上海でのエピソード~女主人の問い

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最新投稿日時:2018/10/01 15:51 - 「上海でのエピソード~女主人の問い」(みんかぶ株式コラム)

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上海でのエピソード~女主人の問い

著者:鈴木 行生
投稿:2018/10/01 15:51

・9月に上海と蘇州を訪問した。普通にみれば観光であるが、私にとっては調査である。現地の企業を取材したわけではなく、街を歩いて肌で感じることが主眼であった。

・上海に初めて行ったのは35年前であった。戦前の建物があるだけで新しい高層ビルは1つもなかった。以来、何度も訪れている。現在の上海は都市としてはほぼ出来上がってきた。地下鉄は17路線走っており、あと3本が建設中である。どこに行くにも便利で早い。

・TKPの社外取締役をしている辻氏(元シャープ社長)と話した時に、すぐに上海に行って街を歩いてこいと言われた。変化のスピードを体感せよという意味であった。現在レポートを書いている企業をみても、中国とのつながりは日々話題になっている。

・ある企業は、システム開発の拠点を上海と南京に置いており、プログラミングを行っている。最近、上海には開発機能も持たせつつある。

・スマホを加工する部材を輸出している企業では、中国現地企業の製品精度が上がっており、それに伴って日本製がどんどん採用されている。

・日本で使われるビタミンC(飲料、食品、医薬品用)はほとんど中国産であるが、環境規制が厳しくなって、供給力が制約となっている。需給面から市況も上がっている。

・医薬品の製造においても、品質の向上に取り組もうという動きが強まっており、製剤機械や医薬品添加剤の需要が高まっている。日本の品質のよさが活きるようになりつつある。

・インバウンドの訪日客は帰国しても日本の商品を手に入れようとする。ネット通販の道もかなり広がる可能性がある。

・ある企業は、均一価格ショップを上海などに直営で展開してみたが、上手くいかない。直営は難しいので、卸売りに徹して、現地企業が均一価格ショップを運営する方向にビジネスを変えた。

・また、大きなテーマとしては、1)米中貿易摩擦の行方、2)中国でのフィンテックの急速な進行、3)中国主導の一帯一路の行方なども注目されている。そんな中で、街を歩いて、会話をして感じた点をいくつか取り上げてみたい。

・話には聞いていたが、どこに行ってもスマホでのQR決済が普通に行われている。小さい店舗や施設ではクレジットカードが使えないので、中国でのQR対応ができていない筆者は現金を使うしかなかった。

・蘇州駅で高速鉄道(CHR)の切符を買った時は、窓口で現金(60元)を使ったのは私だけであった。窓口ではQR決済がほとんどで、クレジットカードは使えない。もちろん、窓口でない自動券売機では、英語、クレジットカードでの対応ができるようになっているが、必ずしも十分ではない。

・中国四大庭園の代表である拙政園(世界遺産)の入り口には、自動券売機が数多く並んでいた。しかし、外国人はID認証の点で使えず、現金で支払うしかなかった。

・上海のホテルは、川(黄浦江)のそば、戦前の租界地である外灘(ワイタン)地区にある和平飯店(Fairmont Peace Hotel)に泊まった。1929年に建てられた古いビルである。このホテルの近くにある地元で人気の中華レストランにたまたま入った。

・大賑わいである。メニューに日本語も書いてあるが、日本人客はいなかった。日本語を話す中国人女性がメニューをもってきたが、あとの対応は中国語であった。食事が終った頃、彼女がやってきて、そこから話が始まった。彼女はこの店の女主人であった。次々に質問を受けたが、主な話題は3つであった。

・1つは、上海の変化のスピードはどうか。3年前とは大きく変わっており、変化のスピードは速い。QRはこの3年で一気に普及した。でも、彼女の意見は少し違う。上海の変化のスピードは落ちている。一方で人件費と家賃は上がっている。このペースでは、いずれこの店もやっていけなくなる。

・上海で働く人はお金にしか目がない。自分の能力を高めるよりも、金をくれるところに動いていく。この店でも、料理人や店員をいかに確保して定着させるかが難しい。家賃が上がっていくので、このままでは経営は苦しくなる。

・どうすればよいか。私は、月並みであるが、差別化と高付加価値化しかないと答えた。彼女は、今土地を探しているという。自分の土地に店を建てれば家賃問題はなくなり、土地も値上がりする。

・2つ目は、上海の不動産である。上海も含めて、中国の不動産はバブル状態にあるとみている。そこからみると、日本の土地はとにかく安くみえる。中国人が日本を買いにくるのは当然であるという。

・まず、地価は本当にバブルなのか。不動産を買って、誰も住んだり、使ったりしていないのに、いずれ転売益だけを狙っていれば、それは本当のバブルである。どうかと聞くと、その傾向がかなり強いという。銀行も前のようには金を貸さなくなっている。

・その中で、金を借りて土地を購入しようとしている。さてどうするのか。バブルはいつはじけるか。それは当局の金融政策にもよるが、失敗するようなドラステックな引き締めはやらない。でも、もしバブルがはじけたら、不動産の価格は半値以下になる。その時においても、借金を返せるようにビジネスの範囲を捉えておく必要があると話した。

・3つ目は店の経営をどうするのか。同じスペースで売上を2倍にすることである。それには3階建てにして、1階は今の繁盛店をキープする。2階を少し高額にしてよいレストランにする。3階は個室中心にして、特別な客を入れるようにする、とアドバイスした。別に新しいことではないが、売上が2倍になるなら大いに結構と笑っていた。

・決め手は味だが、ここは美味しい。材料を吟味し、手抜きをしないで、きちんとやっているという。私が、前日食べたホテルの中華と同じレベルで美味しいと言ったら、泊まっている和平飯店の料理長がよくランチを食べに来る、という答えであった。なるほど、おもしろい。

・上海の成長はすでに鈍化している。商業金融都市としては、かなり出来上がっている。すでに地方都市の方が、相対的に高い伸びとなっている。新聞をみていたら、蘇州(スージョウ)と上海を地下鉄で繋いでしまおうという話が出ていた。高速鉄道で30分の距離だから、沿線開発も含めて、スプロール化させようという展開であろう。

・日本は、中国のスピードにはついていけない。これはもう仕方が無い。スピードではないところで個性を発揮し、差別化していくしかないと感じる。産業、企業としてもここを追求するしかない。

・世界における日本の相対的存在感は、国全体としては低下していくが、光る企業はこれからも出てこよう。国としては、ディザスター(大災害)ショックに負けず、観光立国としてやっていけるだけのインフラのサステナビリティを確保していくことが最も重要であろう。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

配信元: みんかぶ株式コラム

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