とれんど捕物帳 ドル円は膠着続く 今回の危機でサプライチェーンに変化はあるのか
今週のドル円はやや買いが優勢となり108円台にタッチする場面も見られたものの、上値を維持できずに107円台に戻す展開となった。期待と警戒感で市場はそれなりに上下動していたものの、ドルと円が同方向に反応することから、107円台での膠着した展開に終始している。慎重な見方も少なくないものの、市場の経済再開への期待感は高い。景気回復の程度やスピードへの慎重な見方も増えつつあり、感染第2波への警戒も根強い。加えて、米中対立も再びエスカレートしそうな気配だ。
ただ、FRBやトランプ政権の大胆かつ積極的な行動が市場心理を支えているようで、意外なほどに市場のセンチメントは強い。今週の市場はワクチン開発の話題が相場を突き動かした。ワクチン開発のモデルナ社が臨床試験の初期段階であるフェーズ1で有望な結果が出たとのニュースから市場は期待感で盛り上がった。しかし、これに対してワクチンの専門家からは冷静な見方も伝わっている。特効薬が終息に向けた何よりの解決策ではあるが、これについては世界中で開発合戦が繰り広げられており、この先も市場はそれらの開発に一喜一憂するものと思われる。簡単ではなく時間もかかりそうだが、いまのところ市場は期待感をもって見ており、ポジティブなニュースを待っている雰囲気もある。
一方、米中対立への警戒は根強くあり、トランプ大統領は「中国の無能さが世界中で大量殺りく引き起こした」と述べていた。市場の反応は限定的だったが、この先、米中摩擦が再びエスカレートし、市場に脅威を与える可能性は常にリスクとして留意される。そのような中、今回の新型ウイルス感染で、サプライチェーンからの脱中国が話題となり始めているようだ。
NY連銀のエコノミストのレポートによると、米企業による中国からの3月の輸入額は1月から50%以上減少したとしている。米企業による中国からの輸入額の国別シェアも大きく低下し、他のアジア諸国へのシフトが見られたと指摘している。
繊維と靴を例にとってみると、繊維については、1月時点の中国のシェアは26.8%だったが、3月時点では14.1%に低下した。それに対して、インドが6.9%から11.1%、バングラデシュが5.3%から6.3%のそれぞれ上昇している。靴については、1月時点の中国のシェアは45.5%だったが、3月時点では26.0%となった。それに対して、ベトナムは25.3%から35.0%、インドネシアが8.0%から13.9%にそれぞれ上昇した。
ただし、企業規模別でみると傾向は違っていて、大半の米大企業は他国にシフトできなかった一方で、米中堅企業は、他のアジア諸国へのシフトを加速させたようだ。月間の輸入額が100万ドル未満の米業者における中国のシェアは、1月の60%から3月には53%に低下した一方、月間1000万ドル超を輸入する米業者は逆に若干増加している。すでに中国以外の国と関係が構築できている米中小企業は中国からのリスク分散を加速できたのではと分析している。小さいだけにフットワークが軽いといったところであろうか。なお、上記データにはデカルト・システムズ社が提供するサプライチェーン管理のデータが使用されている。
同エコノミストは、米企業は従来からの米中貿易摩擦に加えて、今回の危機をきっかけに、中国に依存していたサプライチェーンを米国に戻すか、もしくは、他国へのリスク分散を加速させる可能性があると指摘している。通常時のサプライチェーンの効率は低下するが、混乱による高コストは軽減でき、長期的にはパフォーマンスが向上する可能性があるという。
その動きがこの先にトレンドになる場合、雇用も含めて中国経済への影響は気掛かりなところではある。いまはなぜか鳴りを潜めているが、従来からの中国の経済およびクレジットの問題は、この先も爆弾として残っている。
さて来週だが、月末の週になるが、期待と不安感の押し問答が来週も続くのかもしれない。今週は期待が少し上回っていたようだが、来週はどうかわからない。悪材料としては米中対立が挙げられるが、前日から開催されている中国の全国人民代表大会(全人代)では、香港法制度の整備および改善、さらに安全保障を確保するための執行制度が議題に盛り込まれ、国家安全法が28日に採決が行われる見通しだと伝わっている。国家安全法が成立すれば、香港での反発を抑制する中国政府の取り組みが大幅に強化されることになる。
米国側もけん制を入れようとしており、トランプ大統領は香港に関して適切な時期に声明を発表すると述べているほか、米上院議員らが香港を巡り中国に制裁を科す法案を提出するとも伝わっている。香港を巡って米中対立が更にエスカレートするようであれば、市場もネガティブな反応を見せる可能性も留意される。
ただ、ドル円についてはドルと円の方向感が同じであることから、107円台での膠着した動きがまだ、続く可能性もありそうだ。想定レンジとしては106.00~108.00円とする。スタンスは「やや弱気」から「中立」に変更したい。
()は前週
◆ドル円(USD/JPY)
中期 下から中立へトレンド変化
短期 ↑(→)
◆ユーロ円(EUR/JPY)
中期 中立継続
短期 ↑↑(↑↑)
◆ポンド円(GBP/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓(↓)
◆豪ドル円(AUD/JPY)
中期 上げトレンド継続
短期 ↑↑(↑↑)
◆ユーロドル(EUR/USD)
中期 中立継続
短期 →(→)
◆ポンドドル(GBP/USD)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓(↓↓)
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次回の配信は6月6日(土)の午前を予定しています。
