ベーシックレポートを書くアナリストとIRの関わり

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最新投稿日時:2019/01/28 15:01 - 「ベーシックレポートを書くアナリストとIRの関わり」(みんかぶ株式コラム)

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ベーシックレポートを書くアナリストとIRの関わり

著者:鈴木 行生
投稿:2019/01/28 15:01

・ベーシックレポートは誰が読むのか。長いレポートを書いても、機関投資家は忙しいので読まない。よって、エッセンスをまとめた1枚でよい、という意見が出るかもしれない。確かに、要約の1枚は重要である。何が新しいのか、何が本質であるのか、今後の注目点はどこかをまとめておくことは必要である。
 
・しかし、ベーシックレポートは読まれない、というのは先入観であろう。しっかりしたレポートが出れば、関心ある機関投資家は必ず目を通すようになる。その分析内容を知っておきたいと思うからである。自分にない視点や材料があるかもしれないと確認したくなる。よって、一気通貫のレポートがよい。フォローアップレポートはいらないくらいである。
 
・大事なことは、レポートのオリジナリティはどこにあるのか、という点である。アナリストレポートは、投資アイディアの提供が最も重要なことである。しかし、株式マーケット、業界や企業を調べて、まだ誰も知らず、そのアナリストだけが発明発見した知見というようなアイディアはめったにない。
 
・めったにないなら、そういう新しい知見を見出した時だけレポートを出せばよいといわれるかもしれないが、そうではない。すでに知られている知見でも、どのように編集するかによって価値は変わってくる。

・アナリストは企業価値を評価する。企業は日々変化している。連続しているようで、時折不連続な変局点に遭遇する。価値創造のしくみであるビジネスモデルがいい方向に進化するのか、悪い方向に退化するのか、ある時ビリっとくることがある。
 
・ここを押さえるには、公開情報を丹念に見ていくと同時に、さまざまな現場(R&D、工場、店舗、取引先、顧客、海外)に出かけて単刀直入に議論することである。秘密の情報をとるわけではない。ビジネスモデルを支える活動の実態を分析するのである。
 
・ベーシックレポートが出れば、会社の社長は必ず目を通すはずである。アナリストの分析をみて、1)よくまとめた、2)まだ不十分、3)分かってもらっていないところがある、4)誤解がある、5)間違いがある、6)見方に偏りがある、7)経営に役立つ新しい分析がある、などさまざまな反応があろう。ここから会社側とは次の議論を継続すればよい。
 
・会社の中身については、ほとんどの場合、会社の方が詳しい。この点では、教えてもらう事が多い。但し、分析を通して、比較が入り、予測が入る。そうすると、将来展望について会社サイドと五分に議論できる土俵に乗ることができよう。これは、ベテランでなくてもできる。経験3年の若手アナリストでも、本気でベーシックレポートに取り組めば十分可能となろう。ここがアナリストの醍醐味である。
 
・このように、アナリストの活動は、ベーシックレポートを軸とすることで、投資家にとっては、必ず確認したくなる投資判断の材料提供者となる。同時に、企業にとっては、わが社を最も分かってくれながら、投資家の視点で意見を言ってくれる存在になりうる。IR部門はそれをつなぐ窓口であるから、こうしたアナリストは大事にしたくなろう。

・アナリストは多様である。従来型のセクターアナリストから、今やファンドアナリスト、ESGアナリストへとどんどん広がりをみせている。ファンドアナリストとは、ファンドを1つの会社とみたてれば、そのポートフォリオの特徴を抽出し、過去の実績を支える運用能力を分析して、その将来性を評価する。ESGアナリストは、企業のESGにフォーカスして、中長期の観点から価値創造のサステナビリティ(持続性)を評価する。
 
・企業は分類上1つのセクターに属していても、展開している事業は多面的である。当面の稼ぎ頭が今のセクターにあるとしても、別の事業にも手を広げているので、セクターで捉えきれなくなる。すでに本業が今のセクターからはみ出ている会社も多く、一業種一社のように既存のセクターに入りきらない会社もある。
 
・中小型株のアナリストは、カバレッジの広がりから特定のセクターに絞り込むことなく、いくつものセクターにまたがって、幅広く担当している。若い時にはセクターローテーションを経験した方がよいが、プロの世界ではそういう訳にもいかない。

・中小型企業の担当でいくつかのセクターに視野を広げるという経験は有益である。しかし、中小型企業はトップの経営力が直接会社に及ぶので、経験のあるアナリストの目利き力を活かさないと、本物の価値を見抜く事は難しい面もある。
 
・セクターの広がりを出すには、担当している企業の事業ポートフォリオの周辺部分にも突っ込んでいくことである。新規参入の分野、異業種との競合分野、ベンチャー企業とのオープンイノベーションなど、いくらでもチャンスはある。
 
・では、アナリストとファンドマネジャーの違いはどこにあるのか。基礎を身につければ、アナリストは誰にでもできる。その意味では、若い時にキャリアディベロプメントの一環として1度経験しておくことは、その後のキャリアに大いに役立とう。
 
・その応用キャリアの1つがファンドマネジャーである、アナリストの基礎の上に、ファンドマネジャーにはポートフォリオマネジメントの能力が必要である。ポートフォリオマネジメントにも基礎と応用があり、応用になるほど才能が問われる。
 
・アナリストの素養は3年あれば身につけることができる。5年あれば一流になれるかどうかの手前まで行くことができよう。そのための訓練も方策も分かっている。では、ファンドマネジャーはどうか。一流になるはどのような素養を磨けばよいか。

・ある有能なファンドマネジャーは、5年間運用させてトラックレコードをみれば分かると言った。そうではなく、潜在能力を見抜きたいのだが、応用力が問われるので事前にはなかなか分かりにくいということであろう。
 
・両者の共通することは、1)突き詰めと、2)閃きである。ものごとを突き詰めて調べ考えていく。時間をかければよいというものはないが、徹底して調べることが基本である。その中から仮説が生まれ、その仮説が実現する蓋然性が閃いてくるかどうかである。
 
・このプロセスをどのように展開するのか。それは企業とのエンゲージメント(対話)に最大のヒントがある。何も秘密情報を人より早くとってくることではない。将来に対して、仮説を立て、疑問点について企業のIR部門と議論していく。

・そこで企業サイドがとるべき戦略や方策について、議論が深まっていく。そうすると仮説について、その実現の可能性について確信度(主観確率)が高まってくる。この時が最もおもしろいといえよう。
 

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配信元: みんかぶ株式コラム

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