善する取り組み。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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