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MINKABU PRESS編集部 野沢卓美
ただ、FRBやトランプ政権の大胆かつ積極的な行動が市場心理を支えているようで、意外なほどに市場のセンチメントは強い。今週の市場はワクチン開発の話題が相場を突き動かした。ワクチン開発のモデルナ社が臨床試験の初期段階であるフェーズ1で有望な結果が出たとのニュースから市場は期待感で盛り上がった。しかし、これに対してワクチンの専門家からは冷静な見方も伝わっている。特効薬が終息に向けた何よりの解決策ではあるが、これについては世界中で開発合戦が繰り広げられており、この先も市場はそれらの開発に一喜一憂するものと思われる。簡単ではなく時間もかかりそうだが、いまのところ市場は期待感をもって見ており、ポジティブなニュースを待っている雰囲気もある。
一方、米中対立への警戒は根強くあり、トランプ大統領は「中国の無能さが世界中で大量殺りく引き起こした」と述べていた。市場の反応は限定的だったが、この先、米中摩擦が再びエスカレートし、市場に脅威を与える可能性は常にリスクとして留意される。そのような中、今回の新型ウイルス感染で、サプライチェーンからの脱中国が話題となり始めているようだ。
NY連銀のエコノミストのレポートによると、米企業による中国からの3月の輸入額は1月から50%以上減少したとしている。米企業による中国からの輸入額の国別シェアも大きく低下し、他のアジア諸国へのシフトが見られたと指摘している。
繊維と靴を例にとってみると、繊維については、1月時点の中国のシェアは26.8%だったが、3月時点では14.1%に低下した。それに対して、インドが6.9%から11.1%、バングラデシュが5.3%から6.3%のそれぞれ上昇している。靴については、1月時点の中国のシェアは45.5%だったが、3月時点では26.0%となった。それに対して、ベトナムは25.3%から35.0%、インドネシアが8.0%から13.9%にそれぞれ上昇した。
ただし、企業規模別でみると傾向は違っていて、大半の米大企業は他国にシフトできなかった一方で、米中堅企業は、他のアジア諸国へのシフトを加速させたようだ。月間の輸入額が100万ドル未満の米業者における中国のシェアは、1月の60%から3月には53%に低下した一方、月間1000万ドル超を輸入する米業者は逆に若干増加している。すでに中国以外の国と関係が構築できている米中小企業は中国からのリスク分散を加速できたのではと分析している。小さいだけにフットワークが軽いといったところであろうか。なお、上記データにはデカルト・システムズ社が提供するサプライチェーン管理のデータが使用されている。
同エコノミストは、米企業は従来からの米中貿易摩擦に加えて、今回の危機をきっかけに、中国に依存していたサプライチェーンを米国に戻すか、もしくは、他国へのリスク分散を加速させる可能性があると指摘している。通常時のサプライチェーンの効率は低下するが、混乱による高コストは軽減でき、長期的にはパフォーマンスが向上する可能性があるという。
その動きがこの先にトレンドになる場合、雇用も含めて中国経済への影響は気掛かりなところではある。いまはなぜか鳴りを潜めているが、従来からの中国の経済およびクレジットの問題は、この先も爆弾として残っている。
さて来週だが、月末の週になるが、期待と不安感の押し問答が来週も続くのかもしれない。今週は期待が少し上回っていたようだが、来週はどうかわからない。悪材料としては米中対立が挙げられるが、前日から開催されている中国の全国人民代表大会(全人代)では、香港法制度の整備および改善、さらに安全保障を確保するための執行制度が議題に盛り込まれ、国家安全法が28日に採決が行われる見通しだと伝わっている。国家安全法が成立すれば、香港での反発を抑制する中国政府の取り組みが大幅に強化されることになる。
米国側もけん制を入れようとしており、トランプ大統領は香港に関して適切な時期に声明を発表すると述べているほか、米上院議員らが香港を巡り中国に制裁を科す法案を提出するとも伝わっている。香港を巡って米中対立が更にエスカレートするようであれば、市場もネガティブな反応を見せる可能性も留意される。
ただ、ドル円についてはドルと円の方向感が同じであることから、107円台での膠着した動きがまだ、続く可能性もありそうだ。想定レンジとしては106.00~108.00円とする。スタンスは「やや弱気」から「中立」に変更したい。
()は前週
◆ドル円(USD/JPY)
中期 下から中立へトレンド変化
短期 ↑(→)
◆ユーロ円(EUR/JPY)
中期 中立継続
短期 ↑↑(↑↑)
◆ポンド円(GBP/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓(↓)
◆豪ドル円(AUD/JPY)
中期 上げトレンド継続
短期 ↑↑(↑↑)
◆ユーロドル(EUR/USD)
中期 中立継続
短期 →(→)
◆ポンドドル(GBP/USD)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓(↓↓)
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次回の配信は6月6日(土)の午前を予定しています。
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MINKABU PRESS編集部 野沢卓美
このニュースはみんかぶ(FX/為替)から転載しています。
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